下肢静脈瘤の原因・発生メカニズムと予防法

目次

下肢静脈瘤とは(原因・症状)

足の静脈が瘤のように盛り上がる病気

下肢静脈瘤とは、下肢(かし)すなわち脚や足の表面を走行する静脈が、ぼこぼこと瘤(りゅう、こぶ)のように盛り上がったり、網目状やクモの巣状に青や赤の血管が浮き上がったりする疾患です。基本的には自然に回復することはなく時間と共に徐々に悪化しますが一般的に進行は緩徐です。しかし、重症化すると潰瘍や血栓症などが発生し、治療に難渋する場合があります。非常に多くの方に発症することが特徴で、40歳以上の10%前後、妊娠出産経験者の50%に発症するなどと報告されています。潜在的な方も含めると相当多数の患者人口になるようです。

見た目が気持ち悪い、温泉に行けない、短パンになれない、スカートがはけない、など患者さんの悩みは往々にして深刻なのですが、医療機関側ではあまり重視して取り上げてこなかった疾患とも言えます。

下肢静脈瘤の原因と発生メカニズム

原因~血液の還流が正常に働かなくなる

心臓から脚に送られた血液の還流が正常に行われなくなることで引き起こされます。血液還流が正常に働かなくなる原因を整理すると、以下のようになります。その他にも、肥満・背が高いといった体型や遺伝なども影響していたり、女性ホルモンの影響で血管硬度が柔らかく、瘤ができやすい状態にある妊娠・出産も原因となります。

  1. 下肢の筋肉が衰えている
  2. 呼吸が浅いため、胸腔内の陰圧状態が不十分である
  3. 腹腔内圧が上昇している
  4. 血液粘度が濃い(いわゆるドロドロ血)
  5. 長時間の逆流負荷(立ちっぱなし)や過度な運動により逆流防止弁が壊れる

どのように静脈瘤ができるのか?~逆流防止弁が壊れて、血管が拡張

血管壁の構造

動脈も静脈も、内腔側から内膜、中膜、外膜の三層構造となっています。内膜は、結合組織により支持された血管内皮細胞で構成され、その内腔表面は滑らかで薄い被膜となっており、スムーズな血液の流れを維持するとともに大きな分子が血管から拡散するのを抑える役目があります。次の層は、中膜で、コラーゲン繊維や平滑筋細胞で構成され、3つの層の中で最も厚く、血管の弾力性をつくっており、血管の弛緩・収縮に最も重要な部分です。最も外層である外膜は血管の動きを支配する神経や血管に栄養や酸素を供給する非常に小さな栄養血管が存在しています。

また、静脈は動脈と異なり、内腔に弁があり静的な流れが逆流を起こしにくい構造になっています。まさに、動脈の中では血液は動的に速く流れており、静脈内ではゆっくりと静的に流れています。静脈はその伸展性の大きさから、〝容量血管″とも表現でき体内を循環する血液のうち70-80%を含んでいます。

静脈が拡張する理由

基本的には動脈と静脈は同様の構造を有していますが、一般的には静脈は動脈に比べて内腔が大きく、中膜が薄いため、拡張しやすい特徴があります。静脈は、動脈同様、加齢とともに中膜の弾性線維が減少して血管壁の弾力性が低下し、平滑筋細胞の萎縮・変性に伴って膠原線維が増えて血管壁の硬度が上昇します。静脈は、血流が静的であり、逆流防止弁があるために血管内腔への刺激が動脈に比べて弱いのですが、四肢の筋肉が弱って還流ポンプ力が小さくなったり、重力の影響による逆流圧を長い間受けているうちに、血管内の血流圧により血管内膜や中膜が傷つき、修復されます。それが、繰り返される度に血管壁は厚くなり、そもそも進展しやすい血管壁は拡張していくと考えられます。女性ホルモンの一つである黄体ホルモンは、血管壁を柔軟にする性質があるため、妊娠などで黄体ホルモンの分泌が高まるとことさら静脈は進展しやすくなります。

静脈が拡張する理由

逆流防止弁が壊れて、血管が拡張してしまう

私たちの体は、常に心臓を中心に血液を循環させることによって、体中に酸素や栄養を供給しています。動脈を通じて心臓から足へ送り出された血液は、横になっているとき以外は重力の抵抗に逆らって心臓に戻ってくることになります。足の血液を心臓に戻す駆動力として横隔膜、肋間筋などの呼吸筋やふくらはぎの筋肉が非常に重要です。呼吸筋の作用により胸腔内が陰圧になると、下肢の血液が心臓の方へ引き上げられます。 そして、足に溜まった血液を心臓に戻すうえでより重要な働きをするのは、ふくらはぎの筋肉です。それは、ポンプの役割をして、心臓から送られてきた血液を心臓へ押し戻します。ふくらはぎの筋肉が第二の心臓と呼ばれる所以です。

