症例・治療事例CASE
がん遺伝子治療その他
【がん遺伝子治療】症例(3)60代女性 悪性線維性組織球症
2021.11.09
治療前
治療後
ご相談内容 | 2016年3月26日、下肢静脈瘤の日帰り治療で来院(下肢静脈瘤手術は予定通り施術)、待合室でがん遺伝子治療のことを聞き、「この2年間、ずっと死を覚悟してきた」「先生に会ったのが縁だと思って」とがん遺伝子治療を希望されました。遺伝子治療の詳細を説明し、課題、副作用を説明した上で、ぜひ治療を行って欲しいとのこと。 これまでの病歴としては、 2008年5月右上肢に悪性線維性組織球症の診断。7月にがん専門病院で切除、その後、再発局所の追加切除を行った。2011年夏頃には入院にて放射線治療(33回)を行い、以降3-6カ月毎にフォローしていた。 切除した組織を利用して、2011年~2014年には、他院にて免疫療法(樹状細胞療法 活性リンパ球移植治療)も並行して実施。 2年前に再発が疑われ、右上肢切断が必要と言われ通院を止めた。しばらく状態は落ち着いていたが最近徐々に大きくなってきたようだ。右肘関節周囲 径3-5cmほどの硬結。左大腿部から皮膚移植している。 |
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治療方針 | 治療方針は、2か月で60Uの投与を目指す。その後、3~6か月毎に5~10Uで維持する予定。当初は5U/回で、週2回実施。問題が無ければ、10U/回で、週1回とする。 |
治療経過 | 初回、2回目までは、点滴・局所注射で5Uづつ投与し、その後4月~5月まで1週間毎に、6月~12月まで約1か月毎に10Uを継続投与、翌年1月~12月まで約1か月毎に5U~10U、その後は3か月ほどの間隔で5Uで継続した。 |
治療状況 | がん遺伝子治療開始後1年で、MRI上腫瘍陰影は消失、自覚症状もほぼ消失した。現在、治療前にあった疼きや痛み等の症状は全くなくなり、心身の状態は良いとのこと。表情も明るくなり、水泳などの運動もし、行動時間も行動範囲も広がっている。治療開始から約4年半後の2020年10月の右肘関節~前腕、胸部、腹部CT検査結果でも、悪性線維性組織球症の再発はない。骨折した右上腕の慢性疼痛を適用とし再生医療も開始した。 遺伝子治療① 2016/3/28 5U(点滴投与・局所注射)点滴刺入部疼痛なし 遺伝子治療② 2016/4/2 5U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 前回投与直後やや腫れたが、翌日には柔らかくなり元気だった。治療後、2日間はややきつかったが現在は問題ない。術前採血でリンパ球が増えているのが気になる。前回局所注射から2日は局部が少ししぼんだ感じがしたが、3日後には戻った。次回からは、週1回10Uの予定。 2回目投与の2日後、右脇下のリンパ節の痛みと、局所の赤みと痒みがあるとご連絡あったが、ご本人の意思で投薬までは必要なし。 遺伝子治療③ 2016/4/7 10U(点滴投与・局所注射)今回から週1回の予定。 右肘外果にふくらみがある。病変自体は柔らかくなった気がするが、隣接する中枢側に硬い部分あり。体調は良い。元気になった感じがする。→右肘外果の腫瘤は嚢胞 治療に反応性に出現したか? 要経過観察。治療経過は良好。今回予定通り投与。 治療後ご家族よりお電話があり「本日遺伝子治療に一人で行った。帰ってきてから会っていないが、電話で痛いと言っている。大丈夫でしょうか?」と、問合せあり。本日より治療薬を増量して局注していることお伝えし、今後疼痛の増強や腫れ、熱発が起こる可能性があること説明。疼痛に対しては対処療法として手持ちの鎮痛剤を内服して良いとお伝えした。また何か症状が増強、出現してきたらお電話いただくよう説明。 遺伝子治療④ 2016/4/16 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 治療が効いている印象があるとのこと。初回治療時は、右肘の張り感、腫瘍のしこり感、しびれ感などあったがそれらが改善している印象ある。中枢側に一部硬い部分があり気になる。 遺伝子治療⑤ 2016/4/23 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 前回治療後、1日程度は腫脹感、37度前後の発熱があった。その後、速やかに落ち着いた。腫瘍が縮小した感じがある。エコーガイド下に局注実施。 遺伝子治療⑥ 2016/4/30 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 局所は柔らかく目立たなくなってきた。背部の違和感(軽度疼痛?)があり気になっている。局所は昨日あたりから又硬くなったような印象はある。前回投与後、微熱がでて数日倦怠感も続いた。滴下良好。痛み・腫脹なし。エコーガイド下に局注実施。 遺伝子治療⑦ 2016/5/7 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 初回から7回目、2か月間で計60Uの投与になる。しこり感は無くなっている印象だが治療後しばらくすると硬くなってくる印象だが、まだ不安があるとのこと。前回治療時に訴えのあった背中の痛みはもうない。左腕はジンジンすることがある。エコーガイド下に局注実施。以降は2-3ヶ月毎に10U投与する見込みだったが、本人の不安が強いのでしばらく1週間に1回の治療を継続し、6月頃、右肘関節MRIを予定する。肺CTは経過により再プランする見込み。 