膵臓がんとは

  
    

スキルス胃がん・膵臓がんとCDC6 RNAi治療

       
 

膵臓がんとは

1.はじめに

膵臓がん(膵がん)は、代表的な難治性がんです。
がんの根治のためには、早期発見を確実に行うことが肝心です。そのため、ある程度の年齢になったら(一般的には35歳くらい以上)、自覚症状がなくても定期的にがん検診を受けることが大切とされています。
ところが、膵臓がんは、定期検診をしっかり受けている方でも進行がんとして発見されることが多い、極めて厄介ながんの一つです。現代医療の粋を尽くしても早期発見が困難なだけでなく、進行が極めて速いために、治療を施しても長期の生命予後が期待できない、たちの悪い難治がんです。

根治的な治療法は、手術による切除です。しかし、膵臓は解剖的にも、胃、十二指腸、総胆管などに隣接しているため、膵臓がんの発生する場所によっては、これらの臓器を全てもしくは一部同時に切除する必要があります。そのため、膵臓がんの手術は消化器のがん手術の中でも最も難しい手術の一つになります。手術が困難なだけではなく、手術がたとえ成功したとしても再発率が極めて大きいことも特徴の一つで、長期生存率が全てのがんの中で最低です。

このように治療が難しい膵臓がんに対して、さまざまな治療法が開発されています。しかし、その克服にはもう少し時間がかかりそうです。そのような中で、膵臓がんに対してでも遺伝子治療(CDC6 RNAi 治療)は極めて有力な治療法の一つになり得ると思われます。極端に末期の状態にまで進んでいなければ、この治療により実際に症状が改善する例を複数経験しています。

2.膵臓がんとは

膵臓は、胃の背側にある20㎝程の細長い臓器です。膵臓には膵管という細長い管が張り巡らされており、胃・十二指腸・胆管・脾臓に接しています。
膵臓には以下の2つの機能があります。

  • 食物の消化を補助する膵液(消化液の一つ)を産生する外分泌機能
  • 血糖値の調節などをするホルモン(インスリンなど)を産生する内分泌機能


膵臓の位置とかたち: 膵臓は胃の裏側にあり、横長の形をしています。 出典:「膵癌と言われたら」


膵臓と周辺早期の関係 :膵臓から産生される消化液を運ぶ膵管は総胆管と合流して十二指腸に注ぎます。膵臓の右側1/3は膵頭部、左側1/3は膵尾部、その間1/3は膵体部と呼ばれます。 出典:「膵癌と言われたら」

膵臓がんは、50~70歳の男性に多く、高齢になればなるほど発症数は増加します。膵臓がんの90%以上は、膵管の細胞から発生します。これは膵管がんと呼ばれ、膵臓がんとは通常この膵管がん(浸潤性膵管がん)のことを指します。他に、膵神経内分泌腫瘍、悪性膵管内乳頭粘液性腫瘍、悪性粘液嚢胞性腫瘍などの膵臓がんがあります。

3.膵臓がんの原因

膵臓がんの発症リスクとして、以下などが考えられています。

  • 加齢:膵臓がんのみではなく、ほとんど全てのがんで、加齢は発生の危険因子になります。
  • 喫煙:ヘビースモーカーは非喫煙者に比べて、膵臓がんになる確率が2~3倍になります。
  • 病気:糖尿病、慢性膵炎などを発症していると膵臓がんになりやすい場合があります。
  • 遺伝的な要因:先天的に膵臓がんになりやすい場合があります。

遺伝的な要因でなりやすい場合もありますが、喫煙の習慣や、糖尿病や飲酒などが原因となる慢性膵炎など、後天的な要因が関与する場合が実は多いようです。親族に膵臓がんの方がいらっしゃって、糖尿病や肥満傾向があり、煙草を吸う人は要注意です。

4.膵臓がんの症状

膵臓は、胃の背側の深部に位置しているため、がんが発生しても症状が出にくいことが特徴です。また、各種の検査を行っても発見が難しく、早期発見が容易ではありません。
膵臓がんが進行してくると、以下などの症状が見られます。

