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再生医療|当院の再生医療への取り組み ─449名・2,212件のレジストリと、特定認定再生医療等委員会への定期報告からdoctor-blog

当院の再生医療への取り組み

─449名・2,212件のレジストリと、特定認定再生医療等委員会への定期報告から

前回、前々回の記事で、iPS細胞由来治療の保険適用と「条件及び期限付承認」制度、そして半月板損傷に対する再生医療等製品「セイビスカス®注」の保険適用について触れ、再生医療というカテゴリー全体の現状をお伝えしました。今回は、その続編として、当院が日常の臨床でどのような体制と基準で再生医療を提供しているのかを、ご紹介いたします。

当院では、自家脂肪由来間葉系間質細胞(MSC:Mesenchymal Stem / Stromal Cells)を用いた再生医療を提供しています。日本再生医療学会の用語整理を踏まえ、本稿では公式文書での記載に従い「間葉系間質細胞」と表現しますが、臨床現場で一般的に用いられる「間葉系幹細胞」と同義です。

以下の内容は、2026年5月16日に開催された第11回北青山D.CLINIC特定認定再生医療等委員会への定期報告に基づくものです。


当院の再生医療の枠組み

当院が提供する自家脂肪由来MSC治療は、2014年に施行された再生医療等安全性確保法(2025年5月31日施行の改正法を含む)の枠組みに準拠して実施されています。

自由診療として提供される再生医療は、この法律に基づき、提供計画を厚生労働省に届け出ること、特定認定再生医療等委員会による事前審査と継続的な妥当性審査を受けること、有害事象等の発生時には速やかに国に報告すること──などが義務付けられています。

当院は、院内に特定認定再生医療等委員会を設置し、再生医療の安全性・妥当性についての継続的な審査体制を確保しています。2025年改正法の施行を受けて、従来の幹細胞治療を担当する「第一特定認定再生医療等委員会」に加え、新規の核酸・遺伝子治療を担当する「第二特定認定再生医療等委員会」を新たに設置する予定で、所定の手続きを進めています。


レジストリ研究という考え方

再生医療等製品の章でも触れた通り、再生医療は対象疾患の希少性などから、従来型の大規模無作為化比較試験(RCT)だけでは検証が困難な医療領域です。だからこそ、日々の臨床から得られるリアルワールドデータを、構造化された形で蓄積していくことが極めて重要になります。

当院では、2019年4月以降のすべての治療実績を、後ろ向きレジストリ研究という形で網羅的に記録し、定期的に統計解析を行っています。データ完備率は100%──欠損のないデータベースを構築しています。これは、外来診療設定での自家MSC治療のコホートとして、国内最大規模に位置づけられるものと考えています。


コホートの全体像(n = 449名)

以下は、2019年4月から2025年12月末までに当院で治療を受けられた患者さんの基本データです。

総患者数
449
男性 247名 / 女性 202名

平均年齢
61.5
SD 13.4、範囲 18〜92歳

総施術回数
2,212

患者あたり平均施術回数
4.9
中央値 3回、最大 55回

  • 3回以上の施術を受けた患者:68.2%
  • 5回以上の施術を受けた患者:37.2%

対象となった主な疾患

登録時の主疾患による分類では、以下の5疾患が上位を占めています。

疾患 患者数 割合
慢性疼痛 116名 25.8%
加齢による機能低下 77名 17.2%
動脈硬化症 54名 12.0%
神経変性疾患 50名 11.1%
認知症・認知機能障害 36名 8.0%

当院では、患者さんお一人おひとりの状態に応じて適応を慎重に判断し、特定認定再生医療等委員会の審査と承認を経た提供計画の範囲内でのみ治療を実施しています。


安全性プロファイル──2,212施術における有害事象の実態

重篤な有害事象(SAE):2,212施術において 0件

2,212回の施術において、CTCAE(米国国立がん研究所有害事象共通用語規準)に基づく重篤な有害事象(SAE)の発生は0件でした。すべての有害事象は一過性であり、医療的介入なしに消失しています。施術の中止に至った症例は1例もありません。

