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再生医療|「セイビスカス®注」承認 ─当院で膝の幹細胞治療を検討されている患者さんへdoctor-blog

半月板損傷の新しい再生医療「セイビスカス®注」が承認されました
─当院で膝の幹細胞治療を検討されている患者さんへ

2026年5月8日、半月板損傷に対する再生医療等製品「セイビスカス®注」が、医薬品医療機器等法に基づく国内初の製造販売承認を取得した、というニュースが報じられました。

膝の痛みでお悩みの方、変形性膝関節症や半月板損傷の症状を抱えておられる方の中には、このニュースに大きな関心を持たれた方も多いのではないでしょうか。

当院では、自家脂肪由来間葉系幹細胞(MSC)を用いた再生医療を、膝関節を含むさまざまな部位の不調に対しても提供しています。すでに当院で治療をお受けいただいている方、あるいは検討されている方から、「セイビスカスとは何か」「当院で受けられる治療とどう違うのか」というご質問をいただくことが、今後増えてくると見込まれます。

そこで本記事では、このニュースの内容を整理した上で、当院の自家脂肪由来MSC治療との関係について、わかりやすくご説明いたします。


セイビスカス®注とは──ニュースの整理

富士フイルム富山化学株式会社(富士フイルムグループ)が、半月板損傷治療用の再生医療等製品「セイビスカス®注」の製造販売承認を取得した、というのが今回のニュースです。半月板損傷に対する再生医療等製品としては、国内初の承認となります。

どのような治療か

セイビスカス®注は、患者さんご自身の膝関節の内側にある「滑膜(かつまく)」という組織から、関節鏡を使って細胞を採取し、その細胞を培養して増やしたものを、再び関節内に投与する治療です。

滑膜には、間葉系幹細胞(MSC:Mesenchymal Stem / Stromal Cells)と呼ばれる細胞が豊富に存在しており、これが半月板の損傷部位に到達すると、軟骨細胞へと分化したり、滑膜組織を損傷部へ誘導したりすることで、損傷部の修復を促進すると考えられています。

使用されるのは「自家」、つまり患者さんご自身の細胞ですので、拒絶反応や免疫学的なリスクは原理的に低く抑えられます。

どのような患者さんが対象か

セイビスカスの適応は、極めて限定的に絞り込まれている点に注意が必要です。

具体的には、以下の条件を満たす患者さんが対象とされています。

  • 半月板切除術が適応となるレベルの半月板損傷であること
  • 12週間以上の保存治療で症状が改善しないこと
  • 半月板の中でも、特に「フラップ断裂」と呼ばれる複雑な断裂形態が疑われる症例であること

つまり、変形性膝関節症全般を対象とするものではなく、また、軽度の半月板損傷や、初期の膝の痛みを対象とするものでもありません。「半月板を切除しなければならないほどの損傷で、しかも保存治療で改善しなかった、特定の断裂形態の患者さん」というのが、適応の中核です。

臨床試験の結果

セイビスカスの承認の根拠となった臨床第Ⅲ相試験では、上記の条件を満たす19名の患者さんを対象に、治療の効果が評価されました。

  • 膝の機能評価スコア(リスホルムスコア):投与前 38.1 → 52週後 91.6(変化量 53.5、統計学的に有意)
  • MRI画像での半月板修復:73.7%(14/19例)で改善が認められた
  • 104週時点まで再断裂による再手術例なし
  • 治療との因果関係が否定できない有害事象なし

特定の断裂形態の患者さんに対して、半月板の温存と機能改善が、客観的指標で確認された──これがセイビスカス承認の科学的根拠です。


「半月板を温存する」という考え方の重要性

ここで、なぜ半月板を温存することが大切なのか、簡単に整理しておきます。

半月板は、膝関節の中で骨と骨の間に挟まっている、クッションの役割を果たす重要な組織です。半月板が損傷し、痛みや引っかかりの原因となっている場合、従来の治療では「切除術」(壊れた部分を取り除く手術)が選択されることが多くありました。日本では年間約5万件の半月板手術のうち、約半数が切除術です。

切除術は短期的には症状を改善しますが、長期的には大きな問題を抱えています。半月板を失った膝関節は、軟骨への負担が増大し、結果として変形性膝関節症が進行しやすくなることが知られています。変形性膝関節症が重症化すると、人工関節置換術などの大きな手術が必要となり、術後の日常生活にも一定の制約が生じます。

つまり、「半月板を切らないで済むなら、できる限り温存したい」というのが、近年の整形外科領域の大きな流れです。セイビスカスは、まさにこの「Save the Meniscus(半月板を温存しよう)」という考え方を体現した治療と言えます。


当院の自家脂肪由来MSC治療との関係

ここからが、当院で治療を検討されている患者さまにとって、最も気になるところだと思います。

セイビスカスと、当院で実施している自家脂肪由来MSC治療の関係について、誤解のないように丁寧にご説明いたします。

共通点:どちらも「自家・間葉系幹細胞」を用いる治療

セイビスカスも、当院のMSC治療も、患者さんご自身の体内から採取した「自家」の間葉系幹細胞(MSC)を用いるという点では、同じカテゴリーに属する治療です。他人の細胞を使うわけではないため、免疫学的な拒絶反応のリスクは原理的に低く、安全性プロファイルの面では共通の基盤を持っています。