  • 上腹部痛:食事とは無関係に発生し、背部に放散することが多く、激しい痛みを伴うこともあります。膵体部や膵尾部のがんに多い症状です。
  • 体重減少:膵臓がんは、がんが進行した状態を示す悪液質(栄養不良による衰弱した状態)に陥りやすいため、体重減少が顕著に見られます。膵体部や膵尾部のがんに多い症状です。
  • 黄疸:膵頭部の膵臓がんが大きくなると、胆汁を十二指腸に排泄する胆管を閉塞させて黄疸を来します。膵頭部のがんに多い症状です。

膵頭部がんによる黄疸は、膵体尾部がんによる背部痛や腹痛よりは、早期に発生すると言われています。しかし、黄疸を呈した時点で膵臓がんが周囲の組織に相応に浸潤していることが多く、手術で切除できたとしても、手術範囲が最大規模(体への負担が甚大)となってしまいます。その上、術後の再発率が極めて大きいので、手術を実施する際にはその適応を十分に検討する必要があります。

5.膵臓がんの検査法と診断

膵臓がんの診断に用いられる検査法は、一般的には血液検査、腹部超音波(エコー)検査、腹部CT検査、腹部MRI(MRCP)検査、超音波内視鏡検査(EUS)は限られた医療機関でしか実施されていませんが、精密な評価ができ膵臓がんの早期発見に大変有効です。。単一の検査で確定診断が得られる場合もありますが、正確な診断には多くの場合、複数の検査の重ね合わせが必要です。そのため診断は各種の検査の結果から総合的に行われます。

  • 血液検査
    膵臓がんがあると、血液中の膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼなど)が上昇することがあります。膵管を流れる膵液の流れが悪くなり、膵液に含まれる酵素が血液中に逸脱するためです。
    また、膵臓がんでは糖尿病が悪化することが多いので、血糖値の変動にも注意を要します。
    ビリルビンが高値で肝機能障害が確認された場合は、膵臓がんによって胆汁の流れが妨げられている可能性があります。
    体内にがんが発生することで、通常は血液中に見られない物質が大量に発生することがあります。それらを腫瘍マーカーと呼びます。膵臓がんに対応する腫瘍マーカーとして、CA19-9、CEA、Span-1、Dupan-2などがあります。
    最近では、膵臓がんに関連するマイクロRNAのプロファイルを調べて膵臓がんの超早期発見を目指すリキッドバイオプシー検査も台頭しています。
  • 腹部超音波検査
    人体に無害な超音波を当てて、その反響画像によって状況を判断します。膵臓がんに限らず、腹腔内の病変のスクリーニングに、腹腔内の腫瘍の同定に有用な方法です。
    膵臓がんは、通常黒っぽく見えます。膵臓がんがはっきり見えなくても、がんに閉鎖された部位よりも尾側の膵管が拡張している状況が捉えられることがあります。
  • 腹部CT検査
    CT検査は、治療方針の決め手となる場合が多い極めて大切な検査です。造影剤を使用すると検査精度がより大きくなります。
    造影CT検査では、膵臓がんは黒っぽく写ります。癌自体がはっきり見えなくても、膵管が拡張している状況からがんが同定される場合もあります。
    その他にも、肺、肝臓、周囲リンパ節へ転移の有無、周囲の臓器への浸潤の程度、腹水の有無なども判断できるため、膵臓がんの病期を判断する上で重要です。ただし、放射線の被爆がある程度避けられないのと、造影剤でまれにアレルギーが発生することがあります。

膵臓がん CT冠状断:赤丸の部分に膵臓がんが写っています

膵臓がん CT水平断:赤丸の部分に膵臓がんが写っています

  • 腹部MRI(MRCP)検査
    MRI検査は、強い磁場の中に入って、体内の原子から発せられる電波信号を映像化し情報を得る検査です。被爆がなく、横断面、縦断面、斜断面など様々な断面で画像を描出できます。
    特に、造影剤を用いなくても膵管や胆管のみを描出するMRCP検査は、MRI検査の際に同時に行うことができて、膵臓がんの発見には極めて役に立つ検査法です。以前はERCPという内視鏡的逆行性胆管膵管造影検査が必須でしたが、これは検査負担が大きく、検査の合併症として膵炎や胆管炎が重症化するリスクがあるため、スクリーニングには適しませんでした。MRCP検査は負担がほとんどなく、ERCPとほぼ同様の情報が得られます。そのため最近では、膵臓がんの診断スクリーニングに好んで用いられるようになっています。

