下肢静脈瘤の血管内治療

血管内治療の歴史

ミミズばれのように血管が大きく膨らんだ静脈瘤(伏在型静脈瘤)に対する根治的な治療法として19世紀以降、ストリッピング手術が100年以上にわたって行われてきました。しかしながらこの治療は、下半身麻酔や全身麻酔などが必要で入院が余儀なくされるものでした。私たちは、1998年に、手術技術と麻酔を工夫して日帰りで実施できるストリッピング手術を考案しましたが、皮膚に2か所以上の切開が必要な点で治療直後の入浴は制限されました。21世紀になって、ファイバー状のレーザーや高周波(RF)を用いた血管内治療がストリッピング手術に代わる低侵襲治療として台頭してきました。これらは、皮膚に切開を入れる必要がなく、局所麻酔や静脈麻酔などの小麻酔で対応できるため、日帰りはおろか外来(手術時間15~30分程度)で実施できる低侵襲治療として広く普及しています。血管内レーザー焼灼術(EVLA:endovenous laser ablation)は重症例や複雑な静脈瘤にも応用できる、血管内高周波焼灼(RFA:radiofrequency ablation)は治療時間が短時間で済む、などそれぞれにメリットがあります。

初期のレーザーや高周波は治療後の再発率が比較的大きく、治療適用となる静脈瘤に制限がありましたが、2005年以降に登場した波長の長い(1320~2000nm)レーザーやより高熱で(120℃)焼灼ができる高周波が開発され治療成績が飛躍的に改善しました。その結果、2014年を過ぎる頃から血管内高周波焼灼術も血管内レーザー焼灼術も、ストリッピングに代わる下肢静脈瘤の標準治療として問題のないレベルまで進化を遂げました。特に、血管内レーザー焼灼術は水吸収型の高波長(1470nm、2000nm)のレーザー機器やラディアルファイバーと呼ばれる360℃全方向に照射できるファイバーが一般的に使用できるようになり。根治的治療機器としての完成度が高いと言えます。近年では、レーザーや高周波により血管内焼灼術は、長期治療成績においても従来の治療法であるストリッピング手術よりも成績が優れていることが示されています。

当初は、血管内レーザー治療、血管内高周波治療と呼ばれていましたが、ある医療機器メーカーが商標登録したためにこれらの言葉は使いにくくなり、一般的にはそれぞれ、血管内レーザー焼灼術、血管内高周波焼灼術と呼ばれています。これらは、今やストリッピング手術に代わって、伏在型下肢静脈瘤の根治的治療法として国際的にゴールドスタンダードです。また、2013年頃から欧米ではレーザーや高周波に代わる血管内治療の方法が考案されています。それは、医療用の瞬間接着剤シアノアクリレートにより血管を閉塞させるものでスーパーグルー治療と呼ばれています。

当院で、高波長レーザーを使用した場合の治療満足度を調査した結果がこちら

一方で、血管内レーザー焼灼術や血管内高周波焼灼術の次の世代の治療法も台頭してきました。2013年以降、血管内レーザー焼灼術や血管内高周波焼灼術のように熱刺激で血管を収縮させるのではなく、化学薬剤により血管を閉塞させる血管内治療が欧米で開発されました。これらは、熱刺激がないことに加えて、処理血管周囲への広範囲の局所麻酔(TLA)が不要なため、NTNT (non-thermal non-tumescent)と表現されます。使用される代表的な薬剤はオクチルシアノアクリレートやnブチルシアノアクリレートなどの生体用の瞬間接着剤(医療用グル―)で、これらを用いた医療用接着剤による血管内閉塞術(CAE:cyanoacrylate embolization)いわゆるスーパーグルー治療は、胃食道静脈瘤や脳動静脈瘻などの治療に既に導入されていました。この最新の治療技術が下肢静脈瘤の治療に応用されたわけです。NTNTの中でも特にCAEは広範囲麻酔が不要なだけではなく、術後の弾性ストッキングを着用しなくてよい場合もあり、治療の負担がより軽減された治療法です。広範囲麻酔による内出血のリスク、弾性ストッキングを履く負担、そして接触皮膚炎などのリスクが無くなるため、普及が期待されました。

当院でのベノクローズの治療満足度を調べた結果はこちら

NTNTには他に、ポリドカスクレロールなどの硬化剤に、機械的刺激を組み合わせたMOCA (mechanical occlusion chemically assisted ablation)に分類されるClariVein(クラリべイン)による治療法や、同じく硬化剤に静脈を閉鎖させるデバイスを付加したVBAS (V block-assisted sclerotherapy)などがあり治療選択肢が豊富です。

NTNTに対して血管内レーザー焼灼術や血管内高周波焼灼術は、TT(thermal tumescent)と表現されます。TTとほぼ同じ意味でEVTA(endovenous thermal ablation)という表現も用いられています。

血管内治療(EVA:endovenous ablation)の分類

血管内治療(EVA:endovenous ablation)の分類

代表的なEVAのメリットデメリット

血管内レーザー焼灼術(EVLA) 血管内高周波焼灼術(RFA) 医療用接着剤による血管内閉塞術(CAE)
メリット 蛇行の強い静脈瘤、照射距離が短い静脈瘤や不全穿通枝など、複雑な症例でも対応可能。
中長期経過例の報告あり。
手術時間が比較的短い。操作が簡単なので医師の技術力にあまり左右されない。
照射にムラがない。
TLA麻酔が不要。
術後の弾性ストッキングが不要な場合が多い。
特にnブチルシアノアクリレートを用いると治療時間が極めて短い。
デメリット TLA麻酔が必要。
術後弾性ストッキングの着用が原則必要。
TLA麻酔が必要。
術後弾性ストッキングの着用が原則必要。
照射距離の短い血管には適さない。
蛇行が強い静脈瘤や巨大な静脈瘤には適さない。
新しい治療のため中長期経過例が乏しい。

監修医師

 監修医師  北青山D.CLINIC院長 
阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴
所属学会