下肢静脈瘤のレーザー治療

目次

下肢静脈瘤のレーザー治療とは

下肢静脈瘤に対する体に負担のかからない低侵襲治療としてレーザー治療が広く普及しています。レーザー治療で用いられる機種は大別すると2つに分類できます。ひとつは体外照射レーザー(経皮的レーザー)、もう一つは血管内を焼灼するファイバー上のレーザーで、下肢静脈瘤のタイプに応じて使い分けられます。それぞれのレーザーを用いた治療法を、体外照射レーザー治療、血管内レーザー焼灼術と呼びます。

血管の径が3㎜未満の青、赤、紫などの細かい静脈瘤に対しては体外照射レーザー治療、3㎜~3㎝径のミミズばれのようにボコボコ目立つ静脈瘤に対しては血管内レーザー焼灼術が一般的に用いられます。

下肢静脈瘤とは?を詳しく知りたい方はこちら

体外照射レーザー治療とは

血管の径が3㎜未満の青、赤、紫などの細かい静脈瘤に対して適用がある治療です。いわゆる、網目・クモの巣タイプの静脈瘤に適用があります。脱毛レーザーと同様に、皮膚の外側から静脈めがけてレーザービームを照射します。そのために「経皮的レーザー」と呼ばれることもあります。

従来は、これら細かいタイプの静脈瘤に対しては硬化療法が用いられていました。しかし、硬化療法は赤や紫の毛細血管が拡張してできる静脈瘤に対しては治療効果が弱く、治療後に激しい色素沈着が残ることが課題でした。治療の後、圧迫力のある比較的厚手の弾性ストッキングを着用しなければいけないため、硬化療法は夏場は暑くて治療がしにくく、皮膚の弱い方はストッキングの刺激でかぶれることがあるため治療ができないなどの欠点もありました。

これらの課題や欠点を解決した方法が体外照射レーザー治療です。細かな静脈瘤にも対応でき、治療後に弾性ストッキングで圧迫する必要がありません。照射による色素沈着が軽度に認められることはありますが、硬化療法の後にみられる強い色素沈着とは違って軽度であり、一般的には数か月で消失します。ただし、体外照射レーザー治療は美容治療の扱いで保険適用ではありません。

治療のメカニズム

体外照射レーザー治療は、皮膚を通過したレーザービームのエネルギーが血管の壁に伝わって血管を収縮させることにより静脈瘤を消すことができます。治療対象となる静脈瘤は生理的には殆ど機能していないため消し去っても特に問題はありません。レーザーの波長によって皮下に浸透する距離が異なりますが、静脈瘤の治療に適した十分なレーザー深達度を持つのは波長1064nmのレーザーです。

<波長別レーザービーム深達度>

波長別レーザービーム深達度

1064nmレーザーは赤、青どちらの血管に対しても十分なエネルギーを送れます。

メリット

  • 細かなタイプの静脈瘤全てに対応することができる。
  • 施術後に弾性ストッキングを着用しなくてよい。
  • 照射後の色素沈着が硬化療法に比べて圧倒的に軽微。
  • 照射当日から入浴が可能で運動制限もない。

デメリット

  • 保険適用ではない(自費診療となる)。
  • 3㎜以上の青い血管には治療効果が乏しいことがある。

血管内レーザー焼灼術とは

血管内レーザー焼灼術(EVLA:Endovenous Laser Ablation)は、伏在型の下肢静脈瘤の低侵襲治療(体に負担の小さな回復の早い治療)として国際的に広く行われている下肢静脈瘤の標準治療です。20世紀後半から臨床現場で使用されるようになり、2011年には日本国内でも保険適用になっています。

治療の対象となる下肢静脈瘤は、主として伏在静脈系の静脈還流不全、すなわち大伏在静脈、小伏在静脈、副伏在静脈、不全側枝、不全穿通枝の弁不全が原因となって生じる静脈瘤です。

※ EVLT、エンドレーザー治療、EVLA:これらは全て同じことを意味しています。

血管内レーザー焼灼術が、世に現れた当初は、血管内レーザー治療(EVLT:endovenous Laser Treatment)もしくはエンドレーザー治療と呼ばれていました。まもなく医療機器メーカーがEVLTを商標登録したため、治療ではなく焼灼術という言葉に置換され、EVLAと呼ばれるようになりました。エンドレーザー治療は簡潔に表現した言葉ですが、現在はEVLAが主たる呼称になっています。