遺伝子治療⑧ 2016/5/14 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 先日外出した時に体の調子が良く、感動して泣いてしまった。久しぶりに味わった健康感だ。エコー上は局所病変縮小顕著。前回治療後は局所が少し腫れて熱感もあったが、翌日には軽快した。8年間疲れやすくかったのがここ最近調子が良くなってきた。嬉しくて涙が出たと。下肢静脈瘤の左下肢硬化療法後のふくらはぎが時々じんじん痛むため、処方希望。美容医療の予約もしたいとのこと、前向きな気持ちを持たれている。今後は1-3ヶ月毎に治療を実施したい。 遺伝治療⑨ 2016/6/11 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 体調は非常に良い。本当に感謝している。治療前は、全身の倦怠感、疲労感、右肘周囲の痛み、右上腕の異常感覚、右腋窩の痛みなど、苦しんでいた。この治療後それらの症状が解消してきた。現在はほとんど気になることがなく快調。水泳も問題なくできている。自分に余裕がでてきて、家の床のワックスがけができるようになった。顔のしわも気になるようになってきたと。エコーガイド下に局注実施。次回も1ヶ月後に10U投与予定。今回 MRI予定し、MRIの経過を見て、治療頻度を決めていきたい。 ◆2016/6/21 投与後に、ご家族より電話があり、6/11投与後より前回の治療後、発熱、悪心あり。2日くらいで消失したが、その後腫れ、痛みがあり手が上げにくい。次回の治療日は7月9日の予定だが、症状が不安の場合は早めに受診をしてくださいと伝えた。 ◆2016/7/9 MRI結果診断のため来院。前回の注射の後 右肘周囲の痛みが強くきつかった。徐々に良くなってきてはいる。遺伝子治療前のジンジンした症状は良くなっているので治療は続けたいが、量を減らしても良いかと希望あり。 関節周囲著変なし、関節外果、軽度圧痛+という状態を鑑みて、ストレスなくけられた方が良いため、現在の症状が落ち着いたら電話予約して下さいと伝える。次回以降は、計5U/回 投与予定。 ◆2016/7/16 ご親族が来院。母親は気丈にふるまっているが精神的には追い込まれている。治療は続けたい。今後、検査結果など問題がある場合は、先にご親族に伝えてほしいと。再度MRIを供覧。上腕骨の転移巣、原発ともに前回のMRIと比べて著変ない。むしろ境界が鮮明になっている印象。 ◆2016/7/21 8月より治療を再開したいとご連絡があり。前回ご親族来院時、投与量を半分にしたいとのことで、次回治療時点滴を行わず、5Uを局注で投与することは可能か?との問い合わせ。投与量は問題ないが、やはり点滴で全身に入れたほうがよいと伝える。 遺伝子治療⑩ 2016/8/4 10 U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 前回の治療の後、痛みなどつらかった。運動はできているが、箸をうまく使えない。今回はやはり10U投与して欲しいと希望があり、点滴・エコーガイド下局所注射で10U投与。 遺伝子治療⑪ 2016/9/1 10U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) この1ヶ月は非常に快適だった。治った様な印象。ただ数日前から若干の違和感あり。今回も10U希望。 遺伝子治療⑫ 2016/10/8 10 U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 右腕は問題ない。左腕を使いすぎて、左肩が痛い。MRIでは特に著変なし。 次回2ヵ月後治療+MRI予定。問題なければ治療間隔を徐々に空けていきたい。 遺伝子治療⑬ 2016/11/21 10 U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 今回治療予約を早めて来院。予約を早めた時は調子悪かった(局所のジンジン感など)が、その後落ち着いている。調子は悪くない。 遺伝子治療⑭ 2016/12/22 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 上腕になんとなく気になる症状あり。MRI上は 前腕 屈側の腫瘍は消失している。次回1-2ヶ月後で 投与量 5Uでも良いのでは。 遺伝子治療⑮ 2017/1/24 5U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 調子よい。いろいろとやる気が出てきた。患部の痺れや違和感の出現無く、活動後に全身倦怠感を感じることも無くなった。自分では治療間隔を伸ばしても良いと考えているが、家族の薦めで今回来院したと。問題なければDGT4aを10U→5Uへ減量してみたい。と話される。診察し、本日はDGT4a5Uで治療を進めることとなる。 遺伝子治療⑯ 2017/2/21 5U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 快調。幸せを毎日感じている。とても調子がいい、すごくうれしいと。次回はMRI実施。次回投与は1-2ヶ月後に。 遺伝子治療⑰ 2017/3/17 5U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 肘の上の辺りに違和感あり。10Uよりも5Uのほうが1ヶ月間楽に経過する印象ある。MRIでは遠位側は、ほぼ消失。近位側、病変残存あり。 遺伝子治療⑱ 2017/4/24 5U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) あまり状態が良くないとのことで予約を5月から1か月早めた。