腫瘍崩壊症候群

腫瘍崩壊症候群

腫瘍崩壊症候群(しゅようほうかいしょうこうぐん)は腫瘍融解症候群(しゅようゆうかいしょうこうぐん)とも呼ばれ、治療によりがん細胞が短時間に大量に死滅することで起こる症候群です。厚労省からも患者さんや医療機関に向けて下記のサイトで注意喚起されています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000013qef-att/2r98520000013r8d.pdf

当院の遺伝子治療においても、腫瘍(がん細胞)が急激に崩壊した症例をいくつか経験しています。これは、治療が非常に良く効いたことを表しますが、一方で壊れた腫瘍の中から放出された物質が体に有害な影響を与えることがあるため注意が必要とも言われています。特に、最近使用している新しい遺伝子治療薬は単位数が大幅に増え治療効果も増大したので、治療前後に腫瘍崩壊症候群の予防策をしっかりと講じる必要があると判断しています。

そもそも、腫瘍崩壊症候群は、抗がん剤治療や放射線治療などでがん細胞が短時間で大量に死滅することによって生じるもので治療効果があった点では評価されます。しかし、そのために起こる有害事象により生命に関わる場合があるため腫瘍学的には重大な緊急症の一つです。

手術以外のがんに対する治療法(抗がん剤治療や放射線治療)の有効性が増したため、体内でがん細胞が大量に破壊されるケースが増えてきました。そうなると、核酸を始めとした分解産物が血液中に一気に大量に放出され、高リン酸血症、低カルシウム血症、高カリウム血症、高尿酸血症など様々な重篤な病態が引き起こされます。すなわち、心不全、腎不全など緊急対応をしなければ命を落とすことになる場合があります。

この症候群は治療開始後、1224時間で発生することが多いので、特に治療後から数日は尿量が問題なく確保されているか注意を要します。可能であれば、血液中の、LDH値、Na/K/Cl/P/Caなどの電解質濃度、クレアチニン値、BUN値、尿酸値や、尿PH、心電図所見をチェックすることが必要とされています。

発症を予防するためには、十分な水分補給と尿のアルカリ化が必要で、治療中は補液をしっかりと行い利尿(尿を排泄すること)を保つとともに、炭酸水素ナトリウムなどのアシドーシス(高度な酸性状態)是正薬を投与することも大切です。

治療には高尿酸血症治療薬である、アロプリノールの投与が必要で、ラスブリカーゼも治療薬として認可されています。

通常は発生しない偶発症ですが、いったん発生したら重篤化する可能性があるので遺伝子治療を行う際には特に注意が必要です。