下肢静脈瘤レーザー治療最新事情varixlaser

2011年1月に下肢静脈瘤レーザー治療(980nm)が保険収載され、
それまで自費診療で高額であった負担のかからないレーザー治療が保険診療で実施できることになり、
下肢静脈瘤に悩む多くの患者さんが治療を受けやすくなるという点でマスコミに大きく取り上げられました。
それまでレーザー治療を実施して来なかった医療機関がこぞってレーザー治療を開始するようになり、
保険適用となった980nmのレーザーは国内で数百台も普及して血管外科の領域では近年例のないエポックメイキングとなりました。
しかし、980nmのレーザーによる血管内治療は、
術後の痛みが期待したほど小さくなく、内出血や引きつれ感が相応にあり、
従来の根治的手術であるストリッピング手術に比べて本当に低侵襲と言えるのか疑念が生じたことは否定できません。
そもそも2000年前後から、欧米では下肢静脈瘤の血管内治療としてレーザー治療が開始されていました。
当時、ストリッピングの外来根治手術を考案し実践していた我々は、
より低侵襲の可能性があるレーザー治療の導入を検討していました。
しかし、当時普及していたレーザーは波長が810nmと短く、ヘモグロビン吸収型で、
治療効率が悪く、痛みや内出血などの合併症が相応に発生するので、
自費診療として導入することはできないと判断しました。
2005年前後、
980nmのレーザーと、より高波長の1320nmのレーザーが登場し、
特に1320nmのレーザーは従来のヘモグロビン吸収型ではなく、
水吸収型の要素が加わり、治療効率が良く、
内出血などの術後合併症が軽減されていることが複数の論文で発表されたことから、
国内でいち早くそのレーザーを導入しました。
予想通り、同レーザーによる治療を受けた患者さんの満足度は大きく、
比較的重症な例にも治療効果が得られることが確認されました。
2008年には更に高波長で術後の痛みが少ない2000nmのレーザーを導入することができ、
静脈瘤のレーザー治療は大きくレベルアップしました。
2000nmのレーザーは完全に水吸収型で、組織との反応が良いため、
低出力で十分な治療効果が得られます。
体に加わるダメージが小さく治療後の合併症が少ない、
現存するレーザーの中では最高機種と言えます。
2008年以降は最高波長であるこの2000nmのレーザーを用いて、
重症例や複雑な静脈瘤、他の医療機関ではストリッピング手術でなければ治療できないと判断された大きな静脈瘤にも、低侵襲の血管内レーザー治療により、大きな治療効果を上げています。
そのような中で、2011年にヘモグロビン吸収型の980nmのレーザーが保険収載され上述のような現象が起きました。
我々は、2005年の時点で980nmは採用せず、
より治療効果が大きく合併症が小さいと判断された1320nmのレーザーを使用していたので、
980nmレーザー治療の保険収載で、最新のレーザー治療が保険適用になったという感覚にはなれませんでした。
しかし、
本年中には水吸収型である1470nmのレーザーが保険収載される見通しとなっており、
これは、患者さんにとって福音であると言えます。
1470nmは980nmに比べて水吸収率が大きく、治療効率が良いからです。
しかし、2000nmのレーザーは水吸収率が1470 nmに比べても相当に大きいので、
1470nmのレーザーが保険収載された後も、
最高波長で、高品質の治療を希望される方には、
自費診療にはなりますが2000nmのレーザー治療を提供していく予定です。
レーザーの性能による制限に加えて、保険診療による制約もあるため、
より少ない通院回数や手術中、手術後の痛みの軽減など、
ホスピタリティを含めて高品質の医療を希望される方への治療選択肢を確保することは極めて重要であると考えています。
以下、参考までに、2000nmのレーザー治療の特徴をまとめます。

利点・特徴
・現存のレーザーで最高の水吸収率を有する=組織との反応が最も優れていると言える
・手術時間が短い 
・手術時の痛みは全くと言って良いほど感じない
・レーザーを刺入するための針穴が小さい
・処理が必要な血管が何か所であっても1回の治療で対応できる
→処理する血管の数が増えても治療費は変わらない
・硬化療法が必要な場合はレーザー治療同日に実施できる
・通院日数が少なくて済む
・術後の痛みが少なく回復が早い
・ガイドラインではレーザー適用外とされている重症例にも対応できる
・初診当日治療を行うこともできる(要予約)

欠点
・自費診療となる
2000nmレーザーによる治療の対象となる方
・最高波長の(水吸収率が最も良い)レーザーで治療を受けたい
・できるだけ早い回復を希望する
・通院回数を最小限にしたい(できれば一度の治療で治したい)
・手術中の痛みを最小限にしたい
・術後の痛みを最小限にしたい
・遠方から治療を受けに来る
・初診当日に治療を希望する
・重症例
・複雑な静脈瘤
・他院ではレーザー治療できないと言われた
・見た目の改善も重視している

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会