観察された有害事象(軽症)

ご参考までに、2,212施術の中で観察された軽度の有害事象は以下の通りです(CTCAEグレード1〜2の軽症事象のみ)。

有害事象 件数 人数 発生率
発熱 Grade 1(2℃未満の上昇) 25件 24名 5.3%
発熱 Grade 2(2℃以上の上昇) 1件 1名 0.2%
血圧上昇(20〜40mmHg) 77件 63名 14.0%
血圧上昇(40mmHg以上) 6件 6名 1.3%
SpO₂低下(軽度・一過性) 2件 2名 0.4%
重篤有害事象(SAE) 0件

これらの数値は、近年報じられている他施設での重篤事案を踏まえ、ご検討中の患者さんに包み隠さずお伝えすべき情報だと考えています。


製造品質の安定性

再生医療等製品の品質を担保するには、年単位での製造プロセスの安定性が不可欠です。

当院では2019年から2025年までの7年間を通じて、平均投与細胞数 1.15×10⁸個(標準偏差 0.45×10⁸)を維持してきました。年次の標準偏差も許容範囲内で推移しており、長期にわたって製造品質の安定性が確認できています。

細胞培養加工施設(CPC)は2018年に院内に開設したものに加え、2025年9月には新たなCPCを増設し、二重化体制を確保しています。脂肪採取から細胞培養、品質確認、保管、投与までを同一医療機関内で完結させる設計により、細胞の劣化や移送リスクを最小限に抑える運用を継続しています。


妥当性評価──治療効果はどう評価されているか

当院では、施術回数の蓄積だけでなく、それぞれの疾患領域における治療効果(妥当性)を、客観的な指標で継続的に評価しています。第11回委員会への定期報告では、以下の領域で統計学的な有意差が確認されました。

慢性疼痛(n = 143)

初回評価と最終評価の比較において、Wilcoxon符号順位検定を用いた解析の結果、以下の3指標で有意な改善が認められました。

  • 簡易疼痛(NRSの合算):p = 0.0002、効果量 r = 0.32(中)
  • 疼痛生活障害(PDAS:仕事・家事・趣味・睡眠等への支障度):p = 0.0057、r = 0.23
  • 破局的思考(PCS:痛みを負に捉える思考パターン):p < 0.0001、r = 0.44(中〜大)

特に、痛みに対する破局的思考の改善が大きいことが特徴的です。これは「痛みが数値として下がった」というだけでなく、「痛みとの向き合い方そのものが変わった」可能性を示唆しており、生活の質に直結する重要な所見と考えています。Bonferroni補正(α=0.0125)後もこの3指標は有意性を維持しています。

動脈硬化(n = 88)

動脈硬化の評価指標としては、頸動脈の内膜中膜複合体厚(IMT)が主要エンドポイントとされます。

  • IMT max 異常群:p = 0.001、r = 0.39 ★最も頑健な改善
  • IMT mean 異常群:p = 0.021、r = 0.37(補完的エンドポイント)

頸動脈の動脈硬化所見が改善傾向を示しているという結果は、加齢に伴う血管病変への介入の可能性を示唆するものとして注目しています。一方、CAVI(心臓足首血管指数)やABI(足関節上腕血圧比)では全群で有意差は認められていません。

加齢による機能低下(n = 112)

酸化ストレス・抗酸化力の評価では、4群分類(正常維持・正常→異常化・異常→正常化・異常維持)による変化解析を実施しています。

  • BAP(抗酸化力)A→N群(n=10):p = 0.002、r = 0.98

異常値だった抗酸化力が正常域へ改善した10名において、極めて強い改善効果が確認されました。

軽度認知機能障害(n = 54)

