【動画解説】再生医療の現状と課題⑤

安全性と治療適応(全6話中第5話)

2020年6月27日開催の院長のオンライン講演会から『再生医療の現状と課題 ⑤安全性と治療適応』(全6話中第5話)の内容をご紹介します。 自己由来間葉系幹細胞移植による再生医療は、脂肪採取の際に小さな切開が必要ですが、治療に伴う生活の制限や体へのダメージが少ない、きわめて安全性の高いと言える治療法です。ご本人の組織から培養される幹細胞を用いるためアレルギーや拒絶反応が基本的にはありません。iPS細胞に見られる腫瘍化のリスクもないなど本治療の安全性を担保する多くの論文があり、国内でも多くの医療機関が本治療に取り組んでいます。特に脊髄損傷への再生医療は、保険承認を仮で獲得しており(札幌医大のみ提供可能)、今後、多くの疾患や障害に対する画期的な治療法として応用されることでしょう。当院では、認知機能障害、動脈硬化、神経変性疾患、心不全、慢性肺疾患、慢性腎臓病、肝機能障害、スポーツ障害などの疾患や障害に対して本治療を提供しています。再生医療の対象疾患やその適応などについてこの機会に是非ご確認ください。

【動画情報】

テーマ:「再生医療の現状と課題」⑤安全性と治療適応 (全6話中第5話)
時間:11分26秒(第5話)
公開日:2020年6月27日
講演者:北青山D.CLINIC  院長 阿保義久(医師)


 


【このテーマの動画(全6話)】

第1話 ①再生医療とは
第2話 ②そもそも幹細胞とは
第3話 ③間葉系幹細胞療法のメカニズム・特徴
第4話 ④幹細胞投与のための細胞加工
相5話 ⑤安全性と治療適応(このページ
第6話 ⑥治療成績及び今後の期待と課題

【全文】

はじめに


一般的に脂肪を採取するところから投与するところまでのリスクをお話します。とはいえ、基本的にはこの再生医療、幹細胞治療というのは、安全な治療です。 一般的な薬物治療によるような副作用などが基本的にはありません。ご自身の幹細胞を使うわけですから大きいアレルギーなども基本的にありません。 ただそうは言っても、医療行為に伴う細かなトラップそういう障害というのはいくつかありますので、その辺をちょっとご説明します。

治療リスク(偶発症)