しかし、ふくらはぎの筋力は常に一定の力で静脈血を押し戻し続けているわけではなく、押す止まるを繰り返しています。押し戻す力が止まる時、静脈血は、重力により足先の方へと下がろうとします。このとき静脈血が逆流しないよう防いでいるのが、静脈内部にある逆流防止弁です。下肢静脈瘤(かしじょうみゃくりゅう)は、この逆流防止弁が壊れて、正常に働かなくなったために起きる病気です。逆流防止弁が壊れることにより、血液の逆流が起き、血管が拡張します。拡張した血管は、足の表面に太く浮き出たり、瘤のように膨らんだりします。そのように下肢にできる瘤(こぶ)が下肢静脈瘤です。

逆流防止弁が壊れて、血管が拡張してしまう

そして、実際にこの症状が発生する際には、表面の静脈が深部静脈に流入する場所の逆流防止弁が壊れることがきっかけになりますが、その壊れやすい場所は決まっています。人が立った状態でじっとしているときには、筋肉ポンプはあまり働かず、血液が心臓に戻るスピードは遅くなります。しかし、心臓から送り出される血液は一定であるため、脚に多くの血液が溜まることになります(血液の鬱滞:うったい)。すると、静脈内の圧が上昇し、静脈も逆流防止弁に強い逆流圧がかかります。その負担が度重なると、弁は逆流圧に耐えきれず変形して、あいだに隙間ができ、血液の逆流が起こります。それが、進行すると弁は完全に壊れてしまい、逆流防止の機能を全く果たさなくなります(弁不全)。そうなると、血液は大量に逆流して、脚の下のほうに溜まり、血液をため込んだ血管が引き伸ばされて、静脈瘤が作られてしまうのです。

弁の状態の図

逆流防止弁が壊れやすい場所

下肢の静脈は、解剖学的に筋膜の奥の筋肉の中にある深部静脈と皮下を走行する表在静脈に分けられます。表在静脈は脚の付け根と膝の裏で深部静脈に合流します。他に表在と深部の静脈は穿通枝と呼ばれる筋肉を貫く短い血管によってもつながっています。

表在静脈には代表的な2つの系統があります。1つは、足首の内側から下肢、太股の内側を通って鼠径部(太股の付け根)で深部の大腿静脈に合流する大伏在静脈です。もう1つは、踵(かかと)の外側からふくらはぎの真ん中を通って、膝の裏で深部の膝窩(しつか)静脈に合流する小伏在静脈です。これら2つの静脈は、多くの枝によってつながっています。

血液の逆流を防ぐ弁の中で壊れやすいのは表在静脈と深部静脈の合流点で、特に脚の付け根と膝の裏にある合流点の2か所に弁不全が生じます。脚の付け根と膝の裏の他に弁が壊れやすい個所としては、不全穿通枝と呼ばれる表面の静脈と深部静脈のバイパス静脈の部分や、卵巣周囲の内臓の静脈などが挙げられます。

逆流防止弁が壊れやすい場所

下肢静脈瘤の症状

下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の症状
下肢静脈瘤の症状

人により症状はそれぞれ異なりますが、こむら返りや、足の各部位がだるい・重い・疲れる・ほてる・痛い・むくむ・かゆみ・色素沈着・潰瘍・皮膚炎等…の症状のある方は注意が必要です。

  • 外見上の問題

    治療に訪れる多くの方は、血管が浮き出て気持ちが悪い、スカートがはけないなどの外見上の問題を訴えます。

  • だるい、重い、疲れる、ほてる

    静脈瘤は、うっ血による静脈圧の上昇によって発生しますが、このうっ血(血液がよどんでたまること)により、これらの症状が作られます。

  • 痛い

    血液のうったいが進み、だるさ・重さがさらに進むと痛みとして感じられることがあります。

  • つる

    歩行時もしくは就寝中にこむら返りを起こすことがあります。血液循環が悪い証と言えます。

  • むくむ(浮腫)