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治療のメカニズム

従来の治療では弁不全を来した病的な血管を抜き取って(切除して)いました(ストリッピング手術)。血管内焼灼術では、カテーテルを用いて血管内に細いレーザーファイバーを挿入して血管内膜(血管の壁)に対してレーザーを照射し、血管の内腔(内側の空間)を閉鎖します。

それにより、血液の逆流が止まり膨らんでいた血管(静脈瘤)が徐々に小さくなっていきます。最終的には処理した血管や静脈瘤は線維化という目に見えないレベルまで細く小さくなって、体に吸収されたかのごとく消えてしまいます。

ファイバーの先端からレーザーが照射されて発生した高温のスチームバブルによる焼灼効果や、レーザービームの持つ血管壁の細胞を直接縮める作用により、血管内腔が閉鎖すると考えられています。

治療適用と除外基準(やや専門的な内容です)

1. 治療適用

血管内焼灼術の治療適用はガイドライン上「伏在静脈に弁不全を有する一次静脈瘤」とされています。補足事項として以下が治療を適用する条件として挙げられています。

  • 対象となるのは、原則として大伏在静脈、小伏在静脈、副伏在静脈で、それらのterminal valveに逆流があり、かつ逆流の持続時間がduplex scanで0.5秒以上認める。
  • 深部静脈系が開存している。
  • 表在静脈にカニュレーションが可能である。
  • 照射対象となる静脈の平均径10㎜以下が推奨される。
  • 不全側枝、不全穿通枝で逆流量が大きく末梢血管の拡張径が4㎜以上の場合には治療対象となり得る。

2. 除外基準

除外基準項目は以下が原則として挙げられています。

  • 動静脈奇形である。
  • 急性感染症を伴う。
  • 血栓性静脈炎を伴う。
  • 深部静脈閉塞がある。
  • 日常生活動作が著しく制限されている。

治療適用から外れた場合でも状況によっては治療を実施する場合があります。

3. 治療適用の拡大

一方、2014年から保険適用となった波長1470nmのレーザーなど水吸収係数の大きい高波長のレーザーを用いて、拡張径の大きい下肢静脈瘤、嚢状下肢静脈瘤など本来は血管内焼灼術の適用外と考えられていたものに対しても治療効果が得られることがわかってきました。フォーム硬化療法を適切に組み合わせて血管内焼灼術を実施することにより、皮膚を切開して瘤切除をすることなく、殆ど全ての下肢静脈瘤の治療を行えるようになってきました。

レーザー機器の種類

レーザー波長vs吸収率

現在国内で使用されているレーザーには、波長980、1320、1470、2000nmがあり、980、1470nmは保険適用となっています。波長の短いレーザーはヘモグロビンに、波長1470nm以上のレーザーは水に特異的に吸収されます。水吸収率の大きいレーザーほど低い照射エネルギーで効率よく静脈壁が収縮するので、処置後の痛みや出血がより少ないことが分かっています。

また、従来、レーザー光がファイバー先端から照射されるbare-tipped fiberが主に使用されていましたが、最近では、レーザー光をファイバーの側方から360度全周性に照射できるradial fiberを用いた治療も広く行われています。水吸収率が大きいものほど低エネルギーでしっかり血管の収縮が得られると考えられています。波長980nmに比べて1470nmは30-40倍、2000nmは100倍以上もの水吸収率を有しています。

波長1470nm レーザー

波長1470nm レーザー:保険適用 ラデイアル2リングファイバー

2000nmレーザー

2000nmレーザー:水吸収率が最高、ファイバーが最も細い低出力で処理能大、治療時間が短い(2-3分)

治療の方法

1. 治療施設

現在、レーザーであれ高周波であれ、血管内焼灼術は局所麻酔下での外来手術(office surgery)で行われることが一般的です。静脈麻酔を併用するか否かは施設によって異なりますが、いずれにしても入院が必要となる程の手術侵襲ではありません。

