動脈硬化に対する再生医療
【間葉系幹細胞(MSC)治療】
目次
1.動脈硬化とは
動脈硬化とは、血管(動脈)が硬くなり弾力を失う状態を指します。動脈硬化が進行すると、血管の内壁に脂肪やカルシウム、コレステロールなどが蓄積し、血管が狭く、硬く、厚くなります。これにより血流が悪化し、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。 血液中のコレステロールや脂肪などからできた粥状の物質をプラークと言い、プラークが動脈の内壁に蓄積して血管を狭める状態がアテローム性動脈硬化です。プラークが不安定化して破裂すると、漏出した物質が刺激となって血栓が発生し、血管内腔を閉塞することで心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされます。
日本人の食生活が欧米化するに伴い、動脈硬化を原因とする疾患の死亡数は年々増えています。血管は加齢現象が最も反映する臓器であり、血管の老化現象である動脈硬化が進むと、心筋梗塞や脳卒中など生命を脅かす重篤な疾患の発生が現実のものとなり得ます。 いわゆる突然死の原因となる血管病の多くは動脈硬化に起因するため、発症予防と進行抑制が重要です。
2.動脈硬化の主な原因
- 高血圧:血管に過剰な圧力がかかり、血管内壁が傷つきやすくなります。
- 高コレステロール:LDL(悪玉)コレステロールが血管内に沈着し、プラーク(脂肪の塊)を形成します。
- 喫煙:血管が収縮し、血管内皮がダメージを受け、動脈硬化が進行します。
- 糖尿病:高血糖が血管内皮を損傷し、動脈硬化を促進します。
- 肥満:内臓脂肪の増加によりサイトカイン分泌が増え、動脈硬化の進行が加速し得ます。
- 加齢・老化:酸化ストレスの増大などを背景に、細胞・DNAの変性、血管内皮細胞の障害が生じ得ます。
- 遺伝的要因:家族内で発生しやすい場合があります。
3.動脈硬化の進行と影響
動脈硬化が進行すると、以下のような重大な健康問題を引き起こすことがあります。
- 心臓:狭心症/心筋梗塞/心不全/不整脈
- 脳:脳出血/脳梗塞/一過性脳虚血発作/くも膜下出血
- 胸部・腹部:大動脈瘤/動脈解離
- 腎臓:腎硬化症
- 下肢:閉塞性動脈硬化症
4.予防と管理
動脈硬化を予防するためには、健康的な生活習慣を維持することが重要です。
-
バランスの取れた食事(コレステロールを下げる食事を心がける)
・緑黄色野菜を豊富に食べる
・脱水を避ける
・減塩を心掛ける
・動物性タンパクに偏らない
・腹八分
・間食しない
・就寝前3時間は食事しない
・抗酸化サプリメントを利用する -
定期的な運動・休養
・毎日7~7.5時間の睡眠
・週3~5日以上、20分のウォーキング - 禁煙
-
ストレス管理
・毎日20回の深呼吸
・ストレス回避/ストレス消化(趣味重視、瞑想) - 定期的な健康診断(血圧、血糖値、コレステロール値をチェックする)
動脈硬化は、症状が進行するまで気づきにくいことが多いため、早期の予防と健康管理が大切です。 当院では、動脈硬化の度合いを、血管の硬さ、血管壁の厚さ、血液の酸化度、そして血液検査によって評価します。 病的なレベルに達してしまっている方、または病的ではないものの進行が見られる方に対し、再生医療をご提案しています。
5.動脈硬化と再生医療
動脈硬化の発症リスクである高血圧、脂質異常症、糖尿病などに対する治療薬や、血栓の生成を抑止する抗血小板剤・抗凝固剤は複数存在しますが、動脈硬化の改善を直接促す本質的かつ有効な薬剤は未だ開発されていません。 再生医療(幹細胞治療)により、動脈硬化に伴う炎症の抑制や血管新生効果が期待でき、虚血症状の改善を促す可能性があります。
当院では再生医療の適応疾患として 「動脈硬化に対する再生医療」 (および「心不全」「動脈瘤」「糖尿病」についても受理済)を厚生労働省に届け出し、受理されており、治療実績があります。
動脈硬化症が原因となる心筋梗塞や脳卒中など、突然死や後遺症が残るなどの危機的な状況を回避するために最も重要なのは、動脈硬化症を進展させないことです。 それにより心筋梗塞や脳卒中の発症・再発を防ぐことが可能になります。動脈硬化症の進展を抑え、致死的な疾患の発症を予防することが治療の目標になります。
参考文献
- Am J Stem Cells. 2012;1(3):174-181. Experiment model for coadjuvant treatment with mesenchymal stem cells for aortic aneurysm.
- Regen Med. 2014;9(6):733-41. Periadventitial adipose-derived stem cell treatment halts elastase-induced abdominal aortic aneurysm progression.
- J Neurointerv Surg. 2018 Jan;10(1):60-65. Autologous adipose-derived mesenchymal stem cells improve healing of coiled experimental saccular aneurysms.
- Cell Transplant. 2017 Feb 16;26(2):173-189. Human Adipose-Derived Stem Cells Suppress Elastase-Induced Murine Abdominal Aortic Inflammation and Aneurysm Expansion Through Paracrine Factors.