    静脈圧が高くなってしまったために、血管内から水分が外へ染み出ることにより起きます。

  • かゆみ

    湿疹が伴うことも伴わないこともありますが、かゆみも静脈瘤の代表的な症状の一つです。

  • 皮膚炎、湿疹

    足首の周囲や静脈瘤の周囲に起きやすく、皮膚や皮下組織の栄養障害が進むと、皮下組織が繊維性変化を起こし硬くなります。

  • 色素沈着、潰瘍

    皮膚が弱く、静脈が拡張しているために何らかの刺激で皮膚、皮下に容易に出血を来します。血液の成分の中に含まれる色素が組織の中に沈着することがあります。また、皮膚が弱いために、傷ができやすく容易に潰瘍化します。皮膚の血液循環が悪いために、潰瘍は極めて治りにくく放置すると徐々に増大していきます。

下肢静脈瘤と紛らわしく誤解されやすい症状

下肢静脈瘤の典型的な症状である、足が疲れる、むくむ、つりやすい、しびれる、痛いなどの場合でも、椎間板ヘルニアや動脈硬化など、別の病気である場合もあります。具体的には次の通りです。

逆流防止弁が壊れて、血管が拡張してしまう

1. 腰椎椎間板ヘルニア

椎間板が本来おさまっているところからはみ出して、神経が刺激されることにより、しびれや痛みといった症状が脚に発生します。両脚が同時に症状を発生することは少なく、通常は片側のみの症状になります。

2. 閉塞性動脈硬化症

動脈硬化により足の動脈が狭くなったり、ふさがったりすることで、 末端組織の血行が悪くなり、しびれや冷え、足のつりや痛み、などの症状が発症します。

3. リンパ管炎

リンパの流れが悪くなることにより、下肢がむくみ、下肢の発熱、痛みが発生したりなど、下肢静脈瘤に似た症状が現れます。

4. 結節性紅斑

何もしなくても痛みを伴う紅班が、下肢に多発し、圧痛や倦怠感といった症状があります。

5. 慢性湿疹

皮膚に発疹が現れ、皮膚が厚ぼったくなったり、肌の色が汚い褐色になったりします。痒みも伴うことが多いようです。

6. 慢性色素性紫斑

比較的まれな症例ですが、かゆみ、色素沈着、炎症などといった症状が、下肢に出やすい特徴があります。

7. リベド血管炎

隆起はしませんが下肢に網目状などの皮班が生じ、痛みや潰瘍を伴い得ます。

8. 下腿筋膜ヘルニア

脆弱になってしまった足の筋膜(下腿筋膜)の内部が、瘤状に張り出すため、見た目が下肢静脈瘤と、よく似た状態になることがあります。

9. 皮膚潰瘍

長時間の立ち仕事の方に多く、下記の慢性静脈不全症と呼ばれる血行不全により、静脈瘤がなくても、皮膚硬化や色素沈着が起こり、悪化すると潰瘍を引き起こします。

10. 慢性静脈不全症

下腿の筋力低下などにより、静脈の還流障害が慢性化して、下肢に血液がうっ滞することによっておこり、症状は、下肢の腫れ、むくみ、痛み、しこり、湿疹、潰瘍、色素沈着など様々です。深部静脈血栓症の後遺症で静脈に狭窄が残ったり、バイパスとして新たに作られた血管が逆流をおこしたりすることも原因になります。

11. 深部静脈血栓症

いわゆるエコノミークラス症候群として注目を集めている症状です。肺梗塞や脳梗塞の原因になり得ます。静脈血栓症は全身の深部などのどの静脈にも起こり得ますが、その中でも下腿・大腿・骨盤内などの深部静脈で発症することが多いと言えます。

12. 先天性静脈瘤

下肢静脈瘤は、成人以降の発症がほとんどですが、子供の頃からあざや表在静脈が目立つ先天性静脈瘤の方もいます。先天性静脈瘤は、逆流圧が一般的には非常に強く、破たんする血管が複雑に発生し治療に難渋することが多いようです。ただし、必ず遺伝するものではありません。

下肢静脈瘤ができやすい人の特徴とは?

下肢静脈瘤は、近年、認知度は高くなってきましたが、皆に正しく理解されているとは言い難い血管疾患です。発症件数は、決して少ないものではありません。40歳以上の女性では、全体の約10%にあたる人に明らかな静脈瘤が認められるという報告が多数あります。 症状が軽いものまで含めると、30歳以上の男女では62%もの人に、静脈瘤が認められたという報告もあるのです。特になりやすい方が、女性(出産の経験がある方の割合が高い)、高齢の方、遺伝的な要因で親族に疾患経験者がいる方が発症しやすいと考えられます。また、激しいスポーツ(フルマラソン、サッカー)を日常的に行っている方、高身長である方なども多い傾向にあります。

下肢静脈瘤ができやすい人の特徴とは?