2. 術前準備

手術前後についてのオリエンテーションを受け、弾性ストッキングの着用法についてレクチャーを受けた後、あらかじめエコーを用いて照射部位にマーキングをしておきます。

術前マーキング:血管の走行に沿ってマジックで印をつける

術前マーキング

3. カテーテル挿入

治療対象となる血管内にレーザーを挿入できるように、最初はカテーテルを挿入します。一般的にはふくらはぎ周囲から挿入します。

カテーテル挿入

4. ファイバー挿入

血管が蛇行している場合、通過できない部位の中枢側に改めて穿刺を行い、中枢側の血管内腔を確保することもあります。この写真は複雑なケース。

蛇行が激しく大きな静脈瘤なので複数穿刺が必要。2000nmの細いファイバーが対応可能。

ファイバー挿入

5. TLA麻酔:Tumescent local anesthesia

レーザー照射をする周囲に希薄した局所麻酔(TLA麻酔)を行います。これにより、レーザー照射中は痛みが全くありません。

6. レーザー照射

対象血管内をレーザーで焼灼します。

1470nmのレーザーでは5-6分、2000nmのレーザーでは2-3分が平均的な照射時間になります。

7. 残存分枝静脈瘤の処理

レーザー焼灼されるのは対象血管の本幹で、残った枝の静脈瘤は、フォーム硬化療法で処理します。フォーム硬化療法の治療効果が大きくなったため、stab avulsion(小切開による残存血管切除)など追加の治療は原則不要です。

8. 焼灼後圧迫

術後の合併症である後出血を抑え還流改善が得られるまでの不快感を減らすために、30~40mmHg圧の弾性ストッキングを用いて、焼灼部位を数日~2週間は圧迫することが必要と考えられています。

偶発症

麻酔を広げたことによる腫れや赤みは1~2日で消えます。術後の内出血は発生しても1~2週間で消えます。治療中は麻酔を工夫して行いますので眠っている間に手術が終わります。術後のアンケート調査では、手術中の痛みを感じた方は一人もいらっしゃいません。麻酔が取れてくると、打撲の後のような痛みや引き連れる感じが一時的に発生しますが、日常生活に支障をきたすほどではありません。稀に、しびれがしばらく残る方もおられますが、その場合も運動制限はなく、まもなく消失します。

メリット&デメリット

メリット

  • メスを入れる必要がない。
  • 日帰り(外来)で治療ができる。
  • 従来の手術(ストリッピング)に比べて体へ負担の少ない低侵襲治療
    →術後の痛みがより少ない、神経障害が少ない、内出血が少ない、回復が速い

デメリット

  • 肉眼的に静脈瘤が完全に消えてわからなくなるのに多少時間がかかることがある。

当院の血管内焼灼術の特徴

1. 豊富な治療実績

  • 国内で血管内レーザー治療が殆ど普及していない時期から治療を着手しています。
  • 波長1320nm、980nm、1470nm、2000nm すべてのレーザーの治療経験が豊富。

2. 最高波長のレーザーも完備

  • 最も細く低出力で効率的に治療ができる2000nmのレーザーでの治療も可能です。

3. 保険治療も充実

  • 1470nmレーザーや高周波による保険適用の血管内焼灼術および硬化療法など保険診療での治療経験も豊富です。

4. 満足度調査を定期的に実施

  • 治療満足度調査を定期的に実施し学会などで公表しています。
  • 治療満足度は非常に良好です。

治療経過

治療後 1-2週間で血行状態は正常化しますので、下肢静脈瘤が原因となる「こむらがえり」「だるさ」「むくみ」などは速やかに消失します。肉眼的な血管のふくらみは徐々に縮退していきます。静脈瘤の大きさにもよりますが、一般的には治療後6~12か月くらいで肉眼的に気にならないレベルまで回復します。

治療経過

まとめ

血管内レーザー焼灼術は、伏在型の下肢静脈瘤に対して有用かつ安全な低侵襲治療であり、根治的な治療法として第一選択肢です。複数のランダム化比較試験では、血管内焼灼術は、ストリッピングや硬化療法などと比べて、同等以上の症状の改善及びQOLの改善が報告されています。

参照元

監修医師

 監修医師  北青山D.CLINIC院長 
阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴
所属学会