簡易認知機能チェックスコアによる評価では、p = 0.033、r = 0.29 の改善傾向が確認されました。MMSE経時評価が可能だった3名のうち、MCI域だった2名中1名が、最終評価で正常域に改善しています(25→29点、+4点)。

有意差が出なかった領域について

一方で、当院のレジストリでは、全ての疾患領域で改善が確認されたわけではありません。誠実な情報開示の観点で、今回は明らかな有意差が出なかった以下の領域についても、結果をお伝えします。

糖尿病(HbA1c) n = 22

全群で有意差なし。HbA1cは薬剤・食事・運動など多因子の影響を受けるため、MSC治療単独の効果を切り出すことが困難な指標であり、評価軸の再検討が必要と考えています。

慢性腎臓病(eGFR) n = 30

eGFR異常群で有意な低下(悪化)が確認されました(p = 0.034、r = 0.42)。これはCKDの自然経過による腎機能低下を反映しているものと解釈しており、MSC治療によるCKD進行抑制効果の評価には、自然経過コホートとの比較研究が必要と考えています。

心不全(NT-proBNP) n = 10

10名中7名(70%)はNT-proBNP低下傾向を示しましたが、1名が極端な悪化(+50,575 pg/mL)を呈し、その1名が全体の統計的有意性を打ち消しました。サンプルサイズの不足と、外れ値の影響を考慮した症例追加が必要です。

慢性肺疾患(FVC%・FEV1.0%・KL-6) n = 17

全指標・全群で有意差なし。ただし、間質性肺疾患の活動性マーカーであるKL-6の異常群(n=11)では、9名(82%)が低下方向を示しており(r = 0.38)、小サンプルによる検出力不足の可能性があります。

神経変性疾患(多系統萎縮症) n = 8

UMSARS(多系統萎縮症評価尺度)では、疾患の自然経過を反映した有意な悪化が確認されました(病歴 p = 0.023、運動 p = 0.016)。一方で、長期追跡が可能だった2名の症例(28ヶ月・24ヶ月)の年間進行速度は、以下の通り既報の自然経過範囲を大幅に下回りました。

  • UMSARS-I(病歴):本コホート中央値 +2.33点/年(既報自然経過 3.9〜6.5点/年)
  • UMSARS-II(運動):本コホート中央値 +2.66点/年(既報自然経過 3.5〜8.2点/年)

既報研究において、軽症例ほど進行が速いという逆相関関係(Pérez et al. MDS 2020)が報告されているにもかかわらず、本コホートの軽症例で予測を裏切る進行抑制が観察されています。これは「治癒」を意味するものではありませんが、MSC投与が進行を抑制した可能性を示唆する仮説生成的所見(hypothesis-generating finding)として、慎重に位置づけています。対照群を欠く少数観察であるため、今後の対照試験による検証が必要です。


品質管理体制──製造プロセスのアップデート

当院では、製造プロセスについても継続的な改良を進めています。第11回委員会では、以下のアップデートが審議されました。

無血清培地培養法の追加

従来の自己血清を用いた培養法に加え、無血清培地(serum-free medium)を用いた培養法を新たに導入する方針を、委員会で審議しました。

自己血清培養法には、患者さん自身の血清を用いるため免疫原性が低いという大きな利点がある一方、ご高齢の患者さんや採血困難な患者さんへの体力的負担、ロット間のばらつきといった課題があります。無血清培地は、これらの課題に対する代替的選択肢として位置づけられます。成分が標準化され再現性が高く、ウイルス・プリオン等の動物由来リスクが低く、cGMP準拠製品が多く臨床使用に適合する、といった特徴があります。

どちらの培養法を採用するかは、患者さんの健康状態とご希望を第一基準として判断します。三系統分化能(骨・脂肪・軟骨)と神経細胞への分化能は、いずれの培養法でも実証済みです。

