【動画解説】「尊厳あるがん治療 CDC6RNAi」④

尊厳あるがん治療・CDC6 RNAi 治療(全6話中第4話)

2020年7月15日開催の院長のオンライン講演会から『尊厳あるがん治療 ④尊厳あるがん治療・CDC6 RNAi 治療』(全6話中第4話)の内容をご紹介します。CDC6 RNAi 療法は、正常細胞が「がん化」する際に過剰発現するライセンス因子を消去して細胞を正常化させる、という今までの治療にはない革新的かつ根源的な治療法と言えます。正常細胞を全く傷つけることなく、がん細胞の無限増殖を止め、がん細胞を自己消去させる、という画期的な治療設計が注目されます。ここでは、本治療の導入経緯、RNA干渉のしくみ、治療メカニズム、がんの種類を問わず治療が有効である理由などについて触れています。

【動画情報】

テーマ:「尊厳あるがん治療」④尊厳あるがん治療・CDC6 RNAi 治療(全6話中第4話)
時間:15分13秒(第4話)
公開日:2020年7月15日
講演者:北青山D.CLINIC  院長 阿保義久(医師)


【このテーマの動画(全6話)】

第1話 ①日本のがんの現状
第2話 ②これからのがん治療 期待と課題
第3話 ③遺伝子治療とは
第4話 ④尊厳あるがん治療・CDC6 RNAi 治療(このページ)
相5話 ⑤CDC6 RNAi 治療経過
第6話 ⑥CDC6 RNAi 治療実績・展望

【全文】

はじめに


最初に申しました「尊厳あるがん治療」これは患者さんの尊厳を保つという意味が込められています。実際に残念ながら末期がんの治療の患者さんたちの有様を見させていただくと、みなさん頑張って治療を受けられているにも関わらず、言い方はちょっと不適切ですが、全身ボロボロになりながら化学療法や抗がん剤治療をやられる方も中にはいらっしゃるのですね。
今は標準治療が非常に研ぎ澄まされてきましたので、患者さんの副作用を無視して治療を進めるということは、ほとんどなくなってはいるんですけど、そうは言っても、治療効果を享受するには、ある程度の副作用を乗り越えなければいけないので、その意味で、患者さん方が生活を犠牲にしたりとか、人としての尊厳を無視されているのではないかと感じるような状況に陥っていることがあるんですね。それに対して、これからご紹介するCDC6 RNAi 療法というのは、患者さんの尊厳、生活の質を落とさないように治療を組み立てることができるという点で我々は評価したわけです。

CDC6 RNAi治療導入経緯


ただ、このCDC6 RNAi 治療は、先ほど色々な新しい治療でご紹介したように、残念ながらまだ治験のレベルまで進んでいない治療です。ですから、未承認治療ということになります。にも関わらず、我々がこれを提供している理由をお話します。
実際にもうかれこれ10年以上前になるんですけれども、南カルフォルニア大学のDr.Luo Fengと木村清子さんという日系人の方が、この治療を開発して、末期がんの患者さんに対して海外で治療を実施していたという事実があったようなんです。
末期がんの患者さんたちが、国内の医療機関でもう治療ができないと治療を放棄、もしくは諦めるような状況で、このLuo Fengたちが考案した治療を海外で受けていた。ところが、本当に治療効果が得られて、今までは治せないというような状態の方々がどんどん症状良くなるものですから、その噂を聞いて何人もの患者さんたちが海外で治療をしていたという事実があったんですね。
その患者さんたちが、あるご縁で我々のところにその治療をコーディネートしているスタッフたちと訪れまして、このような治療を海外で行っているんだけれども、国内でなんとか取り組んでもらえないかと、自由診療という形で医師の裁量で行ってもらえないかという話がありました。最初は我々も面食らいまして、未承認治療で、そうゆう海のものとも山のものとも分からないような治療を、こちらですぐには提供できないと、一旦お断りしたんです。しかし、その後も何人か今治療を継続されているという方々が直接いらっしゃって、我々は海外で治療継続するのは難しいので、何とか日本で治療を続けたいと、末期がんではあるけれども、仕事をしながらまだ生き生きと生き続けていきたいと、そういう夢を、希望を持って治療を進めていきたいという強いメッセージを何人もの患者さんたちから頂きまして、我々も冷静に色々情報を収集してみたんですね。


スキルス胃がん55歳男性の改善例


そうしましたら、まずこの治療によって、このスキルス胃がん、比較的早期のスキルス胃がんなんですけれども、こういう55歳の男性が完全にこの遺伝子治療によって症状が治ったと。この方は今でもご存命です。いわゆるスキルス胃がんという診断があったものが、完全にコントロールされたという症例で、まずこれが代表的な勝利だったんです。それ以外にも、乳がんですとか、咽頭がんですとか、この治療をすることによって、ほぼほぼステージ4という末期がんの状態、進行がんの状態を乗り越えたという方々が何人もいらっしゃるんです。その話を聞いて、いまその治療を実際に進行、取り組んでいる方々の継続治療をこちらで行うということは、医療倫理的に問題はないだろうと、そういう判断をして治療することにしました。それは2010年前後の話になります。


