再生医療(幹細胞治療)|効果の仕組みとパラクライン作用【北青山D.CLINIC】

幹細胞治療はどう効くのか ―「肺に捕まる」「分化しない」「24時間で死ぬ」3つの誤解を解く

幹細胞は組織に置き換わるのではなく、シグナルを出して体の修復を促します。「届かない・分化しない・すぐ死ぬ」には妥当な点はありますが、「だから効かない」は安易な飛躍的解釈と言えます。

間葉系幹細胞の主なはたらきは、傷んだ組織に移動して置き換わることではなく、細胞が放出するシグナル(パラクライン作用)によって体の側の修復を促すことだと、現在は理解されています。「肺に捕まるから無意味」「分化しないから偽物」「24時間で死ぬから続かない」という主張は一理ありますが、「だから効かない」という結論には根拠がありません。

このページで分かること

  • ホーミング・分化から、パラクライン作用へ理解が更新された経緯
  • 3つの誤解の「正しい部分」と「飛躍している部分」
  • 細胞が消えた後に、体の中で何が起きているか

再生医療(脂肪由来間葉系幹細胞療法)まとめ

2020年12月26日公開18分14秒解説:北青山D.CLINIC 院長 阿保 義久公式YouTube

脂肪由来間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)療法の全体像を、1本の動画で解説しています。

この動画で解説している内容

  • 間葉系幹細胞とは何か、どのようなはたらきが期待されるか
  • 脂肪の採取から培養・投与までの一連の流れ
  • 投与経路の考え方と、疾患に応じた選択

1.かつて幹細胞治療はどう説明されていましたか

1990年代から2000年代にかけて、間葉系幹細胞は「投与すると傷んだ組織を目指して移動し(ホーミング)、その組織の細胞に分化して、失われた細胞を置き換える」と説明されていました。分かりやすい説明で、医療者も長くこう説明してきました。しかしその後の研究で、この理解は大きく更新されました。

作用機序に関する理解の変化
はたらき かつての説明 現在の理解
パラクライン作用補助的なもの主要な機序。分泌するシグナルが修復環境をつくる
ホーミング損傷部位へ集まって働く(中心的)補助的な働き。標的組織へ到達する割合は限られる
分化組織の細胞に置き換わる(中心的)限定的な寄与。定着率は非常に低い

2.パラクライン作用とは何ですか

パラクライン作用とは、細胞が周囲に放出するシグナルによるはたらきです。間葉系幹細胞は成長因子(VEGF・HGF・IGF-1など)、抗炎症性のタンパク質(TSG-6・PGE2など)、免疫を調整する因子、細胞外小胞(エクソソームなど)を分泌します。エクソソームの中にはmiRNAなどの情報伝達分子が含まれ、免疫系の調整、抗炎症、抗酸化、抗アポトーシス(細胞死の抑制)といった多岐にわたる作用を周囲の細胞に引き起こすとされています。

はたらきかけの経路は、大きく3つに整理できます。

パラクライン作用の3つの経路
はたらき 内容
抗炎症・栄養因子などの放出サイトカイン・増殖因子・エクソソームを分泌し、免疫調整、抗炎症、抗酸化、抗アポトーシス作用を及ぼす
既存の組織細胞の活性化もともと体に備わっている組織細胞や、その場に存在する幹細胞・前駆細胞を刺激・活性化し、自らの力で修復に向かうプロセスを促す
血管新生・免疫調整の促進成長因子が新しい血管の形成を促し、組織への酸素・栄養の供給を改善する。過剰な免疫・炎症反応を穏やかに整える

幹細胞のパラクライン作用とホーミング現象の仕組みを示した図

【上図中の右図解】パラクライン作用によってサイトカイン、増殖因子、エクソソームなどを分泌し周囲の細胞に働きかける。【上図中の左図解】幹細胞はホーミング現象によって修復部位に集まる(補助的な働き)。

これらの作用は、幹細胞が長期間生き残ることを必ずしも必要としません。短期間でも周囲の修復環境を変えることで、その後の組織修復の効果が続くと考えられています。

象徴的な研究(2009年)

静脈から投与された幹細胞は肺にとどまりましたが、そこで活性化して抗炎症タンパク質TSG-6を分泌し、心筋梗塞モデルの改善が認められました。心臓に細胞は届いていません。届かずに変化が起きた――ここが理解の転換点でした(Lee RH, et al. Cell Stem Cell. 2009;5(1):54-63.)。細胞は部品ではなく、合図を送る側だったということです。

