2022年8月8日 いつまで自虐的なコロナ対策をし続けるのか

BA5感染者数増加で救急医療は崩壊している
日本の超過死亡は 他の先進国と異なり増え続けている
致死率を鑑みると当初から新型コロナ感染症の重症度分類が間違っている

2022.08.08 北青山D.CLINIC 院長 阿保義久



はじめに

 コロナパニックを煽る報道が性懲りもなく再燃している。「感染者数過去最大」「世界一の感染者数」、この危機を待っていましたと言わんばかりに恐怖と不安を煽る偏向報道が続く。確かに第7波による感染者数は過去最大となったが、重症化率や死亡率は低下の一途。それこそ死亡率は過去最低で直近では0.08 %まで低下している。相変わらず、正しい解釈や判断に必要なバランスの取れた報道が皆無なのに辟易とする。

一方、分科会などコロナ対策当局は、社会の行動規制策は効果がないことにようやく気付き、今更ながら感染症分類の適切な運用について意識し出したようだが、自虐的措置である機械的入院及び隔離政策の中止が急務との認識には欠く。そのため、感染の波が来るたび本来なら入院適応のない患者で病院があふれ、濃厚接触により医療スタッフが業務参画できなくなり、救急搬送システムは破綻する。すなわち、救える命が救えない状況となる。いつまでこのような茶番を繰り返すのか。

2020年初頭、世界中が新型コロナ死の恐怖で翻弄される中、日本は強い社会不安には見舞われたものの超過死亡は確認されなかった。欧米に比べて犠牲の少なかったアジア圏の中でも日本はコロナ感染流行へのレジリエンスが当初は高いと評価されていた。新型コロナが発生してから3年近くになり、毒性の低いオミクロン株が主流になった現在、世界はコロナ前の生活を取り戻しつつある。ところが日本のみが相変わらずコロナ禍の空気に覆われ、そもそもなかった超過死亡が増加の一途、今や米国よりも超過死亡率は大きい。これは、感染症対策の指揮を執る分科会や政府官僚の不適切な施策、利益追従の下で煽り報道を選択し続けるメディアのジャーナリズム精神に欠く姿勢が主因と言えるのではないか。
一刻も早くこの暗澹とした空気を一掃したい思いから、過日、拙著「コロナの時代のアンチエイジング」を上梓し、コロナに限らず病気に打ち克って健康かつ若々しく生きていくためのヒントを説いた。しかし、その後もオミクロンBA5の台頭により救急医療体制の崩壊が繰り返されている。このような医療不全の状態はコロナ感染症の猛威によるのではない。当初からの新型コロナ感染症分類の誤り、そして感染対策のミスリードに起因する。

1.救急医療崩壊

低酸素血症で救急搬送中に7時間以上にわたって収容医療機関が見当たらない!

休日でくつろいでいた7月18日(海の日)の22時頃、バイブモードの私の携帯電話がブルブルと鳴った。北青山D. CLINICをかかりつけとしている患者さんからだった。聞くに、「家族(同じく当院をかかりつけとしている実父)が市販のコロナ簡易検査で陽性だった。無症状だったので安静にして様子を見ていたところ、呼吸状態の悪化と失禁を認めたので救急要請、まもなく17時頃に救急車に収容された。しかし、その後7時間以上にわたって搬送先が見つからない。現在救急車中で酸素投与を継続している。自宅は六本木、東京23区内全域の病院で断られた。特に受診経験のある東京大学医学部附属病院も満床で対応できないと。何とかしてもらえないか。」とのこと。いわゆる緊急入院が必要な患者のたらいまわしの状態だ。

多摩近郊までエリアを拡大して搬送先を探しているものの収容先が見つからない可能性もある、と救急隊長の弁。うちのクリニックは救急医療対応施設ではない。入院施設としての登録がない外来診療を主とする医療機関だ。ただし、再生医療・がん遺伝子治療・日帰り手術などに用いる個室ベッドはあり、長時間は無理でも一晩なら酸素投与を持続できる設備もある。救急搬送先を探し続けてもらいながら、私は急ぎ自身のクリニックへと向かった。万が一収容先が見つからなければ翌朝までうちのベッドで酸素投与を継続するなど必要な処置を行うことを想定していた。患者さんは80歳前後で消化器疾患の手術歴がある。救急隊からの情報では、相応の酸素投与をしても血液中の酸素濃度が時に90%を切る不安定な状態だ。このまま然るべき医療環境の確保ができなければ最悪のことも起こり得る。

