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再生医療(自家脂肪由来間葉系幹細胞治療)のリスク及び安全管理体制についてregenerative-medicine

2025年8月29日、厚生労働省より他医療機関での再生医療(自己由来間葉系幹細胞点滴投与)における死亡事案について公式リリースがありました。不幸にもお亡くなりなられた患者さん及びご遺族の皆さまに心より哀悼の意を表します。

さまざまな再生医療技術の中で自己由来間葉系幹細胞の投与は、適切な手法に基づいて実施される限り、極めて安全な治療法と評価されています。しかし、たとえそれが例外的なものであっても、この度、当該治療による死亡事故が発生したことで、その安全性について多くの方がご不安を抱いていることと存じます。当院においては、今まで2,000件を超える自己由来間葉系幹細胞治療に取り組んできた中で命に関わる重篤な有害事象を招いた経験はありませんが、今回の事案を真摯に受け止め、皆様に誤解なく再生医療をご理解いただけるように、その現実的なリスクと治療の安全性及び可能性についてご説明いたします。

現実的なリスク(有害事象)

ご自身の間葉系幹細胞を培養増殖して、それを自分自身に投与する再生医療は、本来、非常に安全性が高い治療と言えます。ご自身の細胞を用いるので、アレルギーや拒絶反応のリスクはまずありません。しかし、身体に何らかのアプローチをする医療行為である以上ゼロリスクとは言えず、下記の有害事象を念頭に置く必要があります。

  1. 肺塞栓

    点滴投与された細胞自体、もしくは投与された細胞の刺激により血管内に発生した血栓が、肺動脈を塞栓する(詰まらせる)ことにより発生します。万が一発生した場合には命に関わることがあります。発生原因として挙げられるのは、投与細胞の中に死滅損傷した細胞の塊(凝集塊)が混入していた、そもそも肺血栓症の状況にあったところ投与された細胞により大量の血栓化が一気に誘発された、もしくは点滴速度が速すぎて血管内細胞密度が急激に高まり血栓形成が促された、などです。いったん発症すると重篤な事態を招き得る偶発症ですが、適切に培養された細胞を、新鮮な状態で(劣化させずに)、適切な速度で点滴投与すれば発生する可能性は極めて低い偶発症です。

    私共は、細胞培養室(CPC)を医療機関に併設(隣接)し、極めて新鮮な状態の細胞の投与が可能な環境を構築しています。投与において点滴速度を適切に保つことは勿論のこと、治療中に肺が良好に機能していることを確認するために血中酸素飽和度をモニタリングし、血栓形成を招かないように抗凝固製剤を原則として併用しています。

  2. アナフィラキシーショック・アレルギー反応

    極めて稀ですが、細胞に付着していた培養液由来のタンパク質、あるいは細胞を溶かしている点滴製剤に対して重篤なアレルギー反応(アナフィラキシーショック)を起こす可能性はあります。これは体内に何らかの薬剤を投与する全ての医療行為において生じ得るものですが、適切な治療薬の確保や循環・呼吸動態を管理できる医療体制が整っていれば重篤な事故につながることはまずありません。当院では、万が一アナフィラキシーショックが生じた場合にその対処に必要な製剤や管理体制を確保して重篤化を招かないよう配慮しています。

  3. その他の軽度な副作用

    脂肪採取部位の内出血や疼痛、点滴部位の内出血やしびれ、また一時的な軽い発熱などが見られることがあります。これらは通常、一過性のもので重篤化することはまずありません。

治療の安全性・可能性

本来、自己由来間葉系幹細胞を用いた再生医療は安全で満足度の大きい治療です。今回の事案は、特定のクリニックの管理体制や運営方法の問題に起因する可能性が大きく、再生医療という治療法そのものが否定されるべきではありません。

  1. 法令管理と厳格な管理体制

    再生医療は、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」に則って実施されることが前提です。

    • ・治療を行う医療機関は、厚労省から資格付与された特定認定再生医療等委員会により治療提供計画の審議を受け許認可を得る義務があります。
    • ・細胞の培養・加工を行う施設(CPC)は、国の基準を満たした高度な品質管理体制が求められます。
  2. 自己細胞利用による高い安全性

    現在、臨床で提供される脂肪由来間葉系幹細胞治療は、ご自身の体から採取した細胞を使用する「自家細胞移植」が基本です。他人の細胞を使う場合に懸念される免疫拒絶反応や感染症伝播のリスクは極めて低く、それが安全性の根幹を成しています。自家細胞を投与することによる弊害はまずありません。強いて注意点を挙げるとすれば、仮に体内に活動性のがん細胞が存在していた際には、投与した幹細胞が免疫制御によりがんの増大を抑えるのか、もしくはがんに利用されるのかが解明されていません。活動性のがん細胞の存在が明らかな場合は幹細胞投与を控えるべきです。

