再生医療|開業26年 一貫して当院が大切にしてきたことdoctor-blog
2000年開業以来のポリシーを堅持する
再生医療を取り巻く時代の変化の中で、当院が一貫して継続してきた診療姿勢をご説明いたします。
近年、再生医療をめぐって、さまざまな報道がなされています。先端医療として大きな期待が寄せられる一方、不適切な事案や安全管理の課題が指摘される事例も、残念ながら見聞きされるようになりました。
患者さん方から、「実際のところ、再生医療は安全なのか」「本当に効果はあるのか」「クリニックによってそれほど違いがあるのか」というご質問をいただく機会も、以前より増えているように感じます。
こうした不安や疑念の声が増える中で、特別な広報や反論を行うという考えはありませんが、ご相談くださる方々には、当院がこの治療をどのような姿勢で続けてきたのかについてお伝えする必要と責任があると感じております。
本記事では、北青山D.CLINICが2000年の開業から26年間、そして再生医療を提供してきた2019年以降の歩みのなかで、何を大切にしてきたのかを改めてご報告させていただきます。
目次
1. 2000年開業以来、変わらず持ち続けてきた一つの姿勢
北青山D.CLINICが青山に開業したのは、2000年のことです。今年で開業26年目を迎えました。開業以来、当院が一貫して大切にしてきた姿勢があります。
医療にイノベーションを。
日進月歩で進化する医療技術の中から、本当に革新的なものを見極め、安全性と妥当性を自らの責任で十二分に吟味したうえで、医療現場で必要とされる方にお届けする。
法律や保険制度の枠組みは、医療を組み立てる前提条件であって、終着点ではない。
これが、開業の日に心に刻んだ姿勢であり、26年が経った今も、変わらず当院の運用設計の根底にあります。
法律や規制は、最低限の基準として極めて重要なものです。患者さんの安全を社会全体で担保するための、欠かせない仕組みです。同時に、それは「最低限」のものであって、医療機関がさらに自らに課すべき水準は各施設の判断と責任に委ねられています。
当院は、いずれの診療領域においても、「この水準で行えば法的には問題がない」ではなく、「当院として患者さんにご提供したい水準は何か」を、運用設計の出発点に置いてまいりました。これは特別なことではないのかもしれませんが、この問いを毎日の現場で問い続けてきたことが、結果として当院の歩みを形作ってきたように感じています。
2. 再生医療への取り組み──2019年からの歩み
当院が自家脂肪由来間葉系幹細胞治療(MSC治療)の提供を開始したのは、2019年4月です。
再生医療等安全性確保法が2014年に施行され、医療機関が外部の特定細胞加工物製造事業者に細胞培養を委託することが、法的に可能となりました。この外部委託制度は、再生医療への参入障壁を大きく下げる、重要な制度的変化でした。
しかし、当院は2019年の提供開始時点から、別の方針を採りました。
細胞培養は、外部委託せず、当院内に専用の細胞培養加工施設(CPC)を自前で構築し、採取から培養・投与までを同一医療機関内で完結させる──という運用方針です。
これは、外部委託を否定する判断ではありません。優れた製造受託業者は数多く存在し、外部委託の枠組み自体は、業界全体の発展に重要な役割を果たしてきました。
ただ、当院としては、開業以来の「自ら提供する医療は、自らの目で見える範囲に置きたい」という考えに従って、自前運用を選びました。外部委託にすることによる治療費の高騰を避けて患者さんの負担増を回避したいという思いもありました。脂肪採取の場、細胞培養の場、患者さまへの投与の場──これらすべてが、同一施設の中で、同じスタッフの目の届く範囲で、連続的に行われる体制により、治療の質が高まるだけでなく、患者さんの治療費負担も下がるわけですから、この方針を進めることに迷いはありませんでした。
CPCの自前構築には、相応の設備投資、専門技術者の確保、品質管理体制の継続的整備が必要となります。自分たちにとっての経済合理性の観点だけで判断すれば、外部委託のほうが効率的な選択でしょう。しかし、品質管理の透明性、トラブル発生時の迅速対応、培養工程の継続的改善、患者さん負担の軽減──これらの観点で、自前運用には固有かつ特別の意義があると考えてきました。
3. 2025年──日立製モジュール型CPCの併設による二重化
提供開始から6年が経過した2025年、当院はCPC体制をさらに強化する判断をいたしました。
既存の自前CPCに加えて、株式会社日立グローバルライフソリューションズが製造するモジュール型細胞培養加工施設を新たに併設し、CPCの二重化運用を開始したのです。
日立製モジュール型CPCは、ISOクラス7環境を維持する独立したクリーンルームモジュールで、安定した品質管理と、災害時・メンテナンス時のバックアップ機能を提供します。日立グローバルライフソリューションズの公式情報は、以下のURLからご確認いただけます。
https://www.hitachi-gls.co.jp/products/cpc/
CPCの二重化により、当院では以下の運用が可能となりました。
- 二系統のCPCで並行運用することによる、製造能力の安定確保
- 一方のメンテナンスや点検時にも、もう一方で製造を継続できる、運用の連続性
- 災害・設備トラブル時のバックアップ体制
- 二系統間での品質クロスチェックの実施可能性
ここでも、当院の判断の出発点は同じです。「法に求められる水準を満たすこと」ではなく、「当院がご提供したい水準を、運用設計として実装すること」。CPCの二重化は、その方針の延長線上にある、自然な選択でした。