比較項目 セイビスカス®注 当院の自家脂肪由来MSC治療
細胞の由来 膝関節内の滑膜組織 お腹の脂肪組織(0.5〜2g程度)
投与方法 関節鏡を使って損傷した半月板の部位に直接投与 点滴静注(全身投与)、関節内注射、髄腔内投与など症状に応じた多様な投与経路
主な作用 軟骨細胞への分化・滑膜組織の誘導による損傷部位の直接修復 抗炎症・サイトカイン分泌(パラクライン効果)により組織が自ら治る力を後押し
適応の範囲 フラップ断裂など特定の断裂形態の半月板損傷(限定的) 変形性膝関節症、慢性疼痛、動脈硬化、神経変性疾患など多様な領域
制度的位置づけ 薬機法に基づく本承認製品(今後保険診療の対象となる見込み) 再生医療等安全性確保法に基づく自由診療(特定認定再生医療等委員会の審査・承認済み)

違い①:細胞の由来

セイビスカスは、膝関節内の「滑膜組織」から細胞を採取します。当院の治療は、お腹の脂肪組織(0.5〜2g程度)から細胞を採取します。

由来が異なると、細胞の特性も少しずつ違ってきます。滑膜由来のMSCは、関節内環境に最適化されており、軟骨細胞への分化能が他の組織由来のMSCより優れているとされています。一方、脂肪由来のMSCは、採取が容易で十分な細胞数が確保でき、抗炎症作用やサイトカイン分泌(パラクライン効果)に優れているという特徴があります。

違い②:投与する場所と作用機序

セイビスカスは、関節鏡を使って膝関節内の「損傷した半月板の部位」に直接投与します。投与された細胞は、その場で軟骨に分化し、半月板の損傷部位そのものを修復することを目指します。

当院の脂肪由来MSC治療は、対象とする症状によって、点滴静注(全身投与)、関節内注射、難病に対する髄腔内投与など、多様な投与経路を用います。投与された細胞は、損傷部位に集積し(ホーミング現象)、サイトカインの分泌を通じて、組織の修復を支える「環境」を整える働きをします。「組織そのものを置き換える」というよりも、「組織が自ら治る力を後押しする」というイメージです。

違い③:適応となる症状の範囲

セイビスカスは、繰り返しになりますが、「半月板切除術が適応となる、特定の断裂形態の半月板損傷」という、極めて限定された適応に絞り込まれています。これ以外の膝の症状──たとえば、変形性膝関節症や、軽度の膝の痛み、軟骨のすり減りによる症状などには、現時点では適応されません。

当院の自家脂肪由来MSC治療は、変形性膝関節症、慢性疼痛、動脈硬化、加齢に伴う機能低下、軽度認知機能障害、神経変性疾患など、多様な領域を対象としています。膝関節に関しては、変形性膝関節症の症状緩和や、関節内の炎症抑制を目的とした関節内投与をご提供しています。

違い④:制度的位置づけと費用構造

セイビスカスは、医薬品医療機器等法に基づく本承認製品です。今後、公的医療保険の対象となれば、保険診療として、限定された適応の患者さんに対して、限定された医療機関で提供されることになります。

当院の自家脂肪由来MSC治療は、再生医療等安全性確保法の枠組みのもとで、特定認定再生医療等委員会の審査と承認を経て提供される自由診療です。保険診療の対象ではなく、患者さんの自費でのご負担となります。


どちらを選ぶべきか──当院での個別ご相談を

「では、自分の症状にはどちらの治療が適しているのか」──これが、患者さんにとって最も知りたい問いだと思います。

結論から申し上げると、これは個別のご状況によって、まったく異なる答えになります。一般論として整理すると、次のような考え方になります。

セイビスカスの適応に該当しそうな方

半月板の損傷が明確に存在し、画像所見上「フラップ断裂」など特定の断裂形態が疑われ、12週間以上の保存治療を行っても症状が改善されていない場合は、まずは整形外科専門医を受診され、セイビスカスの治療が選択肢となるかどうかを評価していただくことをお勧めします。実際の提供開始時期や提供医療機関は、富士フイルム富山化学からの公式情報をご確認ください。

変形性膝関節症や、半月板損傷の予防的ケアを希望される方

変形性膝関節症全般、軟骨のすり減りに伴う膝の痛み、加齢に伴う関節機能の低下などは、セイビスカスの適応外です。こうした症状に対しては、当院の自家脂肪由来MSC治療が、選択肢の一つとなり得ます。なお、当院での治療は、提供計画ごとに特定認定再生医療等委員会の事前審査を経たものに限り、適応となる病態とご年齢、合併症の状況、ご希望などを踏まえて、医師が慎重に判断いたします。

膝以外の症状も併せてケアしたい方

膝関節の症状に加えて、全身の慢性疼痛、動脈硬化のケア、加齢に伴う機能低下、認知機能の維持など、複合的な健康課題を抱えておられる方には、点滴静注による全身投与のMSC治療が選択肢となる場合があります。当院では、これらの領域でも449名・2,212回の臨床経験と、客観的指標による効果検証を継続的に積み重ねてまいりました。


再生医療の進歩を、患者さんと共に

セイビスカス®注の本承認は、日本の再生医療にとって、極めて重要な前進です。「半月板を温存する」という大きな治療思想の転換を、実用化のレベルで支えるエビデンスが、ようやく整ったことを意味します。関矢一郎教授をはじめとする東京科学大学の研究チームが20年以上かけて積み上げてこられた仕事に、心からの敬意を表します。

再生医療というカテゴリーは、いま、複数の細胞種・複数の適応・複数の制度ルートが、それぞれの時間軸で進化している領域です。当院は、その中で、自家脂肪由来MSC治療という選択肢を、自由診療の枠組みで、安全に・誠実に提供することに、引き続き注力してまいります。

ご自身の症状に対して、どの治療が最も適しているのか──個別のご状況について、ぜひ一度、当院の外来で詳しくお話しさせてください。