  3. 幹細胞が持つ根本的なメリット

    間葉系幹細胞は、再生・修復・抗炎症・免疫調整など多岐にわたる働きを持ち、以下のような効果が期待され、多くの患者さんの満足度向上に寄与しています。

    • ・組織の修復: 損傷した組織や細胞の再生を促す。
    • ・疼痛の緩和: 炎症を抑え、慢性的な痛みを改善に導く可能性がある。
    • ・機能の改善: 難治性の疾患や老化に伴う機能低下に対する改善効果が期待される。

当院の再生医療のリスク管理

  1. 特定認定再生医療等委員会を設立

    当院では、「北青山D.CLINIC特定認定再生医療等委員会」を設立し、治療経過報告や新規治療提供計画の審議が迅速に行える体制を保持しています。「再生医療等提供計画」が厚生労働省に受理された後、その内容を厚労省サイトで公開するといった法的プロセスを順守しています。治療対象として許可を受けた、加齢に伴う機能低下、慢性疼痛(関節痛・腰痛)、認知機能低下、動脈硬化、心不全など、複数の障害や疾患に対して適切かつ安全な治療法の提供に努めています。

  2. 医療施設に2つの細胞培養室(CPC)を併設し一貫した品質管理体制

    当院では、2018年に院内に設立したCPC(施設番号:FC3210045)に加えて、2025年9月に新設したCPC(施設番号:FA3250001)についても特定細胞加工物製造許可を取得し、CPC二重化の体制を確保しています。細胞採取・培養・品質確認・保管・投与までを同一医療機関内で完結できる環境を整えており、脂肪から幹細胞の遊離及び培養細胞の回収・投与のいずれにおいてもその一連の作業を迅速に行うことができるため、細胞の劣化や老化が最小限に抑えた高品質の治療の提供が可能となっています。

  3. 有害事象発症リスクに対する適切な投与とモニタリング等を徹底

    幹細胞投与時に理論的に極めてまれに発症し得る血栓症(肺塞栓症等)やアナフィラキシーを安全に管理するために以下を徹底しています。

    • ・細胞の投与密度、投与速度の至適化
    • ・適宜抗凝固療法併用
    • ・治療中の血中酸素飽和度、循環動態のモニタリング
    • ・救急対応に必要な医療環境の完備
    • ・緊急時の医療連携体制の整備

当院の治療実績とこれまでの有害事象について

当院における2019年3月〜2025年8月までの再生医療(幹細胞治療)の実績は、経静脈投与(点滴)・経動脈カテーテル投与・局所注射・髄腔内投与を含めて 2,003件 にのぼります。この間、一過性の腰痛・下肢痛、軽度の発熱等の偶発症は確認されますが、重篤かつ補償対象となる有害事象はこれまで報告されていません。

また、再生医療は今までの医療常識では説明できない効果を発揮することがある一方で、すべての方に期待通りの治療効果が得られるものではないため、期待に沿う成果が得られないことがあります。

治療総数 2,003件(2019年3月~2025年8月)
治療継続率 80~90%(治療提供計画によって差異あり)

有害事象内訳

投与方法 有害事象 件数 発生率
髄腔内投与(300例中) 腰痛ないしは下肢痛(一過性) 15例 2%
痙攣(一過性) 1例 0.3%
くも膜嚢胞発生 1例 0.3%
経静脈投与(2000例中) 発熱(一過性) 1例 0.05%
血圧上昇(一過性) 1例 0.05%

患者さん・ご家族へのメッセージ

今回の事故報道により、再生医療全般にご不安を抱かれた方は少なくないことでしょう。当院では ①特定認定再生医療等委員会設立 ②医療機関内CPC併設による品質管理 ③至適治療法の選択 ④治療時のリスク管理徹底 ⑤実績と有害事象の開示などに努めており、治療の安全性と透明性を重視した医療提供を心がけています。

治療中の方、治療をご検討されている方、ご家族の皆さまからのご質問があれば、カウンセリングなどで丁寧にお答えいたします。医事課受付までお電話、メールなどでどうぞご遠慮なくお申し付けください。

電話:03-5411-3555
メール:uketsuke@dsurgery.com

北青山D.CLINIC
院長 阿保義久