下肢静脈瘤の医療用接着剤による血管内閉塞術(グルー治療)

医療用接着剤による血管内閉塞術(グルー治療)とは

「グルー(glue)」とは接着剤のことを意味し、「グルー治療」とは医療用の瞬間接接着剤を用いて病的な血管を処理する治療のことになります。下肢静脈瘤に対するグルー治療では、下肢静脈瘤の根本原因である壊れた大伏在静脈や小伏在静脈に、カテーテルを介して医療用グルーを注入し血管内を瞬時に閉塞させることで病的な逆流を消滅させます。それにより血行が正常化して静脈瘤が消えていくのです。広範囲の局所麻酔が不要で治療中に血管内に熱も発生させないので、下肢静脈瘤の低侵襲治療として国際的に普及しているレーザーや高周波を用いた血管内焼灼術よりも、さらに体に負担がかからない治療と言えます。欧米では、下肢静脈瘤の最先端治療として大変注目され、2015年あたりから急速に普及しました。

一般的に瞬間接着剤としては「シアノアクリレート」が用いられます。 医療用に用いられる瞬間接着剤もシアノアクリレートを基本骨格に持つため、グルー治療は、下肢静脈瘤の教科書ではCAE(cyanoacrylate embolization:シアノアクリレートによる血管閉塞栓術)もしくはCAC(cyanoacrylate closure: シアノアクリレートによる血管内治療)と表現されています。医療用のシアノアクリレートには、「NBCA(nブチルシアノアクリレート)」と「OCA(オクチルシアノアクリレート)」があります。両者の混合型である「OBCA(オクチブチルシアノアクリレート)」もありますが、血管内治療に用いられるのは、一般的にはNBCAとOCAのみです。

現在グルー治療という呼び名はイメージがしやすいので一般的な治療名として普及していますが、本治療がまだ普及していなかった2014年頃に国内でいち早くグルー治療の導入を検討した北青山D.CLINICでは、本治療のことを、静脈(Vein)が閉じる(close)ことから「Venoclose(ベノクローズ)」と命名していました。現在この治療キットを販売する機器メーカーは、Venasheal(ベナシール)、Variclose(バリクローズ)などの治療名を使用しており、日本では前者が保険適応となっています。


医療用接着剤による血管内閉塞術(グルー治療)の特徴として特筆すべきなのは、広範囲の麻酔が不要で、手術後にタイトなストッキングの着用が不要(静脈瘤が大きい場合は1~2日程度着用を勧める場合もあります)なことです。また、レーザーや高周波のように血管内に熱を発生させないので、神経障害などの合併症の発生頻度や程度がより小さくなります。血管内治療として先に台頭したレーザーや高周波に比べて、以上のような優位点をもつことから、グルー治療はその特徴を象徴して「NTNT(Non Thermal Non Tumescent: 発熱が無く広範囲麻酔も無い)」と呼ばれることもあります。それに対して、レーザーや高周波は「TT(Thermal Tumescent)」と呼ばれています。

グルー治療の弱点は、体にとっては異物を注入することになるのでアレルギー反応や感染を起こすリスクが避けられないこと、枝が目立つ静脈瘤や複雑なタイプの静脈瘤に対しては、本幹に対するグルー治療単体で治療が完結しないため、結果として硬化療法などの追加治療が必要になり、麻酔範囲が少なく弾性ストッキング着用負担がないというグルー治療のもつメリットが帳消しになる場合があることです。レーザーや高周波治療に比べて治療費負担が若干大きいこともデメリットです。

メリット

  • TLA麻酔(広範囲の局所麻酔)が不要なので手術時の負担が軽減されます。
  • 手術後に弾性ストッキングを着用する必要が原則としてありません。
  • 皮下出血や神経障害のリスクが血管内焼灼術よりも小さくなります。
  • 高周波による血管内焼灼術と比較した複数の試験で治療成績は良好です。

