がん遺伝子治療のメリット・デメリット

メリット・デメリット

当院のがん遺伝子治療「CDC6 RNAi治療」には、既存のがん治療を凌駕する複数の優位点がありますが、解決すべき問題点もあります。それぞれをメリット、デメリットとしてまとめました。

メリット

  1. 外来で治療が可能、入院は不要。
  2. 激しい副作用がない。
  3. 他のがん治療と併用可能。
  4. BSCと宣告されても治療効果を継続できる。
  5. がんの発症や再発を抑える予防医療としても活用可能。

デメリット

  1. 未承認治療であり治療が標準化されていない。
  2. 医療連携が難しい。
  3. 治療費(薬剤費)が高額。
  4. 治療適応を精密に確認する方法が未確立。
  5. 不適切な広告がある。

下記、メリット、デメリットの解説になります。

メリット

1.外来で治療が可能、入院は不要。

1回の治療は通常2~3時間で終了します。

例)10~11時頃にご来院頂いた場合、終了時間は12時~14時頃の終了見込みとなります。遠方から受診される場合や、お仕事などの都合によっては午後から治療を開始することも可能です。患者さんの状態や状況に応じてできる限り調整いたしますのでお気軽にご相談ください。

なお、治療頻度は病期や病変の存在範囲によって異なります。症状に応じて1週間に1~3回の頻度で治療を実施する場合もあれば、数か月に1回の頻度で治療効果を確認しながら投与を継続する場合もあります。

2.激しい副作用がほとんどない

一過性の軽度な発熱、倦怠感が生じる場合はありますが、激しい副作用はほとんど起こりません。手術や化学療法、放射線治療、免疫療法でみられるような副作用がないので、生活の質を落とすことなく、日常を過ごすことが可能です。

3.他のがん治療と併用可能

CDC6 RNAi 治療は、手術、放射線治療、化学療法などの標準治療、免疫療法等との相互干渉がない治療なので、効果をより高めることを目的に他のがん治療と併用することも可能です。実際に、標準治療との併用により相乗効果が得られ治療成績が大きく改善することもしばしばあります。

遺伝子治療による治療症例

4.BSCと宣告されても治療を継続できる。

問題なく日常生活を送ることができ、仕事もできる状態であるにも関わらず「有効な治療法がない」、もしくは「副作用が強すぎて治療が継続できない」という理由から、BSC(Best supportive care:緩和医療)の扱いになると評価された方は、代替補完医療として遺伝子治療を選択することができます。遺伝子治療は、他の多くのがん治療とは異なり、治療を受けることで生活の犠牲が余儀なくされるということはありません。黙って死を待つのではなく、何か可能性のある治療の継続を望む方にはトライする価値がある治療だと評価しています。

5.がんの発症や再発を抑える予防医療としても活用可能

がん遺伝子治療は、がん細胞の数が極めて少ないうちに(画像検査に検出されるずっと前の段階で)がんを超早期に掃討する予防的治療としても意義があると考えています。そのため、がん治療後の再発が不安な患者さんには再発予防としても活用できます。自らは、がん罹患経験はないけれど「親族でがんになった人がいる」「まだ目に見える状態ではないが超早期がんを疑われた」という不安がある方にも予防治療としてご提供しています。

デメリット

遺伝子治療の問題点

遺伝子治療は、多くの難治性疾患に対して有効な治療効果が期待できる、新たな医療技術です。これからの医療として、大きく飛躍していくことは間違いありません。ただし、現時点で遺伝子治療を取り巻く環境には、問題点や解決すべき課題がいくつかあります。

  1. 未承認治療である
  2. 医療連携が難しい
  3. 治療費(薬剤費)が高額
  4. 治療適応を精密に確認する方法が未確立
  5. 不適切な広告がある