この考え方を、細胞ではなく分泌成分そのものを投与する治療に応用したのが培養上清液(幹細胞セクレトーム)です。その利点と限界は別ページにまとめています。

3.誤解①「患部に届かないから無意味」は本当ですか

よく見かける主張:点滴で入れた幹細胞は肺に捕まってしまう。患部には届かないのだから、意味がない。

検証:前半(肺に捕まる)は正しい事実です。後半(だから意味がない)は、研究の示すところと合いません。

静脈から投与された間葉系幹細胞は、報告により約50〜80%がまず肺の毛細血管に捕捉されること(肺の初回通過効果)が知られており、1週間後にも90%以上が肺にとどまっていたという報告もあります(Sanchez-Diaz M, et al. J Clin Med. 2021;10(13):2925.)。ここを否定するつもりはありません。

成り立たないのは「だから意味がない」の部分です。理由は二つあります。ひとつは、入れ方を変えれば届くこと。動脈から投与した場合、数時間で約70%が脳に到達したという動物モデルの報告があり(Gong P, et al. Stem Cells Int. 2021;2021:2602871.)、関節や筋肉への局所投与ならそもそも肺を通りません。もうひとつは、届くこと自体が主役ではないこと。2009年の研究のとおり、細胞が心臓に届かなくても変化は起きています。

また、全身性の炎症・免疫の調整を目的とする場合や、肺そのものを標的とする疾患では、肺への集積はむしろ利点になります。近年の研究では、肺に捕捉された幹細胞が放出する生理活性物質や、それを介した免疫細胞の働きの変化が、全身に作用して治療効果に寄与する可能性が示されています。

4.誤解②「分化しないから偽物」は本当ですか

よく見かける主張:幹細胞は組織の細胞に生まれ変わると説明されてきたのに、実際には分化していない。話が違うのだから偽物だ。

検証:定着率が低いという指摘は的を射ています。ただし、それは「看板に偽りがあった」のではなく、この細胞の仕事が別のところにあった、という話です。

投与した細胞が組織に定着する率は非常に低く、長くは生き残りません。この治療を受けた患者18名の組織を解剖で調べた研究でも、長期的な定着はごくわずかでした(von Bahr L, et al. Stem Cells. 2012;30(7):1575-8.)。

ただ、この事実の読み方が問題です。「間葉系幹細胞」の名付け親であるArnold Caplan自身が、後にこの細胞を medicinal signaling cells(薬のようにシグナルを伝える細胞)と呼び直すべきだと提唱しています。定着しない・増え続けないことは、安全性の面ではむしろ望ましい性質でもあります。解剖研究でも、意図しない組織ができた形跡は認められていません。

一方で、分化能そのものが失われているわけではありません。間葉系幹細胞は軟骨・骨・血管などの複数の細胞へ分化する能力を持ち、特に関節内などへ直接投与した場合には、長期的な組織修復へ寄与する可能性が示唆されています。当院では、分化による組織の直接的な再建を治療効果の中心とは位置づけず、パラクライン作用を主軸として説明しています。

北青山D.CLINICのCPCで培養した幹細胞が神経芽細胞および軟骨細胞に分化した顕微鏡写真

北青山D.CLINICのCPCで培養した幹細胞が、実際に神経芽細胞および軟骨細胞に分化した顕微鏡写真。当院CPCにて撮影。分化能を示す所見であり、体内での治療効果を示すものではありません。

5.誤解③「24時間で死ぬから効果は続かない」は本当ですか

よく見かける主張:投与した幹細胞は1日ほどで死んでしまう。すぐ消えるものに、長く効くはずがない。

検証:細胞が短期間で消えることは事実です。しかし研究が示したのは、その細胞死こそが効果の引き金だったということでした。

肺にとらえられた細胞は、およそ1日の半減期で消えていきます。しかし、ここが十数年で理解が最も大きく変わったところです。

2021年にNature Communicationsに発表された研究で、研究者は細胞が死ねないように遺伝子を改変した幹細胞をつくりました。「死ぬから効かない」のなら、この細胞は長く生き残り、よく効くはずです。結果は逆でした。死なない幹細胞は、免疫を抑える力を著しく失っていました(Pang SHM, et al. Nat Commun. 2021;12(1):6495./動物モデル)。細胞死は治療効果の「終わり」ではなく「引き金」だったのです。

