血管内レーザー治療(レーザー焼灼術)のメカニズムvarixlaser

静脈には逆流を防ぐ弁が分節的に存在します。その弁の中で下肢の内部を走る太い静脈(深部静脈)に合流する静脈の弁が壊れると皮膚の近くにある静脈に血液が大量に逆流します。その逆流した血液がふくらはぎや太ももの血管にたまり、しまいには血管を壊して静脈瘤が作られます。静脈瘤の治療のポイントはこの逆流を止めることになります。レーザー治療では、この逆流血管をレーザーのエネルギーで閉塞させます。細いファイバー状のレーザーを治療ターゲットである逆流血管の中に針で挿入して、血管内でレーザービームを照射すると、血管が収縮して最後には血管の壁の内側が癒着して血管が閉鎖します。自転車のタイヤの空気が抜けるとタイヤがぺしゃんこになるように血管がつぶれるわけです。すなわち、タイヤが血管の壁、タイヤの中の空気が血液に相当します。逆流が止まり、流れ込んでくる血流がなくなると、静脈瘤は徐々に縮小し最終的には消失します。閉塞した血管も最終的には線維化と呼ばれる変化をきたして殆ど確認できない状態になります。いわば体の中に吸収されたかのごとく他の組織に同化してなくなってしまいます。
これが、下肢静脈瘤血管内レーザー治療の概略ですが、逆流血管の中に挿入されたレーザーファイバーからレーザービームが血液中で照射されると、どのようにして血管は閉塞するのでしょうか。
レーザーにより血管が閉塞するメカニズムは複数の説がありますが、現在正しいと考えられているメカニズムは二つです。一つは、血液中のヘモグロビンにレーザーのエネルギーが吸収されると血液が高温になりファイバー先端が炭化してさらに高温(1000℃以上)になってその熱により血管壁が変性して血管内が閉塞するというものです。もう一つは、血管壁の中にある水分にレーザーのエネルギーが吸収されて血管壁自体が縮んで血管が閉塞するという考えです。血管壁の細胞内の70%は水分なので、水に吸収されるレーザーは効率よく血管壁を収縮させます。静脈瘤の治療に用いられるレーザーは、そのメカニズムからして、ヘモグロビンや水に吸収されやすい波長のものが適しています。そして、特に水に吸収されやすい波長のレーザーがより効率よく血管を閉塞させるので治療効果が大きいと考えられています。
現在、下肢静脈瘤の治療に用いられているレーザーの中で、波長が980nm、1320nm、1470nm、2000nmの4種類が代表的ですが、980、1320nmはヘモグロビンと水の両者に吸収されるもの、1470、2000nmは特異的に水に吸収されるものです。そして、水に吸収される力を水吸収係数と呼び、その係数が最も大きいのが2000nmです。
具体的には、980nmのレーザーの水吸収係数を1とすると、1320nmの水吸収係数は 1.5、1470nmは約40、2000nmは約300です。水吸収係数が大きいほど治療効率が良いと考えられますので上記レーザーの中では2000nmのレーザーが最も優れたものと判断しています。
論文やテキストで2000nmのレーザーの成績がベストではないという報告をしているものもありますが、照射出力や牽引速度などが明示されていないので適切な条件で施術が行われたかは不明です。そして、それらの説明においても水吸収係数が大きいものが治療効率が良いと述べられており矛盾しています。

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監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会