当たり前の事かもしれませんが、血液検査をする時に針を刺します。ですので、針を刺したところの痛みや内出血、不運にも若干神経に障害を与えてしまうリスクは通常の血清検査でも起こりえます。 ただ極めて稀ですが、こういう時々血液検査をした後にちょっとその部分がしびれたりとか、なんとなく知覚が変な感じだということを訴える方がいます。でも、これらは必ず治ります。 基本的にはずっと障害が残るということは考えにくいです。
脂肪を取るときは、これもメスを数ミリですけど入れますので、やはりその部分の痛み、あとは傷口からの感染、内出血、硬くしこったり色素沈着、こういう細かいものはあります。 文字面に起こすと、結構いろんなことが起きるんだなと感じられるかもしれませんけれども、ほんのちょっとの切り傷を受けた時皆さん考えてみてください。 ちょっと痛みもありますし、少し内出血ですとか、固くしこったりとか、そういう通常ご経験したことがあるだろう小さい傷に伴う偶発症状は多かれ少なかれあります。ただこれらも必ず治ります。
細胞を培養をして行く時に起きるトラブルとしては、培養がちょっと時間がかかってしまうことがあります。 人それぞれ細胞のいわゆる特徴というか、能力の差があります。 ですので一般的には、3週間から5週間、4週間から5週間で培養は出来るんですけど、ちょっとその時間がかかってしまったりとか、 培養をしているときにクリーンルームで行っているのに雑菌が入ってしまったりとか、 培養した細胞を投与するときに必ずその細菌感染がないかという確認するんですけれども、 汚染のリスクというのはゼロではないので、 万が一汚染してしまった場合には、我々のほうでもう一度培養を最初からやり直しますので そういう時間がずれてしまうということも、リスクとしてはあります。 ただ今まで2年ほど再生医療を行って、時間が経っていますが基本こういう汚染をしたというケースは一例もありません。
投与の際は、これは点滴ですとか注射で行いますので、採血の時と同じように針を刺しますから、注射のところの痛みとか少し幹細胞が入って行く時に熱を感じたりとか、 一時的に反応性の病的な熱ではないですけど、そういうのが起きたりとか、点滴が入っていくことによる循環動態の変化で、ちょっと軽く吐き気をもよおされたりだとか、そういうことはあるかもしれません。 ただ、これらも今まで、具体的には一例も起きていません。
ただ厚労省で1例、昔、再生医療が初めて行われていた時に、他国から何人もの患者さんが国内に訪れて、治療をある医療機関で受けた時に、エコノミークラス症候群を起こしたというケースがありまして それが肝細胞療法と因果関係があるのではないかということから、血栓症をしっかりと注意していきましょうという通達がありました。 我々もこの血栓症に関しては、しっかりと管理をしながら血液が固まりにくくなるような工夫を施してかつ、治療中は酸素モニターをしながら行っておりますので、基本的にはこれも大きい合併症と心配するような必要はないという風に考えています。 もちろん今までも一例も発生していません。
あとは治療を偶発症というレベルではないんですけれども、なかなか予想した以上の効果が得られないとか残念ながら期待どおり結果が得られなかったということは、もちろんこれは医療ですのであるかもしれません。 ただ今までのところ、非常に多くの方に喜んでいただいているので、我々としてはこの幹細胞療法に関しては信頼をして皆さんに提供を続けているという状況です。


治療の安全性


治療の安全性に関しては、まずこれご本人の組織だということですね。 ですので例えば動物、他の動物から使われるような製剤もあるんですけど、そういうものに比べると感染のリスクですとかトラブルは極めて低い。 あとはすでに今、複数の医療機関で安全にこの医療というのは継続して実施されていますので、決められたルールに基づいた滅菌環境で細胞を増殖させることが出来れば、 まず汚染のリスクというのも完全に排除されることができます。
あとはご自身の細胞を取る上で脂肪を利用するという点では、比較的安全かつ容易であるということ。 あとは免疫とか、それに伴う拒絶反応、腫瘍化、いわゆるがん化のリスクがないということも確認されていますので、 そういう意味では安全性が担保されています。
安全性に関して報告する論文は、枚挙にいとまがないほど国際的に確認が出来ますので、論文上の安全性の担保というのは十分になされているというふうに判断しています。


治療の安全性2


さらに、複数の企業や大学によっても臨床研究が現時点で複数進行しています。中にはご自身の細胞ではなくて、他人の細胞を使った幹細胞の治療に関しても治験まで今は進んでいます。 将来はそういう他の人の幹細胞を利用した治療というのが、応用されるようになるかもしれません。


治療の安全性3


先ほどもお話しましたけど、実際に多くの医療機関がこの再生医療を行っていて、 例えば変形性の膝関節症に関しては、100件以上の医療機関がこの治療に着手しています。 あとは脳梗塞の機能修復、認知症、動脈硬化症、慢性疼痛、もろもろ様々な疾患に対しての治療がもうすでに現場で行われています。 これは厚労省のホームページをご覧になると一覧がありますので、ご興味ある方はそちらの方で目を通されればと思います。 あと残り繰り返しになりますが、札幌医大さんの方では脊髄損傷に対してもう保険認可されたステミラックという製品名を伴った幹細胞療法を行っています。 これらが安全面に関するお話です。