RNAi(RNA interference RNA干渉)


この治療は先ほどの 遺伝子のお話と関連して、どこをコントロールするかと言いますと、RNAiというこのRNA interference、RNA干渉の略なんですが、その遺伝子情報を転写する時のmRNA(メッセンジャーRNA)、これを阻害することによってがんに特異的な振る舞いをするこの遺伝情報をブロックする。このRNAを消してしまう。ちょっと話が複雑ですけれども、外側からこれに反応する特殊のRNAを薬として入れ込んで、ターゲットとなるCDC6というタンパクに対応するmRNAを壊してしまう。そうすると、がんが目的として作りたい物質であるCDC6というタンパクが作られなくなるので、それでがんの悪い性質、細胞分裂とか、無限増殖そういう風な性質を止めてしまう。それが可能になるのではないかということで設計された治療です。


模式図


これは模式図ですけれども、核の中にあるmRNAというものに対して投与した特殊なRNAがくっついて、このmRNAを壊すんですね。そうすることによって、がんが行いたい遺伝情報によるたんぱくの合成が止められるので、がん細胞の悪い性質が消えると、そういう考えです。


RNA干渉


今お話したことを文字で起こすと、RNA干渉というのは、①特殊の小型なRNA、shRNAとかsiRNAという呼び名がありますけど、これをがん細胞の中に導入して、②その対応するmRNAにくっつけて分解する。③mRNA が壊れたことで、そのシステムの中で作られるタンパク合成が遮断される。それによってがんの悪いふるまいが消える。
ちょっと難しい話なんですけれども、要はターゲットは、先ほどの遺伝子のセントラルドグマの中のmRNAの部分を壊すということなんですね。それによって遺伝子、DNAの情報を受けたmRNA、それによって作られるたんぱく、この最終目的であるたんぱくの合成を、mRNAを壊すことによってブロックする。こういう治療ということになります。


細胞内のmRNAまでどうやって届ける?


では、細胞内のmRNAまで薬として働くshRNA(ショートヘアピンRNA)をどうやって届けるんだ?これがもう一つの問題点なんですが、ベクターと呼ばれる運び屋を使います。先ほどウイルス療法のことを、ちょっとお話しましたけれども、この我々が行っているRNA干渉療法でも、実はウイルスをその運び屋ベクターとして用いています。
病原性を取り除いたウィルス、その細胞の中に入り込んでいく力がある性質を利用して、それに薬として働くshRNAを乗せて、つまりウイルスを運び屋として遺伝子、がん細胞の遺伝子の中に送り込みます。


レンチウイルスベクター


そのウイルスで、特に今、有能なものがレンチウイルスベクターといわれるウイルスを用いたベクターになるんですね。レンチウイルス、これは非常に優秀です。まず安全にがん細胞の中に効率よくその有効となる遺伝子製剤を届けることができるということと、その発現が強力でかつ長期間維持できる。それが大きい特徴です。


搭載しているRNA遺伝子


基本骨格をちょっと簡単に書いているんですけれども、レンチウイルスベクター、レンチウイルスの中にも色々な遺伝子構成要素がありまして、この中にCDC6に対応するshRNAというのを載せたり、あと細かい話ですが、がんの抑制遺伝子である P16とかP53とP10というものを載せています。あとはhTERT、これはがん細胞と接触した時にスイッチがはいる特殊な働きを期待してそれも載せています。搭載しているRNA遺伝子というのが、このCDC6のshRNA、他に副次的な要素としてがんの抑制遺伝子、がんの分裂増殖を抑える働きがあると言われている遺伝子も付け加えています。メインとなる遺伝子はこれです、CDC6shRNA。それが以外に、P16、P10、P53と言われる強力ながんの抑制遺伝子も載せています。


RNAiのターゲットタンパク:CDC6


このCDC6タンパクというのを消すためのRNA干渉なんですけれども、これは細胞周期の調節に使われる代表的なタンパクなんですね。正常細胞では細胞分裂の中の一部分にだけ現れるんですけど、がん細胞では細胞周期のすべての時相に大量に存在します。


細胞周期


細胞周期というのは、これちょっと科学の話なんで恐縮ですけど、いくつかの段階があります。G1(ギャップ1)時期からSynthesisというDNAを合成する時期、またG2(ギャップ2)とちょっと休む時期があってこのmitosisという有糸分裂、細胞分裂をする。こういうサイクルを回りながら、細胞というのは1個が2個、2個が4個、4個が8個と分裂していきます。この分裂する中で、特にこのCDC6というのが関わっているのは、この次のステップに入るとき、チェックポイントというのがあるんですけど、このステップにちゃんと安全に入れるかというを見るときに、このCDC6がしっかり機能するかしないかという問題になります。


