2021年1月4日 新型コロナ感染流行は日本にとって本当に緊急事態なのか

2021.01.04 北青山D.CLINIC 院長 阿保義久



はじめに

コロナ感染症でお亡くなりになった方、後遺症などで苦しまれている方、そしてそのご家族の方々には心よりお悔やみを申し上げます。また、救急現場が慌ただしくなる寒冷期にコロナ重症患者の対応に追われる医療従事者にも改めて敬意を表します。

しかし、先月、専門家や医師会から「医療崩壊」の発言があり、再度「緊急事態宣言」が出されることについては、釈然としないところがあります。

SARS-CoV-2ウイルス感染症は確かに欧米ではこの上ない脅威ですが、日本を始めとした東アジア圏に対するその病原性は欧米と比較にならないほど低い印象です。死因別死者数の割合を見ても日本でのコロナ死亡者は全体の中で極めて少数です。人口当たりの感染者や重症者も欧米の数十分の一以下である中、なぜ医療崩壊が叫ばれるのでしょう。このウイルスのふるまいを冷静に吟味すると、日本の臨床現場ではこともなげに対応してしかるべき感染症に見えます。対応の仕方が悪いだけだと言えないでしょうか。疾患管理のプロ集団であるべき医師会のトップがSOSの声を上げるだけで自らの改革に目を向けていないように感じることは、臨床医として残念至極です。

もし、今後、いつか日本人にとって本当に強毒の新興感染症が流行したら・・・現状の体制では一溜まりもないという不安にかられます。そのような思いから、信頼できると思われる情報源や論文をもとに考察してみました。

本稿の内容
1. 各国の死因別死者数比較
2. COVID-19死者数推移
3. 国内感染症発症状況
4. 日本の超過死亡数について
5. 補足:PCR検査について
6. 新型コロナウイルスの遺伝子系統
7. 疑問と不安
8. 日本で医療崩壊が語られる理由
9. 考察
10. 対策
11. 総括



1. 各国の死因別死者数比較(2020年/1/1~12/31)

  • 欧米と東アジアでは全死亡者数におけるCOVID-19の死者数の割合が極端に異なる。
  • 欧米ではCOVID-19 の死亡数が死因の上位で深刻な状況。
  • 一方、東アジアでは全死因の中でCOVID-19の死者数は最小。
  • COVID-19が医療管理上で社会に与えるインパクトは欧米と東アジアで全く異なる。


  • (出典)World life expectancyの情報から
    World life expectancy has one of the largest global health and life expectancy databases in the world.  You can explore it thru thousands of pages of Maps, Charts and feature stories, and also compare your country to every country in the world.

    フランス COVID19 感染者数 2,600,498人 死者数  64,381人
    コロナの死者数が通常は1位の心疾患62,022人を超えて死因トップ。



    スペイン COVID19 感染者数 1,921,115人 死者数 50,689人 
    コロナの死者数が心疾患54,933人に次いで第2位。認知症、脳卒中、肺疾患を凌ぐ。



    イタリア COVID19 感染者数 2,083,689人  死者数 73,604人 
    コロナの死者数が心疾患112,538人に次いで第2位。脳卒中、認知症、肺癌などを凌ぐ。



    イギリス COVID19 感染者数 2,432,888人 死者数 72,548人 
    コロナの死者数が認知症、心疾患に次いで第3位。脳卒中、肺炎などを凌ぐ。



    アメリカ COVID19 感染者数 20,226,164人 死者数 350,914人 
    コロナの死者数が心疾患112,538人に次いで第2位。肺疾患、脳卒中、肺癌などを凌ぐ。



    ドイツ COVID19 感染者数 1,730,205人  死者数  33,817人 
    コロナの死者数が心疾患、脳卒中、認知症、肺疾患などに次いで第6位。各種癌などを凌ぐ。



    日本 COVID19 感染者数 230,304人  死者数 3,414人 
    コロナの死者数は最下位。他の疾患による死者数に比べて非常に少ない。



    韓国 COVID19 感染者数 60,740人  死者数 900人 



    オーストラリア COVID19 感染者数 28,405人  死者数 909人 



    まとめ1

    国別の死因別死者数を見ると、フランス、スペイン、イタリア、イギリス、アメリカなどの欧米主要国は、新型コロナによる死者数が心筋梗塞、脳卒中などの 主要死因の死者数を凌駕するという深刻な状況になっています。

