がん遺伝子治療に関する報道(8月11日読売新聞の記事を受けて)cancergenetherapy

がん遺伝子治療の高額な治療費の問題について報道があったことは記憶に新しい。
今回、またも本治療に関するトラブルに警鐘を鳴らす報道(2017年8月11日付の読売新聞社会面)がありました。

がん遺伝子治療でトラブル相次ぐ
がん細胞の増殖を抑えるとされる遺伝子を注入する国内未承認の治療を行うクリニックで、期待した効果を得られなかったと
する患者側とのトラブルが相次いでいる。効果や安全性が立証されないまま、保険適用外の高額な自由診療で実施するクリニッ
クが問題となっており、専門の学会が国に対策を求めている。
「生きられると喜んでいた夫は、裏切られた思いに突き落とされました」。東京都内のクリニックでがん遺伝子治療を受け、その
後に亡くなった男性患者の妻(49)が取材に心情を語った。
 男性は2014年6月、舌がんが再発し、入院先の大学病院で余命半年と告げられた。息子が何か治療法はないかとインターネ
ットで探し、このクリニックを見つけた。面談した妻に、クリニックの院長(当時)は「ここで命が助かります。遺伝子が変異した状態では抗がん剤や放射線は効かないので、すぐに中止してください」などと説明した。

標準治療が受けられないほど進行したがん患者さんと日々接している立場から、このような報道を目にするたびに極めて遺憾に思います。
「報道が悪い」というのではありません。遺伝子治療を誇大宣伝して患者を集め、過大な期待を抱かせて遺伝子医療を実施している医療機関があることが問題なのです。がん治療を行う上で、標準治療の適用がある場合はそれらの治療を優先すべきです。
遺伝子治療は標準治療を補完する以上のものではありません。

免疫療法が普及し出したときも同様の現象がありました。手術、放射線治療、化学療法に次ぐ第4のがん治療として免疫療法を過大に評価して不適切な治療を提供する医療機関は、残念ながら今もまだ無くなっていません。
遺伝子治療は次世代の治療として国際的に極めて期待されていることに異論を唱える医学者はいないはずです。事実、適切な治療環境で実施されれば、遺伝子治療は安全で難治がんに対しても治療効果が期待できるこれからの治療です。
ただし、遺伝子治療はまだ開拓中でもあり、がんを完全に治せる奇跡の治療法ではありません。常識では考えられないほどの効果を呈することはあるが、未だ試行錯誤の下で慎重に実施されるべきものです。遺伝子治療を提供する場合、医療機関はその治療が未承認治療であること、確立された治療ではないこと、効果は完全ではないことなどをしっかりと患者さん及びその家族に伝えるべきだと考えます。
Dクリニックでは、日本では有効な治療法がないと宣告され、海外で遺伝子治療を受けていた患者さん達から嘆願され、2009年CDC6 RNAi 療法(RNA干渉療法)という遺伝子治療の提供を開始しました。以降、口コミで患者さんが増え続け、現在は情報開示のためのサイトを公開しています。患者さんの多くは、標準治療をし尽くした進行がん、末期がんの方々だが、この治療により劇的な改善を来すケースにしばしば出会う。そのような方々からは心からの感謝の言葉を頂戴することになり、この治療を提供し続けている意義を心に刻むことができます。しかし、中には期待された治療効果が得られず死期を迎えられる方も相応にいらっしゃいます。藁をもすがる思いで期待に胸を膨らませて治療を受けた患者さんやそのご家族に対して期待できる結果を提供できなかった際は、この上ない無念と無力感に苛まれます。それでも、「この治療を是非続けて欲しい。」「故人はこの治療に本当に感謝していた。」「さらに良い治療へと高めてください。」など、残されたご遺族からの励ましの言葉に支えられてこの治療を継続してきました。
今回、がん遺伝子治療に対するマイナスの報道がありましたが、治療現場から見放されたと落胆していた多くの患者さん方が、遺伝子治療により快方に向かい希望に胸を膨らませてこの治療の継続を希望される以上、その提供を止めることはできません。
スキルス胃がん、ステージ4の乳がん、膵臓がんなど、難治がんの方々でも遺伝子治療により回復、延命する可能性があるのは事実です。遺伝子治療は、現代のがん医療の限界に苦しむ患者さん方を救済するための治療と言っても過言ではないと思います。

※参考:CDC6 RNAi 治療を受けたスキルス胃がんの患者さんの生存率
経口摂取困難、腸閉塞、腹水、人工肛門造設、腎瘻造設など、スキルス胃がんによる症状のある患者さんがCDC6 RNAi 治療を当院で受けた後の生存率をグラフにした。症例数はまだ少ない段階ではあるが、一般的なスキルス胃がんの患者さんの経過から考えると生存期間の延長が得られる印象がある。
生存曲線