女性

相対的には男性よりも女性に多いといえます。その理由は、筋力が弱く血液の還流力が弱いことの他に、妊娠出産が下肢静脈瘤の発症要因になるからです。妊娠時に分泌される黄体ホルモンが血管をやわらかくするため、静脈瘤が発生しやすくなります。第一子よりも第二子、第三子と、出産経験の多い方のほうが発症率は高いようです。

女性

加齢

年をとって血管が弱くなると、逆流防止弁が壊れやすくなり、発生頻度が高くなります。

加齢

遺伝

親族に疾病経験者がいると、発生する頻度が高くなります。

遺伝

立ち仕事

教師、美容師、調理師、看護師、客室乗務員など、一日のほとんどを立ちっぱなしで過ごす「立ち仕事」をしている人にも、多く発症します。

立ち仕事

エコノミークラス症候群経験者

同じ状態での座りっぱなしも、発症の原因になります。エコノミークラス症候群の後遺症として下肢静脈瘤になる方もいます。

エコノミークラス症候群経験者

高身長

高身長で脚の長い方は血管が長い分、下肢静脈瘤の発症頻度が大きいようです。

マラソンランナー、サッカー選手

脚を激しく使うスポーツをしている方も、下肢静脈瘤になりやすいようです。

マラソンランナー、サッカー選手

下肢静脈瘤の種類

下肢静脈瘤は、血管が太く浮き出て「ぼこぼこ」と見えるタイプから、 皮膚の表面に網目状やクモの巣状に広がる細いタイプまで、いくつかの種類に分けられます。 どの静脈に逆流が起きているか、血管の太さや走行によって治療方法は大きく異なるため、 見た目だけでなく血管の構造を正確に評価することが重要です。

大伏在静脈瘤

下肢の静脈は深部静脈系と表在静脈系に分けられ、下肢の血流のほとんどは深部静脈を介して心臓に戻ります。下肢の血行の一割くらいを担う表在静脈が静脈瘤をつくります。足にある表在静脈の中で、最も高頻度に静脈瘤を形成するのが大伏在静脈です。大伏在静脈は足首の内側から上行して足の付け根で深部静脈に合流する表在静脈です。その本幹および主要分枝に発生するのが、大伏在静脈瘤です。発生部位は下腿から大腿部内側、下腿の外側、大腿部の背側になります。

大伏在静脈瘤

小伏在静脈瘤

小伏在静脈瘤は、大伏在静脈瘤に次いでよく見られる静脈瘤です。小伏在静脈はアキレス腱の外側から上行して膝の裏で深部静脈合流する表在静脈です。発生部位は大伏在静脈瘤と同様ですが、足首の後ろや膝の後ろになります。

小伏在静脈瘤

側枝静脈瘤(分枝静脈瘤)

伏在静脈本幹から枝分かれした静脈が拡張してできたものを言います。主に膝から下の部分に見られ、孤立性に発生することもあります。伏在静脈瘤よりやや細いのが特徴です。

側枝静脈瘤(分枝静脈瘤)

陰部静脈瘤

卵巣や子宮周囲の静脈から逆流してきた血液により作られる静脈瘤です。そのため、月経時などで卵巣や子宮への血行が増えると症状が強くなります。ボコボコとした蛇行血管が足の付け根から太ももの裏側を斜めに走って下腿まで広がる場合は、陰部静脈瘤の疑いがあります。

陰部静脈瘤

網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤

網目状静脈瘤は細い皮下静脈(径2~3㎜)が網目状に広がったものです。クモの巣状静脈瘤は、さらに細い真皮内静脈(径0.1~1㎜)が放射状に見える状態を指します。これらは伏在静脈瘤のような、皮膚が盛り上がる「ぼこぼこ」とした変化はありません。

網目状静脈瘤・クモの巣状静脈瘤

下肢静脈瘤の検査法

治療を受ける前に欠かせないことは、言うまでもなく、正確な診断による適切な治療法のプラン二ングです。下肢静脈瘤の治療は、静脈瘤の種類に応じて異なります。適切な治療が選択されないと治療効果がないばかりか、治療によって逆に症状が悪化してしまうということになりかねません。まずは、経験豊富で信頼のできる血管外科医の診察と血管エコー検査を受けることが必須になります。診察・検査後の医療面談で診断内容や治療法の説明が理解できるかどうかもポイントになります。説明がわかりにくいときや、説明内容に納得ができないときは遠慮なく医師に質問すべきです。医療行為ではインフォームドコンセント(説明と同意)が極めて大切です。