    一方で、日本をはじめとする韓国、オーストラリアなどのアジア諸国は、コロナは死因の最下位に位置し、死者数という視点では危機的な社会インパクトは感じません。


    (出典)worldometer より

    各国の新型コロナ死者数  /人口100万人



    まとめ2

    国別人口当たりコロナ死者数を見ても日本は欧米の50分の1程度という次元の異なる状況です。

    2. COVID-19死者数推移

    (出典)札幌医科大学医学部 附属フロンティア医学研究所 ゲノム医科学部門が報告する新型コロナウイルス感染者数・死者数のトラジェクトリー解析より

    各国人口100万人当たりの新型コロナ感染者死者数の推移
    2020年3-5月頃に死者数が急増。その後はほぼ横ばい。北半球ではこの寒冷期やや増加傾向。



    まとめ3

    国別人口当たりコロナ死者数の推移では、多くの国で2020年3-5月頃に死者数が急増しましたが、その後はほぼ横ばいです。
    北半球の昨今の寒冷期での増加傾向は、それほど急激ではありません。


    まとめ4

    都道府県別のコロナ死者数の推移では寒冷期に北海道の増加傾向が目立ちますが、他の各地域は極端な増加傾向にあるとは言えません。

    3. 国内感染症発症状況

    (出典)感染症週報: 国立感染症研究所 感染症発生動向調査より

    インフルエンザ



    感染性胃腸炎(ロタウイルスに限る)



    RSウイルス感染症



    マイコプラズマ肺炎



    まとめ5

    国内の今期の主要感染症(ウイルス、細菌)を見ると、多くが極端に発症抑制されており、微生物界の生態的地位においてコロナが支配し、他を激しく抑制したと評価できます。

    4.日本の超過死亡数について

    超過死亡

    特定の集団における例年の死亡数をもとに推定される死亡数と実際の死亡数との差。
    すべての死因を含む死者数の年度別の相対比較であり、致死的な急性感染症が社会に与えるインパクトを評価する指標となる。
    (例年インフルエンザの感染者数が増えると超過死亡が増える傾向にある)

    ※推定方法として
     米国疾病予防管理センター(CDC)の用いるFarringtonアルゴリズム、もしくは
     欧州死亡率モニター(EuroMOMO)の用いるEuroMOMOアルゴリズムを用いている。
       EuroMOMOアルゴリズムの方が解析上死亡者数が多めとなる傾向。


    (出典)国立感染症研究所 感染症疫学センターのホームページより

    超過死亡の比較

    超過死亡数 各年1-9月(第1週から39週までの各週の超過死亡数 最小数~最大数)



    各週超過死亡者数には幅があり、二つのモデル間で差はあるが、2020年が過去3年に比べて超過死亡が大きいとは言えません。

    まとめ6

    国内の超過死亡においては、2020年1-9月は過去3年よりも少ない状況です。

    5.補足:PCR検査について

    PCR検査は確定診断のツールとして、もしくは、ハイリスクな感染集団を封じ込める手段としては有益な場合はありますが、そもそも流行性の感染症のスクリーニング法として万能ではありません。

    むしろ使用法や解釈の仕方によっては有害です。

    現在のPCR検査の問題点は、感染リスクのない人まで陽性判定され感染者として隔離対象とされている点です。


    (出典)Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2020 Jun;39(6):1059-1061.
    Viral RNA load as determined by cell culture as a management tool for discharge of SARS-CoV-2 patients from infectious disease wards



    感染力をもつウイルスを検出するのはCt値33回程度

    日本のCt値は過大傾向
     日本 40~45
     米国 37~40
     台湾 35 
    感染力のないウイルスを過度に検出している可能性大

    (出典)New Engl.J.Med  2020 Nov 26;383(22):e120.  doi: 10.1056/NEJMp2025631. Epub 2020 Sep 30.
    Rethinking Covid-19 Test Sensitivity - A Strategy for Containment Michael J Mina 1, Roy Parker 1, Daniel B Larremore 1


    感度の高い検査法PCRは感染力のないウイルス量で検出するリスク大。
    感度の低い検査法(例えば抗原検査)を頻回に実施するのが感染リスクのある患者の同定法として妥当。

