先天性の下肢静脈瘤の治療についてvarixlaser

北青山Dクリニックを訪れる患者さんの中には、「他院で治療ができないと言われた」、「他院での治療後すぐに再発した」など悩みを抱えて受診される方がしばしば見受けられます。この傾向は、保険レーザーが認可を受け多くの医療機関が下肢静脈瘤治療に着手し出したここ数年で特に顕著となっています。

他院で治療ができないと言われた」患者さんには、先天性静脈瘤である場合が含まれます。

レーザーや高周波による下肢静脈瘤の血管内治療が急激に普及し、患者さんにとって負担の少ない治療が受けられる環境が整ってきました。しかし、このような治療の対象になるのは、血管がボコボコと浮き上がる一般的な伏在型静脈瘤に限られ、生まれつき発症する先天性静脈瘤はガイドライン上その対象になりません。

先天性の下肢静脈瘤は血液の逆流量が一般の静脈瘤よりはるかに多く、さらに背景にある奇形血管は複雑で形態も様々です。そのため、確かに治療が非常に難しく、下手に手術をすると症状が悪化することがほとんどです。果敢な外科医が切除手術にトライした結果、症状が悪化し、再手術でさらに悪化を繰り返すという悪循環に陥った話を良く聞きます。そのため、症状を軽減させる治療さえも提供されず、保存的治療(弾性ストッキングによる圧迫)のみ、というのが血管外科医の常識となっています。

過去に、先天性の静脈瘤に硬化療法(※)を応用したことがあります。硬化療法は注射で行う低侵襲治療で、血行動態を大きく変えず、外科的手術が原因となって起こる血管新生を引き起こすこともありません。その患者さんは、治療後一時的な痛みが発生しましたが、足のだるさや静脈瘤による痛み、静脈の拡張が軽減したのです。しかし、しばらくしてからまた症状が再発してしまいました。

硬化療法で根治できなかったのは残念でしたが、一つのヒントが得られました。 「切除手術では症状が悪化したが硬化療法では軽減した、つまり、外科的侵襲を加えずに弁不全や逆流部分を処置できればアンタッチャブルとされた先天性静脈瘤がコントロールできるかもしれない、血管内レーザー治療はその点で機能するかもしれない」という考えに至ったのです。

先天性の下肢静脈瘤は、我々治療する側にとって極めて難敵ですが、患者さんの苦痛はその比ではありません。その点を忘れないように患者さんに接してきました。悩み悩んで、遠方から受診された患者さんに対して、何とか解決策を講じられないかと言う思いから、最先端のレーザーによる治療にトライしました。 レーザーによる先天性静脈瘤の治療は、処置する血管の本数が、通常2本程度のところ少なくても4~5本になります。血液の逆流量が多いので、レーザーの出力を上げ照射時間も長くします。通常手術の2~3倍の時間をかけて丁寧に治療しました。 すると、先天性の静脈瘤の方の症状が軽減したのです。患者さんは非常に喜ばれました。

その後も関西や九州などから同様の先天性の下肢静脈瘤の患者さんが来院され、同じように治療を行ったところ、ほとんどの方の症状が改善したのです。

血管内レーザー治療は、治療が不可能だと言われた先天性の下肢静脈瘤に対しても功を奏す可能性があります。

今後も、難治性の下肢静脈瘤に対しても、思考を硬化させずに有効な治療法を見出していきたいと考えています。

(※)硬化療法…拡張血管に硬化剤を注射して血管内壁を癒着させて静脈瘤を消去させる治療。側枝静脈瘤など比較的軽い静脈瘤に応用する。

監修医師

院長名 阿保 義久 (あぼ よしひさ)
経歴

1993年 東京大学医学部医学科 卒
1993年 東京大学医学部附属病院第一外科勤務

虎ノ門病院麻酔科勤務
1994年 三楽病院外科勤務
1997年 東京大学医学部腫瘍外科・血管外科勤務

2000年 北青山Dクリニック開設

所属学会 日本外科学会
日本血管外科学会
日本消化器外科学会
日本脈管学会
日本大腸肛門外科学会
日本抗加齢学会