1.未承認治療である

遺伝子治療は、21世紀初頭から脚光を浴びている新しい治療法です。そのため、公的な認可に必要な科学的な立証や、治験等のデータがまだ十分に出揃っていません。すなわち、大規模な二重盲検比較試験を経て承認を得たものではありません。

遺伝子治療の中には公的な承認を受けたものも出てきていますが、難治性の固形がん、再発がんなどに対しては、まだ承認されたものはありません。そのため当院で実施している遺伝子治療は、現時点(2022年10月現在)は未承認の治療となります。
どんなに期待できる治療法でも、新しい治療が公的な承認を受けるまでには、相応の時間と多額の費用を要します。ノーベル賞を受賞した本庶佑医師が開発された「免疫チェックポイント阻害剤」は、昨今ようやく治療適応が拡大しているものの、実は考案されてから許認可を受けるまで20年以上の時間を要しました。この事例からも遺伝子治療が許認可を受けるまでには相応の年月がかかると考えられます。

「治療への信頼度」という点では、科学的な立証としっかりとした治験を経て認可を受けた治療法のほうが、未承認治療よりも圧倒的に信頼度は大きいです。

当クリニックでは既に2,000例以上の遺伝子治療を実施し、重篤な有害事象は経験していませんが、今後予期せぬ副作用が発生しないと断言することはできません。どのような医療行為にも言えることではありますが、特に新しい医療を受けるのはゼロリスクではないことを十分に理解することが必要です。

※がん遺伝子治療の副作用やリスクについてはこちらをご覧ください。

この問題に対する阿保義久院長の姿勢および見解

未承認治療であることの限界をよく理解し、万全の注意を払って治療に当たることが大切だと考えています。既にアカデミアの協力を得て科学的根拠の立証に取り組んでいますが、引き続き承認治療への道を拓いていくことを目指します。

2.医療連携が難しい

遺伝子治療を希望される方々の多くは、以下のいずれかに当てはまります。

  • 標準治療を受けたものの、期待できる治療効果が得られなかった
  • 抗がん剤の副作用が強く、その治療を断念せざるを得なかった
  • まだ日常生活や仕事もできる状態なので、がん治療を継続したいけれど、「もう有効な治療法がない」「治験や緩和医療しか残されていない」と宣告を受けた

このような方々には今まで治療を受けてきた医療機関や担当医が存在し、そちらとの関係を保つことが大切です。遺伝子治療を実施するにあたって、私たちはかかりつけ医療機関と協力体制をとることが患者さんにとって極めて重要なことだと考えています。

そもそも、未承認治療である遺伝子治療は、公的に承認されている標準治療を補完する立場で成り立つものです。また、遺伝子治療を行っても、治療効果が症状の部分的な改善や増悪の抑制にとどまり、症状が徐々に進行してしまう可能性もあります。万が一、症状が進行した場合にも入院管理が可能な医療機関の確保が肝要です。

しかし、実際は担当医に「遺伝子治療を受けたい」と相談した際に、未承認治療である遺伝子治療が否定されることも少なくありません。場合によっては「遺伝子治療を受けるのであれば、こちらの医療機関ではもう治療や管理ができない」「自費診療である遺伝子治療は詐欺診療」などと説明される例もあり、患者さんの希望を叶えられないことがあります。標準治療の限界に苦しみ、途方に暮れていた患者さんが、遺伝子治療を受けることで生きる希望と日常生活を取り戻したケースを経験している私たちにとっては、患者さんにとって大切な担当医の方々に本治療が否定されることを極めて残念に感じます。

遺伝子治療を受ける患者さんやご家族の中には、医師・看護師や製薬メーカーに勤めている方など医療事情や製剤に詳しい方も少なくありません。そのような方々は、諸事情を理解された上で遺伝子治療を選択されています。