クリニックに到着して、電子カルテを起動しながら、日本集中治療(ICU)医学会が運営するECMOネットの情報を確認した。これは、80%以上の全国医療機関のCOVID-19重症患者状況とICUベッド数をサイトに日々アップデートしているもので、COVID-19患者に対する医療機関の予備力を評価するために時々チェックしていた。2022年になってオミクロン株が主流になってからは重症患者が減少しており、昨今のICUの予備力は全く問題ないはずだった。サイトで確認すると、やはり東京都のECMOや人工呼吸器の装着数はほぼゼロに近く、全国でも軽度の上昇傾向はあるものの今までと比較すると装着数は非常に少なかった(図1~4)。

(図1)東京のECMO装着数
デルタ株による第5波ではECMO使用台数が最高値に達したが2021年以降オミクロン株が主流となってからは激減(東京都全体で数台の稼働のみ)の状況が持続している。  

(図2)全国のECMO装着数
東京都同様にデルタ株流行時が最多。BA5で若干増大あるのみ。

(図3)東京の人工呼吸器装着数
人工呼吸器(ECMO含む)が必要な症例もオミクロン流行後少ない。

(図4)全国の人工呼吸器装着数
   東京都同様にデルタ株流行時が最多。BA5で若干増大あるのみ。


ICUに余力があるのになぜ救急搬送が受け入れられない?

免疫回避性が増し感染力の強いオミクロンの変異株BA5が登場したために、本来なら入院する必要のない軽症者の行政入院が増えて、病床が占拠されているということなのか。ICUベッドの受け入れ可能状況から鑑みて、たらいまわしが現に発生していることが解せなかった。 しかし、今までも感染の波が到来するたびに同様の状況が繰り返されていたことを思い出し、淡々と患者さんの受け入れの準備を進めた。一方で、当院の非常勤医達が所属する病院の病床管理の状況が実際どうなっているのかを確認する必要もあった。仮にうちのクリニックで翌朝までは凌げたとしも、日勤帯になれば受け入れ先が確実に見つかるという保証はない。もし、夜間のうちに収容先が確保できれば言うことはないし、各医療機関に予め打診をして翌朝以降の収容先を確保する準備を進めるべきと判断した。

ありがたいことに、23区内の機能病院で外科部長職に就くうちの非常勤医の一人が所属病院の当直医に打診してくれ、結果、ベッドを確保してくれることになった。ただ、その受け入れが確定するのにも2時間ほどを要した(診療時間外で特別な救急患者の受け入れに際しては相応の規模の機能病院では複数の部署や院内状況の確認に時間がかかる)。既に日は変わり深夜1時過ぎになっていた。搬送先が確保できたことを伝えるために、担当していた救急隊長に電話をかけたところ、当の患者さんはやはり搬送先が見つからず、救急車内の酸素も尽きたため、別の救急車への搬送手配中だったとのこと。一人の救急患者に2台の救急車をあてがっていたということになる。多摩近郊や他県を含めて100件以上の医療機関に打診したものの受け入れ先は見つからなかった、と。担当の救急隊長から「このままでは朝まで探しても受け入れ先は見つからなかったと思う。本当に感謝する。」との言葉を頂戴した。その発言は流石にありがたかったが、こちらとしては医療人として当然の対応をしたに過ぎない。感謝すべきは勤務時間外に快く協力してくれた非常勤医やその所属病院の当直医だ。その一方で、コロナ第7波に至ってまでいまだに脆弱な救急医療環境が整っていない現状に改めて納得ができなかった。受け入れてくれた当該病院の情報では、確かにコロナ感染者は激増の傾向にあるが、通常であれば入院適応ではない患者が(コロナ感染陽性という理由のみで)病床を占拠しているために予備のベッドがない、中には重症化する可能性が否定できない患者もいるので余力がない、とのこと。これは、コロナの第1波の時と同様の現象で、いつまで、このような茶番を当局は続けていくのか。その体たらくに改めて呆れるとともに、医療現場からも然るべき施策の提案について声を上げ続けるべきと感じざるを得なかった。