    PCRよりも抗原検査を高頻度に実施すべき

    相対的に感度の高いPCR検査は、病原性のない時相でも陽性と判定されがち。

    病原性の高い患者を適切に捉える、また、社会活動に問題がないかを判断するためには、
    適切な感度で、検査費が安い抗原検査を、高頻度で実施するのが妥当。


    まとめ7

    PCR検査はウイルス遺伝子(RNA)を増幅して検出するものですが増幅サイクル(Ct値)が多過ぎると、ウイルスの死骸など、 感染力がなく病原性がないウイルス断片まで拾い上げてしまうリスクがあります。
    現在世界で行われているPCR検査の多くが過剰検査の傾向にあるようですが
    特に日本は、過度の増幅により不必要な人をコロナ陽性者として拾い上げている(感染者として病人扱いしている)印象を受けます。

    Ct値33以内で検出されたものは感染性があるとされている中で、台湾は35、米国は37~40で、これでも多めですが、日本は40~45と極端にCt値が大きくなっています。

    陽性者(隔離者)を過度に拾い上げていることになります。



    6. GISAID  :新型コロナウイルスの遺伝子系統

    (出典)GISAID

    新型コロナウイルスの遺伝子系統



    まとめ8

    RNAウイルスであるコロナウイルスは容易に変異を来します。
    現在5000種以上の変異型が見られます。
    昨今英国で確認された感染性の高まったとされる変異は、既に他国で半年以上前に確認されているとされ、 突如新たな強毒タイプが現れたわけではありません。

    また、このようなRNAウイルスは変異を重ねるごとに、感染力が増し、病原性(毒性)は少なくなるのが一般的です。それをウイルスのテーミングと呼びます。



    7. 疑問と不安

    なぜ、焦り、恐れる必要のない現状のコロナ(COVID-19 )に対して、 正しく対応すれば余裕綽々であるはずの日本の医療インフラが、 「崩壊」が懸念される状況にあるのでしょうか。

    日本人に対して、本当に強毒のウイルスが国内に入り込んできたら どうなるのでしょうか。

    感染症に対する現在の体制や考え方では全く太刀打ちできない のではないでしょうか。



    8. 日本で医療崩壊が語られる理由

  • 過剰防衛 指定感染症 2類分類の維持 (エボラやペスト同等の扱い) 。
  • メディア報道による過度な恐怖の刷り込み(医療スタッフ含めて)。
  • 当初コロナ対応をした医療機関は特に医療経営破綻。
  • 日本の医療機関の大部分を占める民間医療機関がコロナ対応を受託しにくい。 
  • 医療ポテンシャルの低くない日本で
    対コロナの医療キャパシティが(ハードソフト両面で)制限され萎縮気味。


  • 9. 考察

  • 今までのコロナ感染症に関する偏ったメディア報道や専門家らの吟味不足が否めない見解を鑑みると、足元のコロナ感染者数重症者数の増加による医療機関の破綻を不安視する当局の見解は予測できましたが、コロナ感染症の実態分析や判断の妥当性には疑問を感じます。
  •      
  • 現状の感染症法下で指定感染症扱いを維持していることが主因で、医療資源の活用が著しく限定されていることから、医療崩壊を自ら招いているようにしか見えません。
  • 国民全体を落ち着かせること、医療インフラが正常に機能できるように制度設定すること、が行政の喫緊の課題ではないでしょうか。


  • 10. 対策

  • 現状の正しくかつ必要十分な状況を行政が公開
      →社会の不安を解消 適切な行動を誘導
  • 指定感染症の見直し
      →医療機関の萎縮診療を解除
  • コロナ重症患者専用医療機関の充実
      →入院適応は医療機関の判断に委ねる


  • 11. 総括

  • 中国の推移から3-4月には日本も収束すると見込まれたが
    その後の世界パンデミックで状況が激変し、第2波、第3波・・・と繰り返す状況となった。
  • 名ばかりの専門家ではいけない。感染症研究所、免疫学者、微生物学者、公衆衛生学者、臨床医みな同様に必要十分な情報・知識は有していない。勉強・知識不足の中で断言すべきではない(自責の念を込めて)。
  • 現に発生している現象と公知の情報から冷静に科学的・合理的な分析・判断を。