細胞周期 エンジンを構成する分子群


ところががん細胞は、このあらゆるサークルの中に大量にうじゃうじゃとCDC6があって、どんどんぐるぐる制御なく、この細胞分裂が回っていくという状況になっています。ですから無限に細胞が増殖していく状況です。
ちょっと小難しい話で恐縮ですがこれは何を言いたかったかというと、この細胞周期エンジンを構成する分子群というのは周りにたくさんあって、通常皆、がんの治療薬は、これらをターゲットにしています。ですので我々がターゲットしている、まさにこの骨格の中心になる細胞周期のエンジンの中枢部分を触っているタンパクに影響を加えるCDC6 RNAi 療法というのは、その周辺を触ろうとしている今のがん治療の中でも、かなり特異的な特徴的な位置づけにあるのではないかというふうに判断しています。


CDC6:ライセンシングファクター


このライセンシングファクターというのは、専門的なお話なので、ここではちょっと割愛しますが、このさっきお話した細胞分裂をしていくなかで、このCDC6があると、この細胞分裂のチェックポイントっていうのを、ちゃんと乗り越えることができるのですが、がん細胞はこのチェックポイントというのはまず壊れてくれています。そして、CDC6が大量に作られています。そのCDC6を消してしまうと、本来はライセンス免許証を持っていないので、チェックポイントを通れないはずで、もしこれが通れなければ、それで細胞分裂が止まりますからいいわけですが、がん細胞の中ではこのチェックポイント自体が壊れているものもあるので、そうするとCDC6がない状態のまま本来は通ってはいけないチェックポイントを素通りしてしまいますので、そうするとここでがん細胞がアポトーシスという自殺モードに入って行くことができるのです。


CDC6:ライセンシングチェックポイント


ちょっとこの辺は図が複雑なので、時間的な都合で割愛させていただきますけれども、要は本来はこのようにCDC6というチェックポイントを通るための免許証があって、ここのライセンスシングチェックポイントはそれでいいですよ、しかも、適切な量、適切な時期に、そのCDC6あるからじゃ通っていいですよと通してくれるんですけれども、


がん細胞に豊富なCDC6を除去すると


がん細胞は、そのタイミングが悪い中で、しかも大量のCDC6を持っている。特にこのチェックポイント自体も壊れていることがある。だからぐるぐるこれ(細胞周期)を回っていくということになるんですけど、そのCDC6自体を大量に生成しているのを消してしまえば、本来はここで止まってくれるか、もしくはチェックポイントも壊れてくれていれば、素通りしてしまってCDC6がない状態で次のS期に入っていきますから、そこでがん細胞自体が崩れて、次の層に入っていけずに壊れてしまう。そういう、治療としては好都合な状態を作ることができそれがこの治療の肝なんですね。


ライセンシングファクター抑制時の正常細胞とがん細胞


ちょっと話が難しいかもしれないので、またこちらでもまた簡単に触れますけれども、通常の場合はライセンスイングファクターと呼ばれるCDC6が適切な形で働いていて、チェックポイントというのが機能していますから、これがなければ、これを通過しません。ところがチェックポイントが壊れている多くのがんでは、このCDC6を消してしまうことによって、勝手に素通りしてしまうと自殺してくれる細胞死というモードに入るので、がん細胞が勝手に消えていってしまう。そういう正常な細胞にはダメージを加えずにがん細胞だけが勝手に死んでいってしまうということが治療効果と期待できます。


各種がん CDC6発現


これはある研究所のレポートなんですけれども、各種色々ながんの中で、これだけたくさんのCDC6が発現しているということが分かっています。


CDC6+がん抑制遺伝子投与


ですので、そのあらゆるがんに対して、このCDC6をターゲットとした治療というのは、効果が期待できるという風にも言えます。CDC6を除去することによって、がん細胞の増殖の停止や、あとは上手くいけば、自殺が誘導できる。自殺が誘導できなかったとしても、細胞分裂を止めることができる可能性があるので、老化を引き起こすことができます。すなわちそのままがん細胞が、動かなくなる可能性がある。この3つのポイントが、この治療の本質になります。


CDC6 RNAi治療は本質的ながん治療


がん細胞がどの段階においても発現している、不変かつがん細胞の特異的な性質を治療ターゲットとしているということから、このCDC6 RNAi 療法というのは、今までの治療にはない、本質的ながん治療ではないかという風に言えると思います。
ちょっとこの話は難しくて、みなさん分かりにくかったかもしれませんが、次は具体的な症例に関して触れさせて頂きますので、もう少しお時間お付き合いいただければと思います。