例えば、血管内焼灼術の方針で治療が進められることが確定したら、血液検査で、感染症、貧血、凝固異常、肝機能障害、腎機能障害、糖尿病などが背景にないかを確認します。また、基礎疾患を持っていないか、麻酔や抗生物質にアレルギーはないか、常用薬は何かなど治療の障害が存在しないかを確認します。基本的に血管内焼灼術が実施できない方は極めて稀ですが、血栓症や感染症を引き起こす可能性が大きい方などには、下肢静脈瘤の治療の前に、先行して別の治療が必要になることがあります。治療直前では、コンディションを崩さないよう注意が必要です。手術前は特に規則的な生活に心がけ睡眠もしっかり確保してください。血管内焼灼術を受けたその日は入浴ができませんので、予め清潔な状態で治療に望まれることも大切でしょう。

下肢静脈瘤の診断では、見た目だけで判断するのではなく、 血液が逆流しているかどうか、 そして静脈が本来の機能を保っているかを客観的に評価することが重要です。 当院では、超音波を中心とした検査により、静脈弁の働きや血流の状態を詳しく調べ、 静脈瘤のタイプや重症度を正確に診断したうえで、適切な治療方針を決定しています。

1. ドップラー血流計

ドップラー血流計は、赤血球に超音波をあてて、血液の流速の変化を音としてあらわし、その音の変化によって、血管内で逆流が起きているかどうかを調べるものです。万年筆より少し太い「ブローベ」という器具を、皮膚の上から血管にあてます。そうして、ふくらはぎを手でつかむように圧迫すると、血液が上に押し上げられて、ザッという短い音がします。次に手を離して圧迫を解くと、血液の逆流が起こっていなければ、音はしません。逆流があったときは、ザーッという長い音がします。

ブローベ

2. カラードップラー検査

カラードップラー検査は、超音波を利用して、血液の流れをカラー画像として表示する検査です。内臓のエコー検査と同様に、血管の状態を視覚的に確認することができます。皮膚の上からプローブを血管にあて、血管の短軸像(輪切り)や長軸像(縦断)を観察しながら、逆流の有無や血流の方向を評価します。血液の流れは色分けして表示され、音や波形としても確認できます。血管の太さや血流速度の測定、画像の記録も可能であり、現在行われている下肢静脈瘤診断の中心となる検査です。

カラードップラー検査

3. 容積脈波検査

ドップラー血流計やカラードップラー検査が「血液の逆流」を調べる検査であるのに対し、容積脈波検査は、足の静脈全体の機能を評価する検査です。検査では、足にマンシェット(空気で膨らむカバー)を巻き、つま先立ち運動を行います。運動によって起こる静脈の容積変化を測定することで、ふくらはぎの筋肉ポンプ作用や、血液がどれだけ効率よく心臓へ戻っているかを評価します。短時間で痛みや負担の少ない検査ですが、静脈瘤がどの部位に存在するかを特定することはできないため、超音波検査と組み合わせて用いられます。

下肢静脈瘤の治療法

タイプごとに適切な治療を

2011年以降、一般的な静脈瘤である伏在型のタイプに血管内レーザー治療が保険で実施できるようになってから、その治療を実施する医療機関が全国に広がりました。そして、2014年には、高い治療効果が期待される1470nmのレーザーや手術時間が短い高周波による治療も保険認可され、下肢静脈瘤の治療を専門とする医療機関が激増しています。いわばこの専門クリニック開業ブームが沸き起こっています。

そもそも、本疾患に対する根治手術としてストリッピング手術と呼ばれる血管を引き抜く手術は、100年以上も前から行われてきました。この治療法は、皮膚に数カ所の切開が必要なのと、術後の出血や神経障害のリスクが比較的大きく、基本として入院加療となるため、医療機関側が安易に治療に進まない傾向にありました。患者さん側にも、そこまでして治療しなくても良いという心理がはたらき、弾性ストッキングによる圧迫治療をするのみで様子を見るか、治療をあきらめて放置する方が多かったようです。その結果、重症化してからようやく手術に進むケースが目立ちました。重症化してからの治療は、治療後の回復に相当の時間を要する上に、完全に回復しないことがあります。早期に負担のかからない治療が長い間求められてきたのです。

北青山D.CLINICは、治療が結実できずに苦しむ患者さんの悩みを解消するため、根治手術であるストリッピング手術を外来で実施する手法を考案して2000年から積極的に提供してきました。以来、全国から多くの患者さんが治療を希望して来院されています。さらに、高波長レーザーや高周波による低侵襲の治療が普及したことにより、益々多くの患者さんが治療に進みやすい環境が整ってきました。