デメリット

  • レーザーや高周波治療に比べて長期成績報告がありません。
  • 巨大な静脈瘤や蛇行が激しく複雑なタイプの静脈瘤には不向きです。
  • シアノアクリレート系接着剤に対してアレルギーのある方は本治療禁忌になります。
  • 蜂窩織炎合併例、感染を伴う潰瘍例、全身性炎症性疾患や自己免疫性疾患、アレルギー、シックハウス症候群の既往、まつ毛エクステンションや人工爪の施術者などは、治療後に感染やアレルギーのリスクがあり本治療は勧められません。
  • 保険診療の血管内レーザー/高周波治療に比べて費用が高くなります。

血管内閉塞術(グルー治療)に対する北青山D.CLINICの評価と対策

NBCAなどの医療用接着剤を用いた治療は、脳動静脈奇形に対する塞栓術としてFDA(米国食品医薬品局)に承認され、1万例を超える使用実績があります。最近では胃食道静脈瘤に対する血管塞栓材としても国際的に広く用いられ、この治療は日本でも保険適用になっています。

脳や胃食道の血管内治療で問題ない実績が積まれていることから、医療用接着剤(NBCA、OCA)を用いた血管塞栓術は下肢静脈瘤の治療にも応用されるようになりました。現在標準手術である血管内焼灼術と比べて、体に与えるダメージが少ないのに治療効果は同等であると報告されています。グルー治療で用いられるNBCAやOCAは、無臭無毒、化学的に安定しており、有毒物質を発生することは無く発がん性もありません。

北青山D.CLINICでは、欧米で着手され出した2014年頃からグルー治療について情報を収集し、この治療により安全に良好な治療成績が得られたという論文報告が多数発表されたことを確認して、2016年後半より着手しました。当院で初めてグルー治療を受けたのは、当院に勤務している看護師です。治療直後から仕事に復帰し、その経過を毎日確認することができましたが全く問題なく仕事と日常生活を送っています。ただし、比較的単純で枝が少ないタイプの静脈瘤治療に対しては、グルー治療はレーザーや高周波治療に比べて利点が多いと言えますが、蛇行が強く枝が多い静脈瘤や重症例に対しては、レーザー治療の方が応用が利き治療合理性が大きいことから、北青山D.CLINICでは静脈瘤の特性等に応じて最も適切な治療法のご案内に努めています。

参照元

  • Vasa. 2016;45(3):241-6.
    N-butyl cyanoacrylate in the treatment of venous insufficiency--the effect of embolisation with ablative polymerisation.
  • Surg Forum. 2016 Jun 20;19(3):E118-22.
    Early-Term Outcomes for Treatment of Saphenous Vein Insufficiency with N-Butyl Cyanoacrylate: A Novel, Non-Thermal, and
    Non-Tumescent Percutaneous
    Embolization Technique.
  • Phlebology. 2016 Mar 27.
    A new non-tumescent endovenous ablation method for varicose vein treatment: Early results of N-butyl cyanoacrylate (VariClose®)
  • Ann Vasc Surg. 2016 Oct;36:231-235.
    Nonthermal, Nontumescent Endovenous Treatment of Varicose Veins.
  • Phlebology. 2016 Mar;31(1 Suppl):106-13.
    A prospective comparison of a new cyanoacrylate glue and laser ablation for the treatment of venous insufficiency.
  • J Vasc Surg. 2015 Apr;61(4):985-94.
    Randomized trial comparing cyanoacrylate embolization and radiofrequency ablation for incompetent great saphenous veins (VeClose).
  • Phlebology. 2016 Apr 6.
    Cyanoacrylate glue used to treat great saphenous reflux: Measures of outcome.
  • Vascular. 2016 May 20. pii: 1708538116651014.
    Cyanoacrylate closure of incompetent great, small and accessory saphenous veins without the use of post-procedure compression:
    Initial outcomes of a post-market evaluation of the VenaSeal System (the WAVES Study).
  • 下肢静脈瘤に対する血管内レーザー焼灼術 (特集 下肢静脈瘤の手術)
    手術 = Operation 72(5), 723-735, 2018-04 金原出版

下肢静脈瘤に関する海外の論文

監修医師

 監修医師  北青山D.CLINIC院長 
阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴
所属学会