足にあらわれる血管の病気varixlaser

先日のブログで、ここ最近の下肢静脈瘤外来の患者さんの半分以上が紹介受診であることを書きました。

その際に、下肢静脈瘤以外の足の症状に関してのご相談も見られます。特に動脈のトラブルに関してはしばしば質問を受けることが多いので、今回は足にトラブルがある血管の病気(動脈)について解説します。やや医学的な内容になりますのが興味のある方はご覧ください。

また、「あし」を表現する際に、使用目的に応じて「足」、「脚」、もしくは「肢」という漢字が用いられますが、便宜上ここでは全て「足」に統一して表現します。

◼︎足の動静脈にかかる負担

重力の影響などで足の血管には強い負荷がかかります。足の動脈の血圧は、腕の血圧より通常は高く、足の動脈は他のどの部位の血管よりも血圧による障害のリスクが大きいと言えます。また、動脈で送られた足の血液は組織を還流した後、静脈に回って心臓に戻りますが、その場合も重力により静脈中の血液が心臓とは逆の方向に引っ張られるため、足の静脈内に血液が滞りやすく(これを血液のうっ滞といいます)、足の静脈内の圧力も大きくなりがちです。足の動脈も静脈も相対的に他の動静脈よりも高い血圧により刺激を受けており、軽視できない疾患が発症することが多々あります。

◼︎動脈の血行障害による足の症状と各疾患

まず、動脈の血流障害によって起きる疾患としては、①動脈硬化による末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)、②血管の炎症による「バージャー病」、③心臓や大動脈にできた血栓が飛ぶもの、④膠原病によるもの、などがあります。いずれも血流障害によって生じる足の症状は基本的には同様で、重症度の小さい順に、しびれ、冷え、皮膚色の変化、歩行時の痛み、安静時の痛み、が挙げられます。さらに重症化すると、皮膚が崩れて皮下組織が露出してしまう「潰瘍」や、血流が途絶えて組織が死滅する「壊疽(えそ)」が生じます。①から④についてそれぞれ解説します。

1 末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症)
生活習慣病の代表的疾患で広く知られる「動脈硬化」が原因の足の病気です。高血圧、肥満、糖尿病、脂質異常症などが原因で血管の壁の内側にプラークとよばれる塊が付着することで血管の内腔が狭くなり血流が悪くなります。そのために血栓が発症しやすく更に血行が悪化するという悪循環に陥ることもあります。特に、糖尿病が背景にある場合は重症化しやすく、安易に放置していると難治性の潰瘍から壊疽に至り、最悪の場合には足の切断を余儀なくされることがあります。
このように重症化すると厄介な末梢動脈疾患ですが、この疾患がより重要な意味を持つのは、動脈硬化の早期発見という視点においてです。足のしびれや冷えから、初期の動脈硬化が発見されることがあります。一方で、動脈硬化が進むと心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる疾患が発症し得るということは皆さんよくご存じでしょう。これらの重篤な疾患には予兆がまずありません。心臓や脳を養う動脈が徐々に硬化していく過程で自覚症状はほとんど発生しないのです。知らぬ間に動脈硬化が相当に進んでいくと、その結果として、ある時血管内に血栓が忽然と生じることがあります。生じた血栓が血管内を完全に詰まらせることで血流が瞬時に遮断されます。心筋梗塞や脳梗塞はこうして発症するのです。すなわち、ついさっきまで無症状で元気に過ごしていた方が、心筋梗塞や脳梗塞の突然の発症により急変するということはしばしば見られます。これに対して、前述のように足に症状が出る末梢動脈疾患は、しびれや冷えなどから動脈硬化の発症に気付けるのです。足の動脈に動脈硬化がある場合は、心臓や脳にも相当の確率で動脈硬化が起きています。足の症状を契機に心臓や脳の血管の病変を発見できれば、それ以上動脈硬化が悪化しないように生活習慣を見直すこともできるし、早期にリスク管理することで心筋梗塞や脳梗塞の発症を予防することも可能になります。

2 バージャー病
動脈硬化ではなく、炎症により血流が悪くなる場合があります。遺伝や歯周病の影響で発症するという研究結果はありますが、いまだ原因は不明とされています。足の血管の壁の全層に炎症が生じて、血栓の発症により血行が妨げられ足の指の潰瘍や壊疽が引き起こされます。圧倒的に男性が多く、患者さんの9割以上に明らかな喫煙歴があります。大量喫煙者が多いことや受動喫煙も含めると殆ど全ての発病者に喫煙が関わっている可能性が疑われています。
閉塞性動脈硬化症と異なり、心臓、脳などの血管病を併発しないので命に関わることはまずないですが、禁煙がやめられずに症状が悪化する場合が多く、最終的に壊疽による足指切断やそれ以上の切断が必要になることが多いの特徴です。好発年齢が20~40歳代であるため、就労世代が足を失うことにより生活の質を著しく低下させてしまうことになります。喫煙者が足の冷えやしびれを感じるようになったらバージャー病が発症していないか注意すべきでしょう。初期に発見できれば禁煙によりほぼ完全にコントロールできる可能性があります。

3 心臓や大血管の血栓によるもの
高齢になると心房細動という心臓の震えが慢性的に起きることで心臓内に血栓が発生することがあります。また、腹部や胸部の大動脈が拡張して瘤のようになる大動脈瘤が背景にあると同様に血栓が作られる場合があります。それらの血栓が足に飛んで血管を詰まらせてしまうと急激な血流障害により足の切断が必要になる場合があります。
前述の動脈硬化による末梢動脈疾患や炎症によるバージャー病と異なり、症状が突然発症して重症化するのが特徴です。その点では心筋梗塞や脳梗塞と似ています。

4 膠原病によるもの
末梢動脈疾患やバージャー病は男性に多くは発症しますが、足の動脈の血行障害で女性に多いのが膠原病によるものです。膠原病とは、関節・筋肉・免疫系・結合組織に異常を来す疾患で、中には血管に炎症を来して血行障害を発生させることがあります。
代表的なものは発見者の名前に因んで高安病と呼ばれる大動脈炎症候群で、手の脈が触れなくなるのが典型的な症状ですが、足の易疲労感や歩行時のしびれや痛みなどが生じることがあります。20~30歳代の女性に多く発症します。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会