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「ベクター(vector)」とは、治療用の遺伝子を細胞内に送達する「運び屋」のこと。 通常は、ウイルスやプラスミドなどがベクターとして選ばれます。 ウイルスベクターには、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスなどが用いられます。 ※ウイルスベクターは遺伝子組み換えにより病原性が取り除かれています。

組み換えレンチウイルス(Recombinant Lenti virus)
「レンチウイルス」は、がん遺伝子治療において最高のベクターとされている。

~特長~
・アデノウイルスと違い、導入遺伝子が染色体に組み込まれる
・細胞分裂を繰り返す細胞で、長期にわたり遺伝子治療を発現させることができる
・複数の遺伝子や容量の大きい遺伝子を運ぶ力が大きい
・毒性を持たず、有害な免疫反応も誘発しない

がん遺伝子治療/CDC6 RNAi 療法はその薬剤にウイルスを用います。 ここでは、がん治療とウイルスの関係性について概説します。

《ウイルス療法の歴史》


ウイルスを用いてがん細胞を殺すという概念が生まれたのは、今から100年以上も前になります。
1904年、子宮頸がんの女性が犬に噛まれて狂犬病ワクチンを接種したところ、彼女の巨大な子宮頸がんが消えました。それを受けて他の患者にも狂犬病ワクチン(弱毒化された生の狂犬病ウイルス)が接種されましたが、結局ヒトでの臨床試験では治癒する人はまれでした。
当時は、ウイルス療法のメカニズムが不明であるだけでなく、医師達がウイルスを患者に投与することを心理的に嫌がったため、普及には至りませんでした。 しかし、現在は状況が大きく変わりました。がんやウイルスの理解が急速に進み、遺伝子操作技術も高まりました。
そして、ウイルスががん細胞を攻撃するメカニズムが明らかになってきたのです。そして、副作用が少なく、がんに対する殺傷能力が大きい遺伝子改変ウイルスが開発されました。

《ウイルス療法の研究》


2013年6月の米国臨床腫瘍学会で、悪性黒色腫の進行転移症例に対するウイルス療法の大規模臨床試験の結果が発表され11%の患者が完全寛解(腫瘍が完全に消えること)したことが示されました。
この薬はT-VECと呼ばれ、単純ヘルペスウイルスが使用されていましたが、がん細胞を直接破壊するとともに、免疫系を刺激するタンパクを作り出して免疫系にもがん細胞を攻撃させることができました。
そして、他の治療法に比べて副作用が非常に少なく、疲労感・悪寒・発熱といったインフルエンザのような症状に限られていました。

《ウイルス療法の特徴とメカニズム》


ウイルスの中には正常な細胞を無視してがん細胞にのみ感染したり、がん細胞でだけ活発に増殖したりするものがあります。 これはウイルス療法において非常に重要な性質です。ウイルスはがん細胞内に侵入すると強力にがん細胞を破壊します。
また、そのウイルスは増殖して他のがん細胞にまで感染します。感染時にはがん細胞をバラバラに破壊することもあります。これは細胞溶解とよばれ、腫瘍溶解性ウイルス療法の呼び名はここからきています。さらに、ウイルスはがん細胞をアポトーシスという自殺の過程に仕向けることもできます。

《ウイルス療法の課題》


このウイルス療法は重い副作用の報告もなく、非常に安全ながん治療法として期待されていますが、どのようにして治療奏効率を高めるかということが課題であり、この点ではがん遺伝子治療/CDC6 RNAi 療法と共通していると言えます。
参考: Virus Therapy for Cancer: Scientific American November 2014