細胞が消えた後に何が起きているのですか

大きく三つです。

  1. 免疫細胞が死んだ幹細胞を取り込むと、その免疫細胞の性格が炎症を抑える方向へ切り替わります。移植片対宿主病の患者を対象とした研究では、幹細胞をよく攻撃できる患者だけが治療に反応しました(Galleu A, et al. Sci Transl Med. 2017;9(416):eaam7828.)。
  2. 細胞が壊れるときに放出される小胞(アポトーシス細胞外小胞)が、中身の情報を周囲に運びます。
  3. 幹細胞がいなくなった後も、宿主の組織が有益な因子を出し続けることが報告されています。

投与したものが体から消えても、変化は続く――成分が残り続けているから効くわけではありません。

6.「理解が更新された」ことと「効かない」ことは、なぜ別の話なのですか

「ホーミング・分化は主なメカニズムではない」は正しく、研究の世界で実際に理解が更新されました。誤情報が行っているのは、その正しい事実に「だから効かない」「だから詐欺だ」という結論を接着することです。この二つのあいだに根拠はありません。科学は「効かない」とは言っていません。「効き方が、思っていたのと違った」と言っているのです。

本ページを読むうえでの注意

ここで紹介した研究の多くは動物モデルであり、人での有効性が確立したことを意味するわけではありません。また、当院の治療効果を示すものでもありません。幹細胞治療は、安全性・有効性を保証できる十分なエビデンスが確立した治療ではありません。

▶ 幹細胞は本当に「損傷部位に集まる」のか ─ ホーミング・分化の科学的真実と、当院の送達経路戦略(院長ブログ)

7.よくある質問

Q&A
Q. 点滴の幹細胞は本当に肺に捕まるのですか

A. はい。報告により約50〜80%が肺の毛細血管にとらえられ、1週間後にも90%以上が肺に残っていたという報告があります。ただし肺にとどまった細胞がTSG-6などを分泌して遠隔の臓器に作用したことも報告されています。
Q. 幹細胞は患部の細胞に生まれ変わるのですか

A. 現在の理解では、それは主なメカニズムではありません。定着率は非常に低く、主なはたらきは分泌するシグナルによるものと考えられています。関節内への直接投与など、限定的な寄与は示唆されています。
Q. 効果はどのくらい続きますか

A. 細胞は数日で消えますが、免疫細胞や宿主組織の変化を介して効果が続くことが動物モデルで報告されています。人での持続期間は個人差が大きく、保証はできません。
Q. 「幹細胞治療は効かない」という説明を見かけますが本当ですか

A. 「ホーミング・分化は主なメカニズムではない」という前提は正しい一方、そこから「だから効かない」という結論は導けません。研究が示しているのは、効き方の理解が更新されたということです。ただし効果を保証できる治療ではありません。

8.出典・関連ページ

出典

  1. Lee RH, et al. Intravenous hMSCs improve myocardial infarction in mice because cells embolized in lung are activated to secrete the anti-inflammatory protein TSG-6. Cell Stem Cell. 2009;5(1):54-63.
  2. Sanchez-Diaz M, et al. J Clin Med. 2021;10(13):2925.
  3. Gong P, et al. Stem Cells Int. 2021;2021:2602871.
  4. von Bahr L, et al. Analysis of tissues following mesenchymal stromal cell therapy in humans indicates limited long-term engraftment and no ectopic tissue formation. Stem Cells. 2012;30(7):1575-8.
  5. Fitzsimmons REB, et al. Stem Cells Int. 2018;2018:8031718.
  6. Pang SHM, et al. Mesenchymal stromal cell apoptosis is required for their therapeutic function. Nat Commun. 2021;12(1):6495.
  7. Galleu A, et al. Apoptosis in mesenchymal stromal cells induces in vivo recipient-mediated immunomodulation. Sci Transl Med. 2017;9(416):eaam7828.
  8. Zhu Y, et al. Stem Cells. 2023;41(9):837-849.
  9. Tong Y, et al. Biomed Res Int. 2021;2021:9983664.

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9.本記事で扱う自由診療について(限定解除事項)