下肢静脈瘤の血管内治療

血管内治療のすべて

血管内治療の歩み

ボコボコと膨らむ典型的な下肢静脈瘤(伏在型静脈瘤)に対する根治的な治療法として19世紀以降、ストリッピング手術が100年以上にわたって行われてきました。

21世紀になって、より体に負担の少ない低侵襲治療の血管内焼灼術(EVA : endovenous ablation)が発達してきました。EVAとして最初に行われたのは高周波(ラジオ波)による焼灼術(RFA: radiofrequency ablation)ですが、まもなく、レーザーによる血管内焼灼術(EVLA: endovenous laser ablation)が行われるようになりました。最初のRFAもEVLAも合併症や治療効果の点で従来の手術であるストリッピングに勝るものではなかったため、高周波やレーザー機器の改良が進められました。

その結果、2014年を過ぎる頃からRFAもEVLAもストリッピングに代わる下肢静脈瘤の標準治療として問題のないレベルまで進化しました。RFAは治療時間が短時間で済む、EVLAは重症例や複雑な静脈瘤にも応用できる、などそれぞれにメリットがあります。特に、EVLAは水吸収型の高波長(1470nm、2000nm)のレーザー機器やラディアルファイバーと呼ばれる360℃全方向に照射できるファイバーが一般的に使用できるようになり根治的治療機器としての完成度が高いと言えます。

当院で、高波長レーザーを使用した場合の治療満足度を調査した結果がこちら

一方で、RFAやEVLAの次の世代の治療法も台頭してきました。2013年以降、RFAやEVLAのように熱刺激で血管を収縮させるのではなく、化学薬剤により血管を閉塞させる血管内治療が欧米で開発されました。これらは、熱刺激がないことに加えて、処理血管周囲への広範囲の局所麻酔(TLA)が不要なため、NTNT (non-thermal non-tumescent)と表現されます。使用される代表的な薬剤はオクチルシアノアクリレートやnブチルシアノアクリレートなどの生体用の瞬間接着剤(医療用グル―)で、これらを用いた血管内治療(CAE: cyanoacrylate embolization、グル―治療orべノクローズ) は、胃食道静脈瘤や脳動静脈瘻などの治療に既に導入されていました。この最新の治療技術が下肢静脈瘤の治療に応用されたわけです。NTNTの中でも特にCAEは広範囲麻酔が不要なだけではなく術後の弾圧ストッキングを着用しなくてよい場合もあり、治療の負担がより軽減された治療法です。広範囲麻酔による内出血のリスク、弾圧ストッキングを履く負担、そして接触皮膚炎などのリスクが無くなるため、今後急速に普及が進む可能性があります。

当院でのベノクローズの治療満足度を調べた結果はこちら

NTNTには他に、ポリドカスクレロールなどの硬化剤に、機械的刺激を組み合わせたMOCA (mechanical occlusion chemically assisted ablation)に分類されるClariVein(クラリべイン)による治療法や、同じく硬化剤に静脈を閉鎖させるデバイスを付加したVBAS (V block-assisted sclerotherapy)などがあり治療選択肢が豊富です。

NTNTに対してRFAやEVLAは、TT(thermal tumescent)と表現されます。TTとほぼ同じ意味でEVTA(endovenous thermal ablation)という表現も用いられています。

血管内治療(EVA:endovenous ablation)の分類

血管内治療(EVA:endovenous ablation)の分類

代表的なEVAのメリットデメリット

EVLA(レーザー) RFA(高周波) CAE(ベノクローズ)
メリット 蛇行の強い静脈瘤、照射距離が短い静脈瘤や不全穿通枝など、複雑な症例でも対応可能。
中長期経過例の報告あり。
手術時間が比較的短い。操作が簡単なので医師の技術力にあまり左右されない。
照射にムラがない。
TLA麻酔が不要。
術後の弾圧ストッキングが不要な場合が多い。
特にnブチルシアノアクリレートを用いると治療時間が極めて短い。
デメリット TLA麻酔が必要。
術後弾性ストッキングの着用が原則必要。
TLA麻酔が必要。
術後弾性ストッキングの着用が原則必要。
照射距離の短い血管には適さない。
蛇行が強い静脈瘤や巨大な静脈瘤には適さない。
新しい治療のため中長期経過例が乏しい。

監修医師

 監修医師  北青山D.CLINIC院長 
阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴
所属学会