当日採取・当日投与における無菌試験戦略

自家MSC治療は、患者さんから採取・培養した細胞を、新鮮なまま投与する「当日採取・当日投与」のプロセスが基本です。このプロセスでは、薬局方準拠の標準的な無菌試験(14日間培養)を完了させる時間的余裕がないため、迅速無菌試験法の適切な選択が極めて重要になります。

第11回委員会では、日本薬科大学・山口照英教授による研修会(厚生労働省主催・第9回研修会、2026年1月31日)の内容を踏まえ、以下の二段階戦略の妥当性を検討しました。

  • 一次試験(投与可否判断):NAT(核酸増幅法)または固相サイトメトリーによる迅速試験(2〜4時間で結果取得)
  • 二次試験(工程管理・品質保証):培養法+ATP発光による事後検証(2〜7日間)

当日採取・当日投与における無菌性担保は、再生医療の安全性にとって最も重要な論点の一つです。当院では、この二段階戦略を踏まえた検証と運用設計を、継続的に進めています。


再生医療等安全性確保法の改正への対応

2024年6月に成立し、2025年5月31日に施行された改正再生医療等安全性確保法は、再生医療を提供する医療機関にとって、対応すべき事項を多数含んでいます。主な改正点は以下の通りです。

  • 法の対象拡大:in vivo遺伝子治療、ゲノム編集応用技術、mRNA技術等の核酸を用いる医療技術が新たに法の対象に追加
  • 認定再生医療等委員会の審査強化:治療計画の妥当性審査の明確化、審査参加制限の強化、設置者の欠格事由の新設
  • 立入検査・行政処分の新設:厚生労働大臣による報告徴収・立入検査、適合命令・改善命令の新設
  • 定期報告における科学的妥当性評価の義務化
  • 重大な不適合報告の仕組み整備
  • 審査記録の公表強化

当院では、これらの改正事項に対応するため、第一・第二の二つの特定認定再生医療等委員会体制を整備し、改正法の趣旨に沿った運用を進めています。


当院の立ち位置──誠実にデータを積み上げる

以上が、第11回特定認定再生医療等委員会への定期報告の概要です。

ここまでお伝えしてきたデータは、特別な発見でも、画期的な治療効果の証明でもありません。むしろ、「外来診療という設定で、再生医療等安全性確保法と特定認定再生医療等委員会の枠組みのもと、7年間にわたり誠実に淡々と継続してきた臨床の蓄積」というのが、率直な表現です。

再生医療は、いま大きな転換期にあります。一方では、iPS細胞由来治療が保険診療として患者さんの選択肢に加わりつつあります。他方では、自由診療として提供される細胞治療の中に、安全管理が十分でない事例が混在し、痛ましい事案も報じられています。

こうした時代において、私たちにできることは、データを誠実に蓄積し、安全性を担保し、過剰な期待を煽らず、患者さんと真っ直ぐに向き合い続けることだと考えています。

当院のデータは、まずは安全性・実施可能性を中核論文として国際学術誌に投稿することで、第三者の検証に開く方針です。疾患別の論文も、順次展開していく予定です。

学術的検証のプロセスを並行して進めることが、自由診療として提供される再生医療に携わる医療機関の責任である──そう考えて、引き続き取り組んでまいります。


【出典】

  • 第11回 北青山D.CLINIC 特定認定再生医療等委員会 定期報告資料(2026年5月16日)
  • 再生医療等の安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第85号/令和6年法律第51号による改正、令和7年5月31日施行)
  • 日本再生医療学会「間葉系(間質)細胞等の経静脈内投与の安全な実施への提言」2025年5月
  • Pérez ME, et al. “Disease Progression in Multiple System Atrophy.” Movement Disorders, 2020
  • 厚生労働省「特定細胞加工物の微生物学的安全性に関する指針」令和7年
  • 山口照英(日本薬科大学)第9回認定再生医療等委員会教育研修会講演資料、2026年1月31日