この問題に対する阿保義久院長の姿勢および見解

患者さんが遺伝子治療を受けることを主治医に反対された場合には、残念ながら当院で遺伝子治療を提供することはできません。過去の医療情報をご共有頂いたくことで、遺伝子治療計画の組み立てがしやすくなるだけでなく、遺伝子治療を受けて頂いた後に治療効果が得られなかった場合、患者さんとかかりつけ医療機関の関係が損なわれていると、患者さんが路頭に迷ってしまうことになるからです。

ただし、患者さんやご家族が治療を希望し、かつ症状が改善する可能性があると判断した場合には、前医からの情報がなくても遺伝子治療を提供しています。

かかりつけ医療機関の担当医の中には、患者さんのお気持ちや立場をよく理解されて、標準治療以外の治療に対して理解を示される方も多くいらっしゃいます。そのような医師とは、とてもスムーズに医療情報の交換ができるので、患者さんにとっても大きなメリットだと感じています。

個人的には、標準治療で治す方法がなくなってしまった患者さんが別の治療を受けることを希望した場合、その治療内容に詳しいわけでなければ、治療を受けることを禁止したり、治療を否定したりする姿勢は、医療倫理に反するのではないかと考えています。ましてや、患者さんが他の医療機関で医療を受けたら「自分たちの医療機関ではもう面倒を見ない」という姿勢は倫理以前の問題ではないのでしょうか。患者さんの最後の生き方や生き様を制限したり、邪魔したりする権利は、どんな医師にもないと思います。

3.治療費(薬剤費)が高額である

遺伝子治療に限らず、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などの新薬は、薬剤費が極めて高額です。

例えば、免疫チェックポイント阻害薬の代表であるオプジーボは当初、年間の治療費が3,000万円ほど必要でした。最近は薬価が下がりその半分以下となったようですが、非常に高額の薬剤であることは否定できません。また、その治療を受けても反応する確率は20%程度とされていることを考えると、なおさら高額である印象を受けます。しかし、オプジーボは公的承認薬のため、条件を満たせば患者さん自身の治療費負担は大幅に減額されます。治療費の大部分は公的資金から賄われるからです。
未承認の遺伝子治療薬も、例に漏れず高額です。生産に多大な手間と時間コストを要するために、患者さんの治療費負担が大きくなります。

自費診療の場合、一般的に1回の治療費は30万円以上(金額は医療機関によって異なります)で、複数回の治療が必要になります。治療の継続や、薬剤の増量をすれば、症状の安定や改善が叶う可能性があったとしても、治療費負担が理由で、やむを得ず治療を断念せざるを得ない場合があります。

遺伝子治療は、抗がん剤のような毒性がなく、激しい副作用が持続することもないので、副作用を理由に投薬量の制限や投薬の中止を行うことはほとんどありません。よって、治療自体は続けやすいものの、治療を継続するほど経済的負担が大きくなってしまうため遺伝子治療を断念せざるを得ないことがあります。

この問題に対する阿保義久院長の姿勢および見解

既に治療法がないと宣告を受けたスキルス胃がんの方で、遺伝子治療により腹水が消え腸閉塞や腹痛などの症状が改善し、ご本人は治ったと感じるほどに回復された方が何人かいらっしゃいました。一方で、治療費負担のために、治療薬の増量や治療の継続ができず、病状の悪化が余儀なくされることもしばしば経験しています。

経済的負担を減らすことができれば、スキルス胃がんのような難治がんを克服できることも可能ではないかと感じることが多々あります。治療費の負担を増やさずに、単位時間当たりの投薬量を数倍から数十倍にできれば、遺伝子治療の治療成果が大幅に改善するのではないかと考え、現在は一刻も早い課題解決の実現を目指して遺伝子製剤の製造元と定期的に話し合いを重ねています。

4.治療適応を精密に確認する方法が未確立

遺伝子治療で用いられるがん抑制遺伝子には、p53、p16、PTENなどいくつかの種類があります。これらのがん抑制遺伝子は、多くのがんで変性ないしは欠落していることが認められているため、これらを投与することは、がんの種類に限らず意味があると考えられています。仮にこれらの遺伝子に異常がない場合に投与しても問題がないことも確認されているので、がんの種類によってこれらの薬剤の投与を制限する必要はありません。