2.超過死亡率 増加傾向

COVID-19流行直後しばらく低かった日本の超過死亡率が増え続けている。

救急医療崩壊が繰り返されていることが日本の超過死亡率増加に起因していることは言うまでもない。
超過死亡率とは、特定の母集団の死亡が非日常的な要因により一時的に増加し本来想定される平均的な死亡数を超過した割合のことである。これは、熱波、寒波、伝染病、パンデミック、飢饉、戦争など非日常的な大災害や気候変動などによって引き起こされる。コロナ禍においては、コロナ感染による直接死に加えて医療体制の不備や受診状況の制限により増加した疾患や自殺による死も含むことから、コロナによる健康面での社会的ダメージを総合的に評価する指標と言える。
ところで、昨今日本のコロナ感染者数は高止まりしているが、G7諸国と比較して人口当たりの新規死者数は最低である(図5)。人口当たりの感染者数が現在世界1だとメディアは強調しているものの、過去を振り返ると現在の日本とは比較にならないほど多数の感染者が他国では発生していた(図6)。隣国韓国との比較ではオミクロン発生以降は日本の方が感染者数は少ない。BA5の感染がアジア圏で増えたに過ぎない可能性はある(図7)。このように、コロナ感染者数や死者数を見る限りでは世界と比較して日本のダメージは大きくはない。看過できない本質的な問題点は超過死亡率の増加だ。図8に示すように、COVID-19流行早期の時期において日本は超過死亡がなかったにも拘らず、以降は増加傾向にあり死亡超過が悪化し続けている。コロナ感染の直接死者数に増加傾向はないのに超過死亡が増加しているのは、コロナ以外の疾患による死亡が増えていることを示し、医療政策に問題があることを示唆する。感染の波の出現に呼応して超過死亡が増減を繰り返した点は他国と同様だが、オミクロンが主流となってから米国をはじめとした他国の超過死亡はむしろ低下傾向にある。今や超過死亡率は日本より米国の方が小さい(図9)。米国以外のG7諸国と比較しても日本のみが超過死亡率の増悪傾向を持続している。日本の感染症対策が不適切であり、正常の医療環境を破壊する自虐的なものと解釈せざるを得ない。
(図5) COVID-19 新規死者数/ 100万人
G7諸国の中で日本は継続して最低の死者数を推移している。


(図6) COVID-19 新規感染者数/ 100万人
最近は日本が最大だが歴代ワーストではない。


(図7) COVID-19 新規感染者数/ 100万人 日本vs韓国
オミクロン台頭後、韓国の感染者数の方が日本よりも多い。


(図8) 日本の超過死亡率推移
当初は超過死亡がなかったのにその後徐々に死亡率が増加している。


(図9) 超過死亡推移 日本 & 米国
コロナ波が来るたびに両国とも超過死亡は増えているが、オミクロン以降、米国は超過死亡が発生していない。日本は第7波の死亡者が極めて少ないにも関わらず超過死亡は増加している。



3. COVID-19 致死率は低下傾向

2020年夏以降、コロナの致死率は激減。感染症1~2類分類は不当。

日本の超過死亡率は増加傾向にあるが、コロナ感染症自体の致死率は低下傾向にある。超過死亡を生み出す要因がコロナ感染症なわけだから、超過死亡のみが増える理由として、コロナ致死率の低下を凌駕するほどの極端な感染者数増加により死者総数が増えた、もしくはコロナ感染症以外の死因による死者数が増えた、(もしくはその両方)が挙げられる。他国の感染被害状況と比較すれば、不適切なコロナ対策への偏重により歪められた医療体制、及び不安を煽るメディア情報により不当に高められた国民の不安を背景として、コロナ以外の死因による死者数が増えたと判断せざるを得ない。

COVID-19のパンデミック発生直後の致死率は5~20%とSARSのそれに酷似した。しかし、2020年後半からは急激に低下し、その後漸減し続けている(図10)。特に日本では、厚労省の報告から計算するとコロナ致死率は世界の中でも最も低い部類であり、第2波で1%程度、重症例が多かったデルタ株(第5波)でもさらに0.2%へ低下し、感染者数の点で猛威を振るうオミクロン株が主流となった現在では0.1%を切っている(図11)。すなわち、いまだに5~70%の致死率となる1~2類感染症のカテゴリーにとどめているのは不当極まりない。一方、5類に相当する季節性インフルエンザの致死率は0.1~0.05%。2類か5類かという二者択一の視点では、第2波以降、新型コロナ感染症は5類とするのが妥当であった。ところで、3類、4類を飛び越して議論しているのを疑問に感じる方もおられよう。感染症分類の3類は消化器感染症、4類は人畜共通感染症であり、いずれもコロナ感染症分類のカテゴリーに該当しない。