再生医療の選択基準


じゃあ実際にどのような治療が疾患に対して行われているか。我々のほうで再生医療の選択基準としては、こちらにちょっと細かく書かせていただいたんですけれども、 まず現代医療でなかなか治せない難治性の疾患であるということ。あとは治療法はあってもその負担が非常に大きくて現実的にはなかなかその治療に進めないような状況にある方。 あとはもう最近増えている病気、高齢化社会に伴って増加が非常に著しい病気であるということ。 あとその疾患によって、ご自身の生活の質が著しく低下していて尊厳が損なわれているということ。 これらのことを選択基準に設けています。かつ、ご説明している幹細胞移植に伴う様々な治療効果が期待できるそういう方々に対して、治療を提供するという適用をとっています。


北青山Dクリニックが治療許可を取得した疾患


現時点で私たち北青山Dクリニックが治療許可を取得した疾患というのが、この1番から9番までで具体的な疾患は、膝関節症とか、腰椎症、脳梗塞後の後遺症、アルツハイマー病を含めた軽度の認知機能障害、 あとパーキンソン病、筋委縮性の側索硬化症、肺線維症、心筋梗塞、弁膜症、心筋症、多彩な難治性の 疾患に対しての適用が今とれています。 これらの適用に多かれ少なかれ当てはまる方であれば、幹細胞治療の検討を進めることができます。
投与方法としては、何度も話して恐縮ですけれども点滴、カテーテル動脈あとは局所に直接注射など。 あと髄腔内と言って、これは神経変性疾患に対してよく行われるんですけれども、脊髄麻酔をする時にくも膜下腔という麻酔をする領域に細胞を入れることもできます。 そうすると背中から脳脊髄液の方まで細胞が移動していくことができるので、脳の細胞に直接幹細胞が届く可能性があるということで、最近非常に注目して行なっている治療経路になります。


治療適応:前提条件


具体的には年齢制限もあります。年齢制限は18歳以上。脂肪採取に十分耐えられる健康状態であるということ。 あとは同意能力を有している方。ただ例えば認知機能障害の方などは、なかなかご自身がある程度理解されても、十分な同意が得られる能力がないという判断をさせていただくこともありますので、 その場合には代諾者の方、ご家族の方などから同意を得られるということが条件になります。 あとは文書でしっかり説明と同意を取り交わしているということ。 あと実際に担当する医師がその治療の適応を問題ないというふうに判断しているということ。 これらが前提条件になります。


適応例1:慢性疼痛


あとは先ほどお話しした疾患、ちょっと今すでに具体的に行っているものとしては、痛み、慢性疼痛の変形性の膝関節症や腰の痛みなど、 なかなか通常の治療で直せないような方々、変形性の膝関節症というのは実は非常に多いです。


適応例2:変形性膝関節症


人工関節まで入れ替える勇気や、その負担に耐える自信はないんだけれども、日常生活上痛くて階段の上り下りができないとか、 移動がままならないとか、そういう風な方々がこの変形性膝関節症に対して再生医療を希望されることがよくあります。 これらが前提条件になります。


適応例3:閉塞性動脈硬化症


あとは閉塞性動脈硬化症。これは動脈硬化によって血流が障害される現象ですね。例えば心筋梗塞とか脳梗塞に代表されるような血流障害を起こすような疾患、これらに対しても再生医療の治療効果が期待できます。 これらが前提条件になります。


適応例4:脳梗塞の既往


今お話しした例えば、脳梗塞を受けた後その後遺症状がなかなか回復しないその機能障害の回復。


適応例5:認知機能障害


認知機能に関しては、これは最初は皆さん多かれ少なかれ軽度の認知機能症状から発生するということはわかっています。 ちょっとした名前が思い出せなくなったりとか、同じ話を何度も繰り返してしまったりとか、人の話についていけなくなったり ちょっとぼんやりすることが増えたり、昨日食べた夕食のことを忘れたり、色々そういうちょっと度忘れに近いような現象が最初は見受けられます。 その度合いはだんだんだんだん増えていって、アルツハイマー病を含めた認知症に移行するということはわかっています。 比較的認知機能の障害が多かれ少なかれ認められた時点で、再生医療を着手することも可能です。


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