血管内レーザー治療は本当に非侵襲的かvarixlaser

先月、熊本で開催された日本心臓血管外科学会で下肢静脈瘤のセッションに参加した。
ストリッピング手術、980nmレーザー治療、1320nmレーザー治療に関する治療実績など
複数の演題の中で「血管内レーザー治療は本当に非侵襲的か」というテーマの発表に注目した。
そもそも、血管内レーザー治療は従来のストリッピング手術に比べて体へのダメージが少ないのに治療成績が良い治療として注目を集めた。
しかし、ストリッピング手術でも必要最低限の血管のみを除去する選択的ストリッピング手術が一般的になったことからストリッピングも痛みが軽減されたため、術後の痛みの点ではレーザー治療とそれほど遜色ないのではないか、むしろレーザー治療は残った血管の炎症反応により引き連れ感や張り感などの不快な症状を長く残すので必ずしも優れているといえないのではないか、という見方もある。
それこそ、選択的ストリッピング手術を用いた日帰り手術を最初に考案した我々も、
使用できるレーザー治療器の波長が810nmと短かった頃は、意外にレーザー治療のダメージが大きいことからその導入を見送った経緯がある。
その後、高波長のレーザーが開発され、体へのダメージが小さいことが信頼できる1320nm以上のレーザー治療を積極的に採用してきた(その結果、現在最高波長の2000nmのレーザーを主軸に非侵襲的な治療を行っていることは既に過去のブログで述べた)。
そのような背景があったので、
今さら、レーザー治療は本当に低侵襲なのか?という命題はどうなのかという思いはあったが、冷静に発表に耳を傾けた。
3年前に980nmのレーザー治療が保険収載され一気に多くの医療機関が同レーザーによる治療を開始した事実がある。
以来、術後疼痛を含めた生活の質の点では、ストリッピングに対して980nmのレーザー治療は期待していたのと違ってそれほど優位ではない、という意見が多く出た。
今回の発表でも手術適用や術後管理でその改善が望まれる、ということだった。
現に980nmのレーザーよりも術後ダメージが少なく治療効果が高いことを重視して、
2000nmのレーザーを当院では主軸に使用しているがレーザーの波長による体へのダメージの違いは日々経験している。
すなわち2000nmのレーザーの方が術後の痛みが圧倒的に少なく回復も早い。
また、最近太ももやふくらはぎ周囲の大きい静脈瘤に対しては、
stab avulsion法と呼ばれる 複数の小さい切開をして静脈瘤を直接取り除く治療を主流とする医療機関が増えているようだ。
しかし、これは傷がないことを利点として普及してきた血管内レーザー治療の趨勢に逆行する動きのようにも感じる。
これでは、波長の長いダメージの少ないレーザーを選択しても足に複数の傷をつけるので、
レーザーに対して貴重視されている低侵襲性という点に大きく反することになる。
ストリッピングをして同様のことをするのと大差がない気がする。
我々は、大きな静脈瘤でも2000nmのレーザー治療と硬化療法を用いて
無傷の治療を実践し続けている。
その成果をいずれ学会で公表することも考えている。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会