- Stem Cell Research & Therapy. 2022;13:81. Therapeutic efficacy of mesenchymal stem cells for abdominal aortic aneurysm: a meta-analysis of preclinical studies.
- Neurosurgery. 2017 Dec 1;81(6):1021-1028. Protective Effect of Mesenchymal Stem Cells Against the Development of Intracranial Aneurysm Rupture in Mice.
6.間葉系幹細胞(MSC)治療とは
身体の中には組織の修復効果を持つさまざまな幹細胞が存在しており、中でも骨髄や脂肪の中に潜む間葉系幹細胞は再生医療の素材として注目されています。 特に脂肪由来の間葉系幹細胞は骨髄由来のものに比べて以下の優位点があることから、研究や治療に広く用いられるようになっています。
- 幹細胞を抽出できる脂肪細胞は、骨髄細胞に比較して容易にかつ低侵襲に採取できる
- 脂肪由来間葉系幹細胞は骨髄由来と同様の脂肪・骨・軟骨への分化能に加えて骨髄由来にはない筋分化能も持つことが示されています
- 脂肪由来間葉系幹細胞は、細胞形態や分化能は骨髄由来と差異はない一方で、増殖能が強く、増殖に伴う老化の影響や骨分化能の低下が少ないとされています
これらの脂肪由来間葉系幹細胞を、体内から取り出した少量の脂肪から分離し、特殊な環境下で大量に培養したものを、体内(患部)に注射や点滴で送達する治療法を、 間葉系幹細胞治療(幹細胞移植)と呼びます。 間葉系幹細胞治療は、外来治療で対応できる点が評価されており、動脈硬化への期待できる治療として国際的に盛んに実施されています。
7.薬理効果
間葉系幹細胞(MSC)は、動脈硬化に対して、 幹細胞移植による血管新生作用、パラクライン作用、免疫調節作用、抗炎症作用などを通じて治療効果が期待できることが示されています。
8.治療の流れ・費用・リスク
動脈硬化に対する間葉系幹細胞(MSC)治療は、具体的には以下のステップがあります。
- カウンセリング
-
検査
①動脈硬化度 CAVI値(心臓足首血管指数)
②動脈の狭窄度 ABI値(足関節上腕血圧比)
③頸動脈のプラーク肥厚度(IMT値) -
脂肪採取
腹部や膝裏など、3mm程度の切開により米粒大数粒の脂肪を採取(局所麻酔で外来処置) -
間葉系幹細胞の分離・培養
採取した脂肪組織から間葉系幹細胞を分離し、細胞培養加工施設で増殖培養(3~4週間) -
間葉系幹細胞の投与
増殖培養した間葉系幹細胞(目安:1億個以上)を、点滴等により体内へ送達 - 経過観察
治療費用・リスク
費用:165万円(税込)
治療のリスク
- 採血時:穿刺部疼痛、皮下出血、神経障害
- 脂肪採取時:疼痛、感染、皮下出血、硬結、色素沈着
- 培養時:培養遅延、汚染
- 投与時:注射部痛、灼熱感、発熱、悪心、呼吸症状(血栓症)
- 治療後:症状回復遅延、治療効果不足
9.治療適応
脂肪由来間葉系幹細胞(MSC)治療は動脈硬化に悩まれる方に対して治療効果が期待されますが、治療適応は以下を基本とします。
<対象となる主な病態>
-
下記選択基準のいずれかを満たし、動脈硬化性病変を有すると判断される方。
・CAVI値(心臓足首血管指数)≧8.0
・ABI値(足関節上腕血圧比)≦0.9
・頸動脈エコー検査で頸動脈(総頚動脈、内頚動脈)にプラーク(IMT≧1.1)を有する -
以下のいずれかに該当する方。
・心筋梗塞、狭心症の既往がある
・冠動脈CT検査で冠動脈壁不整、石灰化、狭窄、閉塞所見を有する
・脳梗塞の既往がある
・頭部MRI、MRA検査で脳梗塞巣が指摘される
・二親等内の血縁者に動脈硬化性疾患を有する方が2名以上いる
・遺伝子検査で動脈硬化の素因が高いと判断された -
以下の疾患をお持ちで、既存治療(保存的治療、手術的治療)だけでは症状の改善が不十分な方。
・脳梗塞
・心筋梗塞
・閉塞性動脈硬化症
・バージャー病
10.実際の症例
11.治療評価について
>>YouTube(北青山D.CLINIC公式チャンネル)で視聴する
当院では、動脈硬化に対する再生医療(幹細胞治療)を以下を基に評価しています。
- 動脈硬化度:CAVI値(数値が大きいほど動脈硬化の程度が大きい)
- 動脈の狭窄度:ABI値(1以下の場合は血行障害あり)
- 頸動脈のプラーク肥厚度:IMT値(1.1mm以上でプラーク〔病的な状態〕と診断)
下記は、「第9回 北青山Dクリニック特定認定再生医療等委員会」で報告した治療経過の結果です。 25例の治療経過ですが、いずれの検査においても軽度の改善が確認され、本治療は動脈硬化症に対して有効であると評価しています。
1. 動脈硬化度 CAVI値
2. 動脈の狭窄度 ABI値
3. 頸動脈のプラーク肥厚度 IMTmax推移
出典:「第9回 北青山Dクリニック特定認定再生医療等委員会 定期報告書」より