下肢静脈瘤は、放置すると進行し重症化し得ます。そして、エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症、肺塞栓症)の直接の原因ではないものの、それらが発症する危険因子の一つです。必ずしも緊急治療が必要ではありませんが、症状に悩まされている方は早期に治療をすることをお勧めします。

下肢静脈瘤の分類とタイプ別の治療法

下肢静脈瘤には様々なタイプがあり、患者さん自身が自分の下肢静脈瘤がどのタイプに属するかを判断するのは難しい場合があります。また、複数の静脈瘤が併発していることもあります。わかりやすい分類の仕方に「ボコボコと膨らむ」「青・赤・紫の細かいもの」の二つに大別する方法があります。電話での診察予約の際など、医療スタッフが患者さんにどのようなタイプの静脈瘤をお持ちかを尋ねる時には、しばしばこの分類法を用います。実際の静脈瘤のタイプは、医療機関を受診した上で、診察や血管エコー検査により確定されます。「ボコボコと膨らむ」タイプは3種類(伏在型静脈瘤(大伏在・小伏在)、側枝静脈瘤、陰部静脈瘤)、「青・赤・紫の細かい」タイプは1種類(網目状・クモの巣状静脈瘤)に分類されます。

ボコボコと膨らむタイプ

伏在型静脈瘤(大伏在・小伏在)、側枝静脈瘤、陰部静脈瘤などが含まれます。

  • 太い血管が浮き出ている
  • 重だるさ・痛み
  • むくみ・皮膚症状
青・赤・紫の細かいタイプ

網目状・クモの巣状静脈瘤が該当します。

  • 皮膚表面に細い血管が広がる
  • 見た目が気になる
  • 軽いだるさを伴うことも
タイプ 見た目・部位の例 よく見られる症状 主な治療法
(治療は原則として日帰りで実施)
伏在型静脈瘤
(大伏在)

太もも〜膝下にかけ太い血管が浮き出る。

  • 夕方の重だるさ
  • こむら返り
  • むくみ・皮膚症状
伏在型静脈瘤
(小伏在)

ふくらはぎ後面〜膝裏にボコボコと突出。

  • ふくらはぎの張り
  • 夜間のこむら返り
  • 立ち仕事で疲労
側枝静脈瘤

細めの血管が枝分かれして浮き出る。

  • 見た目のボコボコ
  • だるさ・ほてり
  • かゆみを伴うことも
陰部静脈瘤

足の付け根〜太もも裏に斜めのボコボコ。

  • 月経時に症状増悪
  • 重だるさ
  • 違和感・痛み
網目状・クモの巣状静脈瘤

細い青・赤・紫の血管が皮膚表面に広がる。

  • 見た目が気になる
  • 軽いだるさ
  • 他タイプと併発も

※症状・血管構造・生活背景により、適した治療法は変わります。診察時に相談して決定します。

治療 保険・自費 主な適応 麻酔 通院回数 術後圧迫 特徴や留意点
血管内レーザー焼灼術(1470nmレーザー) 保険 伏在型、側枝型(径による) 局所+静脈(必要時) 2〜3回 あり 標準的治療で実績が多く、創が小さく日常復帰が早い。
血管内レーザー焼灼術(1940nm・2000nmレーザー) 自費 伏在型(蛇行・分枝・太径例にも対応) 局所+静脈(必要時) 2〜3回 あり 熱ダメージを抑えやすく、症例に応じて細かい照射調整が可能。
血管内高周波焼灼術(高周波治療機器) 保険 伏在型(径条件あり) 局所+静脈(必要時) 2〜3回 あり 照射温度が一定で治療時間が短く、痛みが少ない傾向。
医療用接着剤による血管内閉塞術(スーパーグルー治療※現在当院では実施しておりません) 自費 中等度までの伏在型 局所(少量) 1〜2回 不要なことが多い 熱を使わずTLA麻酔不要。生活制限が少なく通院負担が軽い。
体外照射レーザー(ロングパルスYAGレーザー) 自費 網目状・クモの巣状 不要〜表面麻酔 複数回 不要 皮膚表面から細い血管に照射し整容性改善。段階的治療が基本。
フォーム硬化療法 保険 側枝型、陰部、網目状・クモの巣状 不要 1〜数回 あり 外来で簡便。色素沈着が生じることがあり改善に時間を要する。

※ 保険・自費の適用や通院・圧迫の要否は、病態とご希望を踏まえて医師が個別に判断します。

その他の治療法

下肢静脈瘤の治療は、逆流の部位や血管の太さ、症状の程度、生活背景によって選択肢が変わります。ここでは、血管内焼灼(レーザー・高周波)以外の代表的な治療法を整理してご紹介します。

保存的療法(圧迫療法)