4. 当院が再生医療において大切にしている、5つの実務
CPC体制以外にも、再生医療において当院が日常的に大切にしている実務がいくつかあります。皆さまへの情報開示として、簡潔にお伝えしておきます。
当院では、患者さんご自身の脂肪組織から採取した細胞のみを培養・投与いたします。他人由来の細胞(同種他家MSC、臍帯由来MSC等)や、提供元・製造元の情報が不十分な培養上清液製品の経静脈投与は、行っておりません。
脂肪採取直後から培養を開始する新鮮処理を基本とし、培養期間と継代回数を必要最小限に抑える運用を継続しています。これは、細胞老化や品質変化を抑え、できるだけ若い状態の細胞をお戻しするための運用設計です。
2019年4月以降、当院で実施したすべての治療(2025年12月時点で449名・2,212回・累積553.5人年)を、後ろ向きレジストリ研究として記録し続けています。定期的に統計解析を行い、その結果を特定認定再生医療等委員会に報告しています。詳細は別記事「再生医療の実情と当院の臨床データ解析に関するご報告」にてご確認いただけます。
当院の再生医療提供計画は、特定認定再生医療等委員会の継続審査を受けております。形式的な審査の通過ではなく、計画記載内容と実際の運用との整合性、安全性プロファイル、有効性データの蓄積状況などについて、年次で継続的な評価を受ける体制を維持しております。▶北青山Dクリニック再生医療等委員会
再生医療(MSC治療)が有効性のエビデンスを蓄積している領域と、まだ十分な根拠がない領域とは、客観的に区別する必要があります。当院では、レジストリでの検証で改善が確認されている領域(慢性疼痛、変形性関節症、動脈硬化、加齢性機能低下、軽度認知機能障害など)を中心に治療を提供しており、根拠が乏しい領域での治療提供は慎重に評価の上で実施を検討する方針を取っています。▶北青山D.CLINICの適応疾患
5. 制度と運用、その間にあるもの
再生医療等安全性確保法は、業界全体の品質向上と患者保護のために、極めて重要な役割を果たしてきました。法そのものは、患者さんを守るための「枠組み」を、しっかりと用意してくれた制度です。
ただ─ここからは、当院の率直な見方ですが─「法律によって用意された枠組み」と、「その枠組みを実際にどう運用するか」は、別の問題でもあります。
法は、最低限の基準として、ある形を整えました。その枠組みの中で、各医療機関がどのような水準で患者さんをお迎えするかは、最終的には各施設の判断と責任に委ねられています。
近年、再生医療をめぐって報道される事案の多くは、「法律違反」というよりも、「法律の枠組みの中で、どのように運用してきたか」という、運用側の判断と姿勢に関わる課題が中心です。これは、私たち提供側全体に向けられた、重い問いでもあると感じています。
当院は、特別なことをしているわけではありません。ただ、開業以来の一貫した姿勢として、「制度に求められる水準ではなく、自らご提供すべきと考える水準に従って医療を組み立てる」という方針を、26年間、変えずに続けてきただけです。それを再生医療の領域でも、淡々と実践してきました。
尚、がん遺伝子治療も同様の姿勢で実施してきましたが、これは不本意にも制度・法律の制限により現在一時停止せざるを得ない状況で、がん闘病中の方には多大なるご迷惑とご不安をおかけしております。現在、再開に向けて鋭意作業を進めております。
6. 再生医療を検討される皆さまへ
再生医療を検討される際には、ぜひ複数の医療機関にご相談されることをお勧めいたします。当院での治療をお勧めする趣旨ではなく、再生医療という選択そのものについて、患者さんご自身が情報を十分にお持ちになった上でご判断いただきたいという願いからです。
医療機関を比較される際には、以下のような視点をお持ちいただくと、客観的な評価がしやすくなると考えています。
- 細胞培養はどこで行われているか(医療機関内/外部委託/委託先の情報開示状況)
- 自家細胞のみか、他人由来の細胞も使用するか
- 特定認定再生医療等委員会の継続審査をどの頻度で受けているか、その委員会の運営状況
- 治療実績はレジストリ化されているか、データは公開されているか
- 適応疾患の範囲は、エビデンスレベルに照らして妥当か
- 広告・ウェブサイトの表現は、医療広告ガイドラインに照らして適切か
- 治療提供開始からの年数と、これまでの累積実績はどのくらいか
- 治療費用の設定が明朗かつ妥当か
これらの問いに対して、医療機関側がどれだけ透明に、具体的に答えられるか。それが、信頼に足る運用体制を持っているかどうかを判断する、最も実用的な基準の一つだと考えています。
最後に:冷静に続けるべきことを続ける
再生医療は、これからも進化を続ける医療分野です。技術的な発展、制度の改正、エビデンスの蓄積──これらは今後も継続的に進んでいきます。
そのなかで、当院ができることは、26年前の開業時から続けてきたことを、これからも変えずに続けるだけだと考えています。
- 法に求められる以上の運用水準を、自らに課し続ける
- 細胞培養は、自院の目の届く範囲で行う
- レジストリでの自己検証を継続する
- 適応の境界を誠実に尊重する
- 広告で過剰な期待を煽らない
- セカンドオピニオンを歓迎する
これらは、決して目新しい取り組みではありません。医療を提供する立場として、ごく当たり前のことを、ごく当たり前に続けているだけです。
派手な表現や強い訴求ではなく、冷静に続けるべきことを続ける──それが、26年間変わらない、当院の姿勢です。
ご相談・ご質問は、いつでもお気軽にお声がけください。皆様がこの医療機関と関わることができて良かったと喜んでいただける医療の提供に今後とも努めてまいります。