(図10) G7諸国の COVID-19 致死率推移
コロナパンデミック発生当初その致死率は15~20%に及ぶ国もあった(英国、イタリア、フランスなど)が、2020年後半にかけて各国3%以下に低下した。特に日本は2020年8月には1%台に低下している。感染症1類に分類されるエボラやペストは致死率70~10%、2類の結核、SARS、MERSは40~5%、5類の季節性インフルエンザは0.1~0.05%。新型コロナ感染症(COVID-19)を感染症1~2類相当に維持し続けることに合理性はない。

(図11) 日本のCOVID-19 致死率推移
第1波の時点で3%、2波では1%程度に低下、以降漸減して現在0.1%以下。
第2波以降は5類相当とするのが妥当。


参照: 2bunnrui.pdf (kyoto.lg.jp)

4.総括

感染症分類を適正化し行政医療ではなく通常医療体制の早期回復を。
自虐的な施策は即刻停止すべし。

新型コロナ感染症の流行当初から通常医療ではなく行政医療をもってその対策を継続し続けたことで、現場の医療リソースが浪費され、弾力的かつ機動的な医療環境が保持できなかった。それが、コロナ致死率が低下する中で超過死亡が増え続ける根源だ。今回のコロナ禍に対する行政医療は、プロ野球の試合の監督を野球に関する知識はあっても野球選手としての経験がない解説者やスコアラーが担当しているようなものだ。
かくして、COVID-19は当初から指定感染症として感染症分類1~2類(エボラ、ペスト、SERS、MERS)相当と定義され、過度な感染対策や行動抑制を余儀なくされる状況が続いてきた。2021年からは指定感染症ではなく新型インフルエンザ等感染症という形式的に別のカテゴリーに分類されたが、1~2類相当であることに変わりはない。そのため、たとえば65歳以上の感染者などは重篤度の軽重によらず機械的に入院が余儀なくされ医療資源が浪費され続ける事態が招来した。元気な高齢者の不必要な入院は体力低下や精神負担による老年性うつ病および認知症や脳梗塞などの発症を促し有害無益である。そして不適切なコロナ対応に固執するあまり、本来医療を投下しなければいけない真の患者さんへの医療リソースが損なわれた。さらにコロナ濃厚接触者は十把一絡げに自己隔離が求められたために、BA5の感染拡大に伴って多数の医療スタッフが出勤停止となった。結果、医療現場のマンパワーが枯渇し通常医療さえ維持できないという状況に陥っている。それが超過死亡の増大を惹起させるという、まさに自分で自分の首を絞める、自虐的な政策が持続している。

ダイヤモンドプリンセス号の失態以降、国内のコロナ対策に不安を感じ、論考と提言を繰り返してきた。(2020年4月23日 新型コロナ感染症/COVID-19問題を合理的に解決するための方策) 今更言うまでもないが、新型コロナ感染症は単なる風邪だと楽観視する立場からではない。免疫学的に分子生物学的に、新型コロナはインフルエンザとは似て非なるものというより極めて質の悪いものだということも承知の上だ。しかし、コロナ感染症に対する知見が相当に積み上げられているにも関わらず、いまだにコロナ禍が収まらないことが残念でならない。未知の新興感染症が発生しても超過死亡をつくらないようにするには、臨床経過と公知の科学的事実から俯瞰的な視点で評価判断を重ね合理的に対処し続ける以外に方法はない。

私は2020年8月の政府の会議で感染症分類の見直しが感染対策のキーであることを提言した。(2020年9月11日院長が意見を発信した「未来投資会議」の議事録)指定感染症として感染症分類1~2類相当の扱いを継続すると、インフルエンザの流行時期に現場はさらにパニックになることを危惧したからだ。行政医療ではなく現場の臨床医達が主となる通常医療体制に復するべきだと提案した。実際は、おそらくウイルス干渉によりインフルエンザの猛威は抑えられ、恐れていた最悪の事態は免れたが、BA5の流行は、まさに季節性のインフルエンザの発生状況に酷似している。このように呼吸器感染者が急増する状況では、適切な医療トリアージができず弾力性に欠く行政医療では太刀打ちできない。そして、オミクロン株は当初のアルファ株、デルタ株と異なり、インフルエンザウイルスを抑え込む力はないようで、今期はインフルエンザ感染症が猛威を振るう可能性がある。なおさら、現行の体制では現場はカオスと化し、超過死亡が激増するリスクがある。
早急に、感染症分類を見直し、行政医療から通常医療に復すべきだ。