足全体を圧迫することによって、静脈の還流を助け、血液の循環をスムーズにします。弾性包帯や弾性ストッキングによって行います。医療用弾性ストッキングとは、伸縮性に富み、その圧により血流を助ける作用を持ったストッキングです。弾性ストッキングは、薬局などでも販売していますが、病院で受診し、的確なサイズと圧の弾性ストッキングを着用することで、高い効果を得ることができます。弾性ストッキングは、足のだるさ、むくみ、こむら返りなどにも大きな効果を発揮します。履くのが大変ですが、セルフケアができるという利点があります。下肢静脈瘤の予防、術後対策には、効果的な治療方法です。しかし、弾性ストッキングを着用することによって、下肢静脈瘤が完治することはありません。根本的な原因である血管の治療まではできないのです。あくまでも下肢静脈瘤の予防、進行の防止、術後の再発防止などのために用いられます。

保存的療法(圧迫療法)

高位結紮(けっさつ)術

静脈瘤の発生源である鼠径部の深部静脈と表在静脈の移行部を縛って、血管を部分的に切除し(取り除き)、断端を縛って(結紮)、血液の逆流を止める治療方法です。局所麻酔を施した後、足の付け根部分を切開し、患部である静脈を長さ5cmほど取り除いて、断端を縛り、静脈瘤を作っている血管を切り離します。切開部分の傷は、数㎝と小さく、局所麻酔で行うため、日帰りによる治療が可能です。しかし、高位結紮術のみの治療では、下肢静脈瘤が十分に治らなかったり、再発の危険性が非常に高かったりするのが、デメリットです。そのため、静脈を縛る場所を増やしたり、硬化療法と併用したりするなどして治療成績の向上を図りますが、それでも再発のリスクは相応にあります。

高位結紮(けっさつ)術

ストリッピング手術

弁の壊れた静脈を、引き抜いてしまう手術です。足の付け根と足首の2か所を切開して、悪くなった血管の中に、手術用ワイヤーを通します。そうして、血管と糸で結び、ワイヤーを用いて、弁の壊れた静脈を引き抜いてしまいます。下肢静脈瘤の最もスタンダードな根治的治療として、100年以上も前からおこなわれてきました。下肢静脈瘤の中で、最も太い瘤を形成する伏在型静脈瘤に特によく行われた治療方法でした。以前は全身麻酔や、下半身麻酔(腰椎麻酔、硬膜外麻酔)で行われ、1~2週間の入院を必要としていました。その後、入院期間を短縮する医療機関が増え、4~5日の入院で治療が可能となり、さらに静脈麻酔やTLAという特殊な局所麻酔により、現在は日帰り手術を実施するところが増えています。ストリッピング手術は、伏在型静脈瘤に対する根治治療と定義され、血管内レーザー治療で対応できない大きな静脈瘤にも対応できる点で、とても有効な治療方法です。しかし、術後に痛みが生じたり、出血や神経障害などの合併症が起きるリスクが相応にあります。また、手術で加えられた傷の修復反応で血管新生が起き、その血管新生によって静脈瘤が新たに発生してしまう再発の形が最近では注目されています。

ストリッピング手術

硬化療法(フォーム硬化療法)

患部である静脈の中に硬化剤を注射して、皮膚の上から圧迫して血管の内側の壁をくっつけたり、血管を血栓で詰めてしまったりする治療法です。患部である静脈が閉塞すると、血管は退化し、やがて組織に吸収されて消えてしまいます。硬化療法は、注射による施術ですので、手術のような傷を残しません。体への負担が少ないのが特長です。治療時間も短く、初診の際でも治療を受けることができるほど手軽ですが、治療後数週間の圧迫が必要です。しかし、太い静脈瘤には有効ではない、再発率が高い、炎症後の色素沈着がしつこく残る、という欠点があります。

硬化療法(フォーム硬化療法)

スーパーグルー療法(CAE)

瞬間接着材(シアノアクリレート)の医療材料を用いて治療対象となる血管を閉鎖します。手法としては、血管内焼灼術と同様に局所麻酔でカテーテルを挿入し、それを介して投与します。

※現在、当院ではスーパーグルー治療は実施しておりません。

スーパーグルー療法(CAE)

下肢静脈瘤の予防と悪化を防ぐ生活習慣

下肢静脈瘤は、日々の生活習慣で「できにくくする」「悪化しにくくする」ことが可能です。 ポイントは、①足の血液を心臓へ戻す流れを助けることと、②静脈に余計な負担をかけないことです。 ここでは、今日から実践しやすい対策を「まずやること」「食事」「運動」に分けてまとめます。