MRCP検査:膵臓がんは写っていませんが、膵管の拡張がその存在を示唆しています

  • PET-CT検査
    放射線を放出する検査薬を注射して、その薬が発する放射線を検出して画像化する検査です。
    検査薬は特にがん細胞に取り込まれるように、ブドウ糖に似た放射性物質を結合させています。がんがブドウ糖を良く取り込む性質を利用して、がんの発生部位を同定します。一時、PET/CT検査は、全てのがんを発見できる万能の検査と考えられた時代がありましたが、胃・大腸・膀胱など描出しにくい部位もあるため、実際は、遠隔転移(肺、肝臓、骨などへの転移)の有無の判断や治療後の経過確認のために用いられます。
  • 超音波内視鏡検査(EUS)
    先端に超音波検査のプローブ(エコープローブ)が付いた内視鏡を口から入れて、膵臓に隣接する胃や十二指腸から膵臓のエコー検査を行うものです。
    腹部の皮膚にあてて行う一般のエコー検査の場合は、膵臓が腹部の奥深いところにあるため、十分な画像情報が入手できない場合があります。特に内臓脂肪の多い方の場合、膵臓の描出自体が困難です。しかし、EUSは、膵臓に非常に近い所からエコー検査が実施できるため、膵臓がんを捉えるだけでなく、門脈などの血管への浸潤度などの評価もできます。
    また、この検査中に針を刺して膵臓がんの細胞を取る「超音波内視鏡下穿刺吸引細胞診」も実施できます。これにより、膵臓がんの確定診断やタイプの判別も可能となっています。
    当院では、この「EUS」と「リキッドバイオプシー検査」を駆使し、膵臓がんの早期発見に特化した「膵臓がんドック」を行っています。
    ▶膵臓がんドックページ

6.膵臓がんの生存率(余命)

膵臓がんの余命を推測する指標の一つとして、「5年相対生存率」「10年相対生存率」があります。(※「生存率」と「余命」の違いについてはこちらをご参照ください。)
最近の国立がんセンターの情報によると、膵臓がんの5年相対生存率は、ステージⅠで43.2%、ステージⅣでは1.8%となっています。
罹患率が大きいけれど、早期で発見されれば治療成績が良い大腸がんと比較すると、その差は歴然としています。

また、膵臓がんの死亡率は、年齢構成を一定にそろえた年齢調整死亡率の年次推移を見ると、横ばいかむしろ微増傾向にあります。これは、年齢調整により死亡率が減少傾向にある他のがんと比べて、明らかに異なります。医療の進化により多くのがんが制御されていく傾向にある中、膵臓がんはコントロールされる気配がありません。

このように膵臓がんは最も対処が難しい代表的な難治がんです。そのため、もし膵臓がんが見つかってしまったら、ほぼ絶望的と考えるしかないと思われるかもしれません。確かに膵臓がんは何度も触れてきたように、難治がんの最たるもので、「患者泣かせ、医師泣かせ」の極めて厄介ながんの一つであることは疑いの余地がありません。しかし、膵臓がんは、仮に治療が奏功して少しでも延命していくことができると、他のがん以上にその後の延命期間が延長される可能性もあるのです。

「サバイバー生存率」という、診断から一定年数生存している方(サバイバー)のその後の生存率、という指標があります。これを見ると、膵臓がんは、他のがん以上に生存率の改善幅が大きくなります。例えば、1年サバイバーの5年生存率は、診断から1年後に生存している者に限って算出したその後の5年生存率です(診断からは計6年後)。一般のがんでも、診断からの年数が経過するにつれてその時点での5年生存率は高くなっていきますが、元来、生存率が低い膵臓がんが、診断から5年後サバイバーの5年相対生存率は80%に迫ります。これは、膵臓がんは生き延びるのは難しいけれど、前向きに治療を進めてサバイバーの期間が長くなればなるほど生命予後が急激に良くなることを表しています。

ただし、副作用に耐え抜いて化学療法をやみくもに受け続ければ良いという単純なものではありません。化学療法の毒性が蓄積されると、寿命を逆に縮めることになりかねないからです。そこで、膵臓がんの方には早期から、治療効果が期待できて大きな副作用や正常細胞への毒性がない遺伝子治療(CDC6 RNAi 療法)の導入をお勧めしています。