気温の変化で調子悪くなる。体温高いときは調子がいい、動かしている方がいい。 ※今回から 8a開始 5U/回 次回1~2か月後。 遺伝子治療⑲ 2017/5/19 10U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) この3日間運動(水泳、ジム)していないからか、あまりコンディションが良くない。右の上腕が硬くなった印象とのこと。右腋がビリビリ痛くなっきた。血がめぐってない感じがわかる。3日間運動してないせいもあるかのもしれない。⇒右上腕二頭筋がやや硬化。圧痛はない。 ◆2017年5月 骨折し入院◆ 遺伝子治療⑳ 2017/6/22 5U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) 現在骨折で入院中。痛みは大丈夫であるとのことで投与。 遺伝子治療㉑ 2017/7/22 5U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) 骨折部の疼痛があるため痛み止め内服を希望。(右上肢が)もやもやするから来ないとと思ってたのよねとのこと。次回投与は1~2か月後に電話にて予約予定。 ◆2017/8/24 経過確認のお電話。特に変わりなく過ごしている。◆ 遺伝子治療㉒ 2017/10/3 10U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) 右手骨折の治療が長期化している。「肘のところがなんか嫌な感じがするのよ」と肘関節のあたりが気になる。 本日 8a 10U とする。次回はまた5Uに戻す予定。 MRIが撮れないので時期を見てCT予定。次回1.5~2ヶ月後位をめど。次回投与は電話にて予約予定。 遺伝子治療㉓ 2017/11/27 5U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) 骨折部位は中心は修復してきたが、周りがなかなか戻らない。1W前頃から、疲れた時などに腫瘍部に違和感を感じたり、しこりが触れるような感覚があった。とのこと。次回予約は電話にて。1~2カ月後を目安にとお伝え。 遺伝子治療㉔ 2017/12/11 5U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) 「患部の違和感が気になる。薬が足りなかったみたい。」と。次回投与は電話予約で。 遺伝子治療㉕ 2018/03/08 5U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 美容治療をご要望、パンフレットをお渡しする。次回投与は電話予約で。 遺伝子治療㉖2018/06/12 5U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 元気だが、たまに肘の周囲に違和感を感じるようになってきたので受診した。患部の違和感や、眩暈・立ちくらみといった体調変化を感じた。 遺伝子治療㉗2018/08/21 5U (点滴投与・エコーガイド下局所注射) たまに右肘周囲から腋窩にかけて電気が入ったような感じになる。いつも遺伝子治療をした後2週間くらいは元気で気になる。症状はない。 遺伝子治療をやると楽になり、前向きに元気になりますと。表情明るい。 次回投与同日に実娘様の子宮頸がん遺伝子治療カウンセリングもして欲しいとご希望有り。 遺伝子治療㉘ 2019/2/12 5U(点滴投与・エコーガイド下局所注射) 前回治療後調子はいい。疼痛もほとんどない。水泳などしている。 娘様の遺伝子治療カウンセリングも実施。 CTスクリーニング(腹部・骨盤CT、肺CT、右肘関節~前腕CT)を予定。 ◆2019/10/3 前回の治療より半年を経過したので状況確認のお電話。以前あった疼きや痛み等の症状は全くなく、かなり状態は良いです。まったく不調はありません。行動時間も行動範囲も広がりました。 経過観察の為の検査をご案内、まだ骨折した肘に金属プレートが入っておられるとのことなので前回同様 右肘関節CT・胸部CT・腹部~骨盤CTを3日間に分けて撮影していただくことに。現在集中的に歯科治療をしているため、それが終了してからにしたいので、目途が経ったら連絡するとのこと。その後コロナの状況下となり、来院を保留していた。 ◆2020/10/12 右肘関節~前腕、胸部、腹部CT検査結果。悪性線維性組織球症の再発はない。右前腕は偽関節の状態。骨量の低下も顕著。 体調は非常に良い。毎日プールで泳いでいる。右上腕の骨を回復させたい。再生医療を希望しているとのこと、再生医療を計画し、本日再生医療前診察と採血を行う。遺伝子治療も予防的に実施する可能性もある。後日、慢性疼痛適用で再生医療を開始。 |
治療期間 | 2016年3月~2019年2月 約3年間 |
費用 | 治療総額:5U 27.5万円、10U 42万円。 計28回の治療で治療費 計 973万円(税別)。 ※遺伝子製剤の投与量単位(U:unit)について 遺伝子治療製剤の投与ボリュームを表現する際に ・Titer: 遺伝子を運ぶウイルスベクター粒子の数または感染価 ・ベクターコピー数 などが用いられます。 投与量単位(U)は、当院で便宜上設定したもので公的な基準ではありません。 具体的には、当院で設定している1Uは1.0×10^8(10の8乗)=1億ベクターコピーに相当します。 |
治療のリスク | 大規模な二重盲検試験が実施されておらず未承認治療です。 注射部の内出血、軽度疼痛、一過性の発熱(37-38℃)など、軽微な副作用が生じる場合があります。 |