また、遺伝子治療の一つであるCDC6 RNAi 療法がターゲットにしているCDC6タンパクも、ほぼ全てのがんで大量に発生していることがわかっており、適応を絞らずに全てのがんに応用しても問題はないと言えます。

しかし、昨今の医療では、プレシジョン・メディシン(precision medicine:精密医療)と言って「各種がんの遺伝子変異を同定して、それに応じた適切な分子標的薬を投与する医療」という考え方が主流となってきており、遺伝子治療こそ、治療ターゲットが最適かどうかの遺伝子変異を確認し、個人レベルで最適な治療を提供するべきであると言えます。これらを精密に確認する方法はまだ確立されていませんが、こうした治療の最適化により、治療効果のさらなる改善を期待することができます。

この問題に対する阿保義久院長の姿勢および見解

当院では血液検査で代表的ながん抑制遺伝子の変異を同定するなど、より検査精度の高い手法の開拓に努めています。CDC6 RNAi 療法がターゲットにしているCDC6タンパクの過剰発現の有無や、その程度を測定する手法については未確立のため、アカデミアとの共同研究を今後も推し進めていく考えです。ただし、ほぼ全てのがん種でCDC6タンパクの過剰発現が見られることは既知であり、正常な細胞のCDC6タンパクを除去しても特に大きな問題は生じないことから、一定の治療効果と治療の安全性は確保できていると判断しています。

5.不適切な広告がある

遺伝子治療は、難治性の疾患に対して劇的な治療効果が得られたことが契機になって幕を開けました。その後、プロトコール(治療の計画)の吟味が不十分なことに起因した不適切な臨床研究による死亡例や、遺伝子を運ぶウイルス製剤が原因の白血病の発症例など、遺伝子治療の普及のために乗り越えなければいけない障壁がいくつかありました。

2010年頃から、それらの技術的な課題が克服され、現在は全世界的に臨床研究や治験が盛んに進められています。公的に承認される遺伝子治療も生まれており、遺伝子治療はこれから急速に展開していくことが予想されます。

ただし、注意しなければいけないのが、自費診療として普及してきた免疫療法の場合と同様に、治療効果は期待できてもまだ未承認の遺伝子治療薬に関する過度な広告が目につくことです。

科学的見地に基づいた確実な情報を提示することは問題ありませんが、まだ十分立証されていない医学的情報を断定的な表現で提示することは、治療に対する誤解や過度の期待を招くことに繋がります。

不適切な広告例としては、以下のような表現が挙げられます。

  • がんはもう怖くない
  • 進行がんも再発がんも確実に治せる
  • どんなに末期のがんでも治療可能
  • 抗がん剤治療は不要

このような断定的な表現は科学的に誤りで、誤解や過度の期待を招く不適切なものなので、惑わされないよう注意が必要です。

この問題に対する阿保義久院長の姿勢および見解

  • 科学的な見地から、より客観性に富む情報公開を心がけます。
  • 治療の限界や課題についても情報を開示します。
  • 自分たちのサイトや案内に誤解を招く表現や不適切な内容がないか、常に注意します。
  • 外部から広告の問題点を指摘された場合は、速やかに対処し再発防止に取り組みます。

今や、早期がんは、標準治療で治癒できる可能性が極めて高くなりました。しかし、進行がん、再発がん、末期がんは、完全にコントロールすることが未だにできていないのが現状です。遺伝子治療がそのような難治がんをコントロールしていく可能性は十分あると思いますが、現状ではまだ皆さんの期待に完全に応えられる結果は出すことができていません。

ただし、抗がん剤治療のような毒性を持つ治療ではなく重篤な副作用がないので、治療薬の投与量を大幅に増やすことができれば、より良好な治療結果が得られることが期待できます。

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