7.膵臓がんの治療法

膵臓がんの治療法は、他のがんと同様に「手術」「化学療法(抗がん剤治療)」「放射線治療」の3つの方法が主となります。病変の進行の度合い(病期)によって治療法が選択されます。また、新たな治療法として「遺伝子治療(CDC6 RNAi 療法)」が注目されています。

  • 手術
    膵臓がんも他のがんと同様、早期に発見されて手術で完全に切除されることが望ましいです。しかし、膵臓がんは発見時に既に病期が相当に進行して周囲の臓器に広がっていることが多いです。完全に取り除くことが出来ないために、手術が断念されるケースが非常に多いです。体力のない方や高齢の方の場合は、手術の負担が大きいために、手術ではなく放射線治療に切り替えられることもあります。
    また、手術で取り除けると判断されても、腹部を切開して内部を確認してみたら、予想以上に転移が激しく、手術を中止せざるを得ない場合もあります。そして、手術でしっかりと取り除けたと思われたのに、手術後間もなく再発を来してしまうこともあります。
    したがって、膵臓がんの治療は、手術ができない場合はもちろん、手術ができた場合でも、結果として化学療法が主軸治療となることが非常に多いと言えます。
  • 化学療法(抗がん剤治療)
    抗がん剤などの投与により、がん細胞を攻撃して殺したりする治療法です。一般的に副作用が強くなっています。
  • 放射線治療
    放射線を照射することにより、がん細胞を破壊する治療法です。手術の負担が大きい場合は、手術の代わりに放射線治療が行われる場合がありますが、多くの場合は、手術療法や化学療法の補助的治療として行われます。痛みを取り除くために、一時的な緩和治療として行われることもあります。
  • 遺伝子治療(CDC6 RNAi 療法)
    抗がん剤のようにがん細胞を攻撃して殺すのではなく、がん細胞の増殖を止め、がん細胞を老化や自殺に導く治療法です。化学療法と異なり、正常細胞にダメージを与えないため、大きな副作用がないことが特徴です。化学療法などの標準治療と併用して治療することも可能です。

    北青山Dクリニックでは、この遺伝子治療(CDC6 RNAi 療法)を、膵臓がんの方には早期から導入してもらうことをお勧めしています。現に、化学療法や放射線治療と並行して遺伝子治療を受けられた方は、治療の相乗効果が非常に大きくなっており、症状の改善(食欲改善、痛みの緩和)なども得られています。標準治療をやりつくした方でも効果が期待できますが、可能であれば補完治療として標準治療に遺伝子治療を早期から付加することができれば、さらに治療効果が大きくなると考えています。
    ただし、遺伝子治療(CDC6 RNAi 療法)は、未承認治療であり保険が使えないため、治療を続けたくても経済的負担が大きく、続けるのが困難になるケースがあります。2009年にこの治療を開始して以降、私たちは、1回あたりの投与量を増やして治療効果を更に高められよう、また、治療を継続するにあたっての負担がさらに軽減されるよう、製造法の改良に取り組んで薬剤単価を下げてきました。そして日々、治療効果を高めていくのと同時に治療負担を少しでも小さくしていくことに尽力しています。一人でも多くのがん患者さんが、この治療により救われることを願っています。

8.膵臓がんの予防

膵臓がんの発生を抑える一次予防としては、以下のように、一般的に大切と言われている生活習慣の改善が大切です。

  • 禁煙
  • 節酒
  • 適切な食習慣
  • 適度な運動

糖尿病や慢性膵炎の方は、膵臓がんの発症リスクが大きいと言えるので、健常な方に比べて膵臓がんの発生を意識して定期検診をしっかり受けることが重要です。

ただし、「これを行えば確実に膵臓がんの発生を抑えられる」という万全万能の方法は、残念ながらありません。過度なストレスが、膵臓がんに限らず多くのがんの原因の主因である可能性があることを考えれば、上記のことに加えて、日々の生活でストレスをためないよう心掛けることが肝要かもしれません。
当クリニックでは、日常生活の管理の重要性に関する情報提供にとどまらず、点滴や栄養補助食品(サプリメント)で予防効果がある方法も積極的にご案内しています。