まずはここから…毎日のセルフケアチェックリスト

  • 歩く習慣:毎日20〜30分の連続歩行(難しければ10分×2回でも可)
  • 同じ姿勢を避ける:立ちっぱなし・座りっぱなしは30〜60分ごとに足首を動かす・歩く
  • 就寝時の工夫:足を少し高くして寝る(クッション等で軽く挙上)
  • 水分:こまめに摂取(目安1.5L/日 ※持病がある方は主治医指示を優先)
  • 弾性ストッキング:必要に応じて活用(医療機関でサイズ・圧を確認すると安心)
  • 脚のセルフマッサージ:足先から心臓方向へ、やさしく(痛みがある場合は無理をしない)
  • 過度な負荷は注意:フルマラソン等の過度な運動は症状によっては負担になることがあります
  • 受診の目安:むくみ・だるさ・こむら返り・皮膚のかゆみ(湿疹・色素沈着が続く場合は早めに相談)

※下肢静脈瘤の治療薬や漢方が選択肢になる場合もありますが、まずは上記の生活習慣を整えることが基本です。 症状が強い場合や悪化が疑われる場合は、自己判断で長期間様子を見ず、医療機関へご相談ください。

下肢静脈瘤の予防

食事の考え方…血管と血流を整える

食事だけで静脈瘤が治るわけではありませんが、血管を傷つけにくい体内環境をつくることは、 予防や悪化の抑制につながります。ここでは「狙い」と「例」を対応させて整理します。

狙い(体の中で起きてほしいこと) 意識したい栄養素の例 食材の例
血管のしなやかさを保ち、血管壁の負担を減らす ルチン、ビタミンB群、ビタミンD ブルーベリー、紫いも
血管の状態を整える(酸化・炎症の影響を受けにくくする) ビタミンC、ビタミンE、カテキン、βカロテン、リコピン アボカド、緑茶、果物、トマト
便通を整え、腹圧上昇による静脈負担を避ける 食物繊維 わかめ、大豆、きのこ
血液の粘度を上げにくい食生活を意識する EPA/DHA、アリシン、カプサイシン、ペクチン など 青魚、とうがらし
症状(むくみ・重だるさ)を感じやすい方の食生活を見直す ロズマリン酸、プロメライン など たまねぎ、ローズマリー

※喫煙は血管への負担を増やすため、可能であれば禁煙を推奨します。飲酒・カフェインは「量」で影響が変わるため、 体調や症状に合わせて調整してください。

運動の考え方…ふくらはぎポンプ+呼吸ポンプを動かす

下肢静脈瘤の予防・悪化予防では、体の中心にある大静脈や脚の内部を走る深部静脈内の血行をスムーズに保ち血管内の圧力が増えすぎないことが大切です。 そのためには、ふくらはぎの筋肉を代表とした「足の筋肉ポンプ」のコンディションを整えることに加えて、横隔膜や腹筋、肋間筋などの「呼吸ポンプ」に関係する筋肉をしっかりと働かせることが大切です。そのために、理想的な運動は、毎日20-30分位の早歩き(できれば両腕を大きく振って歩く)を習慣とすることが大切ですが、以下のように室内で行える運動も有効です。

下肢静脈瘤悪化予防:運動編

① その場スキップ(その場歩き・踵上げ下げ)

目安:1セット2〜3分 × 1日2セット

座り仕事・立ち仕事の合間に行うと、ふくらはぎのポンプが働きやすくなります。

その場スキップ(その場歩き、踵上げ下げ)

② ニーバイブレーション(貧乏ゆすり)

目安:1セット15〜30秒 × 1日2セット

デスクでも行いやすく、足の血流を「止めない」ための小さな工夫として有効です。

二ーバイブレーション(貧乏ゆすり)

③ オープンチェスト+ハンドプッシュ(呼吸ポンプ)

目安:1セット5回 × 1日2セット

両肘を軽く曲げて胸を開きながら大きく息を吸い、十分吸い込んだら強く息を吐きます。
息を吐くと同時に肘・腕を伸ばして、手を前方に強く押し出します。

オープンチェスト+ハンドプッシュ

④ 風船ふくらまし(呼吸のトレーニング)

目安:1セット2〜3回ふくらます × 1日2セット

深い呼吸を意識しづらい方は、道具を使うと呼吸の動きが作りやすくなります。


※痛みが強い、腫れが急に悪化した、皮膚の色が急に変わった等がある場合は、運動で様子を見ず受診をご検討ください。

参照元

監修医師

 監修医師  北青山D.CLINIC院長 
阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴
所属学会